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304. オーガの村 9 (愛のムチムチ)




イシルにとってはたかが、ペンダントかもしれない。

欲しいなら 同じものを買ってくれるかもしれない。


だけど、、

だけどね、イシルさん、

同じものなんてないんだよ?


私はペンダントじゃなくて、その時のイシルさんの気持ちが嬉しかったんだよ?


イシルさんが私のために選んでくれて、買ってくれたペンダントには、イシルさんの気持ちと、思い出が詰まっていた。


そして、私の想いも……





◇◆◇◆◇




「あ、出てきた、、げっ!」


休憩室から出てきたサクラとイシルを見てアスはおののく。


「なんだ、アスとヨーコさん来てたんだ~」


サクラが 二人を見て陽気な声をあげた。

治療が終わったようで元気はつらつ、、なのだが……


(何なの!!この異様な空気は!?)


イシルはすこぶる機嫌が悪い。

まあ、サクラが 使ってほしくない魔法を使った上に怪我して帰ってきちゃ機嫌も悪かろう。


そしてサクラも、、陽気な振る舞いとは裏腹に ドロドロとした感情が渦巻いている。


これは……


(喧嘩した?)


いや、これだけ腹にためているのだ、喧嘩にならなかったのか。


(一歩手前てとこかな)


しかし、なんて、、


(なんて美味しそうなの!?)


アスはゴクリと喉をならす。


憤りと後悔、自責、愛しさと切なさ、心配と懸念、、

イシルの中で渦巻いている感情。

ああ、Très bien(トレビア~ン)!素晴らしい!

苦味の中に旨味が隠され、味わいが深くて、クセが強くて、、

また新たなイシルの味力(みりょく)


(ハァン、、酔えそう///)


アスはその味わいに打ち震える。

そしてサクラは、、


(なんなの、これ!?)


サクラは匂いしか味わえない。

抑圧され、押し込められているが、漏れてくる濃厚な香り、、

圧力鍋の中でぎゅっ、、と凝縮されるような旨そうな香り、、

はう~ん///是非とも味わってみたい!

思わず舌なめずりしてしまう。


「はふぅ///Fan(ファン)tastique(タスティック)!!」


アスは心の声を表に出してしまい、イシルに睨まれた。

『喰うな』と。


「ヨーコ、話がある」


イシルはヨーコに呼びかけると、連れ立って表へと出ていった。


「アス」


「ん?なあに?子ブタちゃん」


今ならサクラの言うことを何でも聞いてしまいそうだ。

ああ、うっとり///


「……うざい」


サクラがサクラに顔を寄せて匂いをかぐアスの顔をぐいっと押しのけた。


「ああ~ん、意地悪ぅ」


ああ、食べたい!!

雑味のない複雑な味わいは 純粋さを残したままの蠢く感情。

純愛よ!純愛!!

相手を思いやる気持ちが落し蓋のように蓋をして 味が染み込む、染み込む……

憎しみのない怒りって何!?

やはりサクラとイシルはセットで味わいたいなぁ……


サクラはアスを追い払うと、座っているルヴァン、トトリ、カナルを見て 笑顔で話しかけた。

イシルとのことは保留にしたようで、感情の匂いが引っ込んでしまった。

アスは残念に思う。


「治療してもらったんだね」


「……」


サクラの問いに ルヴァンの返事はない。

ガキ大将のボスが答えないのだからトトリとカナルも答えない。


「ご飯も、食べたんだ」


三人の前の すっかり空になったラーメン丼を見て、サクラが声をかける。

が、やはりルヴァンはだんまりだ。


「シャナさん、ありがとうございました」


サクラがルヴァンたちのかわりにシャナに御礼を言う。


「大したことしてないわ」


シャナが立ち上がり、丼を片付けようとした。


「ルヴァン、トトリ、カナル、自分で片付けて」


サクラが三人に自分が食べたものの始末を言いつける。

が、ルヴァンはふいっ、と 顔を背けた。

トトリとカナルは戸惑っている。


″ピキッ″


(あ、なんか今音がした)


アスは面白いものを観るようにサクラを見る。

サクラの笑顔が深くなる。


「シャナさんに御礼は言ったのかな?」


「……頼んだ覚えねーし」


″ピキピキッ″


さらにサクラの口の両端があがり、超笑顔になる。


「なあ、もう行っていいか」


″ピキピキッ、、ブチッ″


(あ、キレた)


「仏の顔も、、三度までじゃゴルアアア!!」


「「うわーっ!」」


サクラはルヴァンをひっつかんだ。


「放せよ!」


サクラは暴れるルヴァンを掴んだままアスに呼びかける。


「アス、二人を逃がさないで」


「はーい♪」


アスは立ち上がると 出口の前に立ち、外への逃げ道を塞ぐ。

サクラはルヴァンを掴んだまま椅子に座ると、サクラの膝の上にルヴァンの体をうつ伏せに抱え 背中をを押さえつけ、動きを制限した。


「何すんだよ!放せよ!」


膝の上でルヴァンが子ヤギのようにじたばたする。


「口で言ってもわからん悪い子には……」


サクラは手の平に はぁ~っと息を吹きかける。


「オシオキじゃ!」


ルヴァンは『殴られる』と、庇うように両手で頭を抱えた。


″ぱ――――ん!!″


大きな音と共にサクラの平手打ちが ルヴァンのお尻に炸裂する。


「いっってぇええ!!」


予想外の場所に予想外の痛み。


「悪いことしたら『ごめんなさい』だよ、ガキんちょめ!交通事故じゃないんだから謝ったら負けとか変なすりこみされてんじゃないよ!」


もう一発


″べち――――ん!!″


「うわっ!」

「うひゃあ!」


大きな音に見ていたトトリとカナルが身をすくめる。


「ひいいっ!!」


ルヴァンの口からも呻きがもれる。


「私の手の平はイタイだろう?肉厚だからね!むちむちのムチだ!人から受けた優しさには『ありがとう』て言うのよ、このバカちんがああぁ!!」


″すぱあぁ――――ん″


どちらかと言うと恥ずかしさに堪えきれずに、とうとうルヴァンは観念した。


「ごめんなさい!もうしません!」


「よし」


サクラはルヴァンを解放する。

が、サクラは 解放した後もまだルヴァンを見ている。


″はぁ~……″


ルヴァンはサクラが手の平に息を吹きかけるのを見て、あわてて自分が食べたラーメン丼をもつと、シャナの前に行き――


「……ごちそうさまでした、ありがとうございましたっ!」


そう言って台所へ消えた。


次にサクラはトトリとカナルを見て、手の平にはぁ~っ と 息を吹きかける。


「ひっ!」

「うわぁっ!」


「「ごめんなさい!ごちそうさまでした!ありがとうございました!」」


サクラはにっこりと笑う。


「うん、良く言えたね」


サクラの笑顔に トトリとカナルは ほっと胸を撫で下ろす。

が、、


「一発ずつで勘弁してあげる」


「ひいいっ!」

「うわああっ!」


″スパ――ン″

″スパ――ン″


しっかりとサクラからのオシオキを受け、トトリとカナルもそれぞれ自分の食べた丼を手に台所へと消えた。


「あっはっはっは、、」


アスは大笑い。

笑顔で尻を叩かれるとか、、あの子達、トラウマ決定だわ。





◇◆◇◆◇





「返して」


サクラはルヴァンに ちょうだい と、手を出した。

ルヴァンの尻を叩いたサクラの肉厚な手。

むっちむち。

その手は 赤くなっている。


「オレは持ってねーよ」


「そう」


サクラがトトリを見る。


「なあ、」


ふと、ルヴァンがサクラに呼びかけた。


「何で手で叩いたんだよ」


「え?」


あんなに赤くなってるんだからサクラだって痛いだろう。


「棒とかで叩いた方が効き目あるだろう」


実際は音が大きいだけで、叩かれた尻は今もヒリヒリはしてるけど、いつも殴られるよりも痛くはなかった。

叩いた場所だって、顔や頭、腹とか急所じゃない。

一番ダメージの少ない尻だ。


「叩く人はさ、叩かれる人と同じだけ痛くないとダメだと思うんだよね」


「意味わかんねーよ、叩く方は痛くねー方がいいだろ」


硬いげんこつ、丈夫な靴を履いた蹴り、棍棒、剣の柄、ホウキや鍋やフライパンだってここにはある。


「今の君にはわからないよ。でも、、そのうちきっとわかるよ」


「変な女」


「いいよ、変で」


サクラはトトリに向き直り、ルヴァンにしたように ちょうだい

と 手を差し出した。


「さあ、トトリ、返して」


トトリもサクラの手を見て、赤いな、と思う。

トトリは サクラが言ったことが ちょっとわかる気がした。

自分が我慢できない痛さは 相手が我慢できない痛さだ。

だからサクラは 素手で叩いた。

げんこつではなく、柔らかい手の平で。

きっとサクラの手も トトリのお尻と同じくらいジンジンしていると思う。


この人は きっと『痛み』のわかる人だ。

理不尽な痛みを与え続けられた トトリ達の辛さを わかってくれる人。


「もう、渡しちゃったよ」


「え?」


トトリに言われて サクラはアスを見るが アスはさあねと肩をすくめた。

じゃあ、と シャナを見るが、シャナも自分じゃないと首を横に振る。


サクラはトトリに向き直り、もう一度確認した。


「誰に?」


「エルフのおじちゃんに」


「え?」


サクラの顔がひきつる。


よりによって、そこ!?











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