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301. オーガの村 6 (トトリの願い)




『サクラさん、起きてください』


柔らかなイシルの声がサクラを揺さぶる。


『サクラさん』


優しく、慈愛に満ちた 包み込むような声。

ふふふ。

それじゃあ子守唄ですよ、イシルさん。


『起きて、サクラ……』


もっと聞いていたい。

ずっと聞いていたい。


「う~ん、、もうちょっと、、」


サクラは違和感をおぼえて目を覚ます。

布団にしては寝心地はよくないし、イシルの姿は見えない。

ていうか、真っ暗だ。

なんだか湿った土の匂いがする。


「いてててて……」


確か、森で子供達と一緒に滑り落ちて――


サクラは身をおこす。


″ゴチン″


「あいたっ!」


どうやら穴の中のようで 頭を打った。

暗くてよく見えない。


すぐ隣で、ぽうっ、と、蝋燭の光程の灯りが灯り、男の子の顔が見えた。


「カナル、大丈夫か?」

「うん」


小さい子が『カナル』

青いコートの男の子が『ルヴァン』


「トトリが助けを呼びに行ってるはずだから、心配すんな」

「うん」


一緒に落ちなかった赤いベストの男の子が『トトリ』


ルヴァンが小さな弟分カナルを励ましている。

なんだ、いい子じゃないか。自分だって怖いだろうに。


ルヴァンは火魔法を使えるらしく、蝋燭程の灯りは ルヴァンの魔法によるものだった。


小さな穴は何かの巣穴なのか、自然に出来た空間なのかわからないが、立ち上がることは出来ない高さで、三人でいっぱいだった。

大きさ的には少し広い押入れくらい、かな。

幸い、ほの暗いせいで全貌は見えず、それほど窮屈には感じない。


「ルヴァン、、でいいかな?名前」


サクラが 青いコートの男の子に聞く。

ルヴァンはサクラをチラッと見ただけで返事はしない。


「火、消してくれる?」


「何でだよ、顔が見えないとカナルが怖がるだろ」


サクラは、落ちた方向を見つめている。

サクラ達が落ちてきた穴の入口は土砂で塞がっていた。

閉じ込められてしまったようだ。


火が使えるということは、変なガスとかは出ていないようだ。

爆破とかしなくてよかったよ。

ただ、気になったのは、火に揺らめきがないことだ。

火に揺らめきがないということは風が通っていない。

空気が停滞している。

火魔法の原理はわからないが、現世と同じなら、このまま炎を燃やし続ければ空気が薄くなるんじゃないか?


サクラは生活魔法を使い、電気の玉を出した。


「これで、いいでしょ?」


「小っせえ光だな、ダサっ」


相変わらず小生意気な口を叩きやがる……

よしよし、元気そうでなによりだ。

外に出たらみてろよ、オシオキしてやるからな。


サクラが作り出したのは 小さな豆電球ほどの光だが十分だろう。

ルヴァンは火を消すと ほっと息をついた。

魔法を使うのにも力がいる。

まだ魔法を使うのに慣れていないようだ。


ルヴァンも、カナルも、寒さのせいか、怖さのせいか、少し震えていた。


「おいで」


サクラは二人に手を差し出す。

二人は戸惑っている。


「助けが来るまで元気でいないといけないでしょ、私、寒いの。だから、私を助けて」


まずはカナルがサクラに抱きつき、ルヴァンも カナルを挟んでサクラに抱きついた。


カナルがぎゅう、と しがみついてきたので抱きしめ返す。


「おかあさん……」


カナルの言葉にルヴァンがきゅっと身を固くした。


ルヴァンがパニックを起こして騒がないのはカナルを心配させないためだ。

そして、サクラが冷静でいられるのは この子達がいるから。

人は守るものがいると強くなれる。


さて、どうするか、、

ここにランは呼べない。

ランが脱出の(すべ)を知らなければ ミイラ取りがミイラになる。


トトリが助けを呼びに行っているだろうが、いつ来るかわからない。

助けが来るまで待つか、それとも……


(考えるまでもないか)


使える力、今使わずしていつ使う?

使わなければ宝の持ち腐れ。

そんなの無いのと同じだ。


サクラは小石を拾うと 壁に絵を描き始めた――





◇◆◇◆◇





「大変だ!ルヴァンとカナルが!!」


トトリはオーガの村の入り口に 自分達の馬車を見つけ、助けを求めて走りよった。


「どこいってたんだ、トトリ もう出発するぞ」


父親風の男、盗賊団のボスであるマフガインが 早く乗れとトトリを急かす。


「マフ、大変なんだ、ルヴァンとカナルが森で穴に落ちちゃって、、」


マフガインはチッ、と舌打ちした。


(面倒かけやがって)


「助けてよ、マフ」


「ああ、助けてやるから乗れ」


「うん!」


トトリは急いで馬車に乗り込む。


″ピシャッ″


鞭がうたれ、馬車が走り出した。


「えっ?」


アザミ野町に向けて。


「マフ、二人が落ちたのはこっちじゃなくて……」


二人が落ちた穴はドワーフの村の方なのにと、トトリが狼狽える。


「いいんだよ、()()()は次の町で調達するから」


「え?」


「おめでとう、トトリ、()()あんたがボスさ。ちゃんと()()()んだよ?」


踊り子のテレサがきゃははと嗤う。


「そんな……」


じゃあ、ルヴァンとカナルはあのまま……


「お願いだよ!助けに行ってよ、マフ!」


トトリはマフガインにすがりついた。

あのままだと二人は死んでしまう!


「うるせぇな!」


″ガツンッ!″


「あうっ!」


トトリは頬をマフガインに殴られ 馬車内の荷物にぶち当たり 脇腹をしこたま打って、その場にうずくまった。

口の中が切れたのか、血の味がする。


「ううっ、、」


「お前らの代わりなんざいくらでもいるんだ。痛い目みたくなきゃ大人しくしてろ!」


(どうしよう、、このままじゃ二人を助けられない)


トトリは 低くしていた体を一気にのばし、足を走らせ、後方にいるテレサを突飛ばし――


「きゃっ!」


馬車の外へとめがけた。


「クソガキがっ!」


起き上がり、手を伸ばすテレサに襟繰りを掴まれる


が、、


″ベストのボタンは閉めないのが常識だよ″


ルヴァンがはじめにトトリに教えてくれたことだ。


″するっ″


トトリはテレサに掴まれた赤いベストを脱ぎ去ると、走る馬車から飛び降りた。


「あうっ!」


転げ落ち、手のひらや膝を擦りむく。

ヒリヒリと鈍い痛み。

しかし、トトリは素早く立ち上がり、オーガの村へとかけ戻った。


(オレが捕まったら ルヴァンとカナルはあのままだ、オレが助けを呼ばなければ ルヴァンとカナルはあそこで――)


じんわりと涙が溢れてくる。


「助けて、、」


オレが助けを呼ばなくちゃ!


幸い馬車は引き返してくる様子はない。

トトリもろとも見捨てたようだ。


「誰か、助けて!」


トトリは泣きながらオーガの村の門を入り、人を探す。


そうだ、あそこ!いつも男の人がいっぱいいるところ、、

トトリは目当ての建物めがけて走り、飛び込んだ。


「助けてください!」


トトリが飛び込んだのは シャナの麺工房。

トトリは麺工房に飛び込むと、地に膝間づき、頭を地につけて 声をはりあげ、お願いする。


「助けてください!お願いします!助けてください!!」


麺工房の中にはシャナと シャナの弟子の男達と サクラを探してやって来たイシルがいた。


「助けて、助けてください、何でもします!お願いします!」


突然飛び込んできて 泣きながら 必死で懇願するボロボロの子供に、その場にいたものは面食らって動けずにいた。


「お願いします!お願いします!」


叫びすぎてかすれる声、それでもトトリは頼みつづける。


「ううっ、助けて……」


イシルがトトリの側にしゃがみこみ、トトリの顔をあげさせた。


「助けて、ください」


トトリはイシルの顔をみると不安そうにすがりつく。


「何があったんですか?」


トトリの顔は涙と 土でぐしゃぐしゃで、イシルは眉をひそめた。

トトリの頬には殴られた痕があったからだ。

手や足にも擦り傷がある。


「助けて、、ルヴァンとカナルが、、」


イシルは話を聴きながら トトリにクリーニングの魔法をかけ、治癒魔法をかけた。


「お友だちが穴に落ちたんだね」


「うん」


「大丈夫、助けてあげるから 安心して」


「ありがとう、ありがとう!ありがとう!!」


安心したのか、トトリはわんわん泣き出した。

そして、泣きながらトトリはズボンのポケットから小さな飾りを取り出し イシルに見せる。


「うぐっ、これを持ってた女の人が、、一緒に、、」


「!?」


イシルはトトリの手からそれを受け取り、見て驚く。

それは イシルがサクラにあげた白バラのペンダントだった。


(これを探しに行ったのか、サクラさんは)


イシルはペンダントを握りしめた。

早く助けに行かなくては。


「案内してください」


「うん!ドワーフの村の方へ行く道だよ」


イシルはトトリを抱き抱え、ドアへと急ぐ。

その場にいた男達も 一斉に助けに向かおうとした。


が、、


イシルは後方に異質な力を感じて振り向いた。


「何だ?あの光」


シャナの弟子の一人がイシルの見た方向、奥の休憩室の扉がキラキラ光っていることに気づいた。

それを受けて全員が立ち止まり、視線が 光の集まる休憩室に続く扉に集中する。

銀色の光の粒が舞い、扉へと集中し、扉全体を銀色に包んだ。


「この光は……」


イシルはこの光を知っている。

これは――


″ひょいっ″


「うわっ!」

「なんだ!?」


手だ。

銀色の光の中から手が現れた。

空中に肘から先だけ出た手が そこに何があるか 周りを探るように ふよふよ動いている。


「サクラさんっ!!」


イシルはトトリを下ろすと その手にかけより、その腕を掴むと 思いっきり引っ張った――















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