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296. オーガの村 2 (麻婆豆腐)




「もう来る頃だと思っていたのよ」


サクラとイシルがシャナの麺工房へつくと 待ちかまえたようにシャナが迎えてくれて、二人分の食卓の準備がされていた。


「シャナさんは食べないんですか?」


「先に皆といただいたの、座って」


サクラとイシルが席に着くと、シャナがいそいそと料理を運んできてくれた。

出してくれたのは 『クラゲの和え物』と『棒棒鶏(バンバンジー)


「ラーメンばかりだと味がわからなくなっちゃうから」


今日のお昼はラーメンじゃなく、中華だ!


「「いただきます!」」


サクラは小鉢に盛られたクラゲの和え物に手をつける。

キラキラ、つやつや、うっすら茶透明なクラゲに千切りキュウリとハム。

ピリ辛ポン酢で味つけしてある。


″あむ、コリッ、、″


クラゲ自体に味はないが、このコリコリ食間が癖になる。


「これは何ですか?さっぱりしてますね」


イシルもクラゲの和え物を口にしているが、食べたのははじめてのようだ。


「クラゲですよ、イシルさん食べたことないですか?」


「クラゲですか?あの、アスの水槽にいる あのクラゲ?」


「そうだと思います」


クラゲの種類まではわからないけど。


″コリッ、コリッ、、″


イシルはクラゲを思い出しながら食べているのか、いい音をさせ、ふむ、成る程と、いう顔をして味わっている。


「納豆の時も思いましたけど、イシルさんって結構なチャレンジャーですよね」


「そうですか?」


「普通食べたことのない料理って、もっと身構えません?」


「だって、勿体ないじゃないですか」


イシルが続ける


「美味しいもの食べ逃したら きっと後悔します」


「同感です!」


サクラはイシルに激しく同意しながら 小皿にバンバンジーを取り分けて これも美味しいですよとイシルに渡した。


「ありがとうございます」


濃厚、ゴマだれバンバンジー。

棒で鶏肉をバシバシ叩いて作るから棒棒鶏(バンバンジー)

サクラも皿によそい、口へと運ぶ。


″はぐっ、むぐっ″


やわらかく蒸した鶏肉にこっくり濃厚なごまだれがかかっている。


「んん///」


軽くゆでられたもやしと一緒に口にふくむと、濃厚だが、甘酸っぱく爽やかなゴマだれの風味が鼻にぬける。

鶏肉の弾力にくわえ、しゃっきり感が残るもやしの噛みごたえが 食べてます!と、脳に伝え、満足感を与えてくれる。

食べるって、幸せ!

もやし、どんだけたべても罪悪感なし!

しかも、シャナさん、鶏肉はササミですね!ヘルシー!ありがとう!


シャナのギルティーフリー棒棒鶏(バンバンジー)、サクラはおもいっきり口に頬張る。


″あぐん、むほっ″


口いっぱいに もりっ、もりっ、と口を動かすサクラを見て イシルがふふっ、と笑った。


「リスの頬袋みたいですね」


小さな口に大きなほっべ。


「和みます」


お恥ずかしい///

でも、中華って、豪快に味わいたいですよね!?


バンバンジーを食べていると、ふわんとスパイシーな香りが漂ってきた。


肉の炒められる匂いとニンニクと生姜の香り、中華の、この辛旨そうな匂いは……


「お待たせ」


コトンとシャナが大皿をテーブルの真ん中に置く。


(ふおおぉ///)


やっぱり『麻婆豆腐』だ!


挽き肉たっぷり真っ赤なビジュアルの中に 白いお豆腐がうもれてる!


「オーガの村で作ったお豆腐ですね」


豆腐好きのイシルも嬉しそうだ。

小皿に取り分け、出来立て熱々をレンゲで口に運ぶ。


″はふ、はむん″


痺れる辛さ!

マーラーの組み合わせ


(マー)は舌がしびれる辛さ、(ラー)は舌がヒリヒリする辛さ。

花椒(ホワジャオ)と唐辛子が出会い、絡み合い、一つになった素敵で無敵な麻辣醤(マーラージャン)

辛い物好きにはたまらない!

ただの激辛ではなく、旨味と風味を含んだ麻辣(マーラー)の辛さだ!


「はふ、はっふん///」


豆板醤、ラー油、花椒(ホアジャオ)の辛さがビリビリときいている。

辛さの奥に、旨みをしっかりと感じる味わい。

絹豆腐なのに、型くずれしないよう丁寧な配慮でつくられている、、

舌にビリビリ痺れる旨さ!

心もビリビリ痺れます!シャナさん、嫁に来て!!


「はうん///」


旨辛とまらん!


「はふ、はうう、、」


美味しすぎて泣きそう!


″むぎゅ、むぐっ″


豆腐は優しく柔らかいのにひき肉の弾力が味をしめる。

ひき肉って、こんなに味がでたっけ!?

噛み締めるとじゅわっと肉の味が濃い!

ニンニク、生姜、ネギなどの香味野菜を低温で炒め油に香りをつうし、そこにひき肉を入れて 丁寧にしっかり炒めたんですね!

麻婆の旨さを引き出すコツはここにある。

甜麺醤と唐辛子の香りと辛みが大人味!

そこに鶏ガラスープの旨味が加わり……深い、、

奥が深い麻婆豆腐!

ただ辛いだけじゃないっ!


「ラーメンに乗せても美味しいですね、きっと」


何気ないサクラの言葉にシャナが反応する。


「ラーメンに?これを?」


イシルもはふはふ。

辛さで暑くなったのか、少し顔が赤くなっている。


「はい。現世(あっち)では人気ありましたよ、ラーメンの上に麻婆豆腐が乗ってて、スープに麻婆の辛みがとけていって、辛くて刺激的で病みつきなラーメンになるんですよ~」


花椒ホワァジャオのしびれる辛さと、唐辛子のピリッとした辛さが刺激的な麻婆豆腐は ラーメンとの相性抜群。


「それは、、気になるわ」


シャナは料理をテーブルに並べると、いそいそとキッチンへと引き返していった。


「シャナさん、楽しそうですね」


「ええ」


サクラの言葉にイシルがシャナの消えていった厨房へと目を向ける。


「随分、明るくなりましたね」


微笑むイシルに サクラはちょっぴり胸がチクリと痛んだ。

うお!イカン、自分で話をふったくせに、心が狭いぞ!?


サクラは食卓に目を戻す。

シャナが用意してくれたのは、焼売、春巻き、エビマヨ、、どれから食べよう……

あったか美味しいものから食べよう!

サクラは小さなせいろに蒸されて出てきた大粒シュウマイに手をつけた。

カラシをつけて、あむっと半分かみつく。


″ぶりんっ″


「んんっ!?」


豚バラゴロゴロ!?

焼売にしては大きめに切られた豚肉が ごろんと口のなかで転がった。

肉の脂身をぶりんとかんじるほどの噛みごたえがたまらない!

噛むとじゅわっと旨味が溢れる。


″むぎゅっ、むぎゅっ、、″


なんという弾力!?

一緒に入っているタケノコの食感もいい!

あと、、シイタケ?

なんじゃこの旨味の宝庫は!?

この一粒にどんだけの旨さが詰まってるの!?

これが、本場の味!?


「はぁ///」


ずっと噛んでいられそう。


″サクッ、パリッ″


サクラの目の前では いい音をさせてイシルが春巻きにかぶりついた。


「うん、春を感じますね」


春巻きの名前の由来は立春のころに新芽を出すものを具にしているから。

だけど、、チーズ入ってます?ソレ。


サクラも気になって春巻きに手を伸ばす。


″あぐっ、サクッ、″


アスパラだ!

ふっといアスパラにハムがまかれ、チーズが入った洋風春巻き。


「うん!感じますね、春!」


しかも揚げてない。

表面に胡麻油をぬってトースターで焼いてある。

パリサク、うまうま、料理上手!


エビマヨも、ただのエビマヨではなかった。

エビとイカのマヨネーズ和え。


″あぐん、もぐん″


肉だけでなく魚介もうまい。

ぷりっぷりの歯ごたえエビイカマヨ!

大人も子供も大好き味!


シャナの料理を堪能していると、シャナがラーメン丼を手にやってきた。


″ドンッ″


『麻婆豆腐ラーメン』


さっきサクラが言った麻婆ラーメンを早速作ったようだ。

シャナはテーブルにおもむろにラーメン丼をおくと、椅子に座り箸をかまえた。


「シャナ、お昼は食べたのでは?」


「辛いものは別腹です」


イシルの質問にシャナが言い切る。

シャナさんそんなキャラでした!?

どうやらシャナは辛いものには目がないようだ。


「いただきます」


「シャナさん、辛いから勢いよくすするとむせますよ!」


サクラの注意事項にシャナがにっこり微笑み、箸を麻婆麺に入れる。


(はい)


シャナが箸をリフトアップすると、麻婆に絡まった麺が顔をだした。

目が、マジだ。

シャナの目が爛々とかがやいている。


″ズ、ズズズ、、ズルッ″


シャナは麻婆麺を口にふくむと、慎重に、それから豪快にすすった。


熱々旨辛のスープの絡まった麺が シャナの味覚を刺激する。


「ん~///」


頭の奥が 辛さでジーンと痺れる感じ。

シャナは続けて麺を啜る。


″ずるずるっ、ズルッ、、″


拉麺スープの優しい野菜の味と、ガツンとパンチの効いた麻婆の組み合わせは 今まで味わったことのない世界へとシャナを連れていく。


「はふっ、ずずっ、、」


スープをすすり、熱さと辛さを自分の中に取り入れる。


「逃がすもんですか」


″ズズズ、、ズルッ、、″


肉の噛みごたえとふわふわ豆腐のコンビネーション、それに麺の独特の小麦くささ、、

この食感は シャナ口の中の味覚のツボを 余すことなく刺激する。


「あふっ///」


熱々スープのおかげでいつまでたっても麻婆豆腐の熱も冷めない。

熱さが辛さを後押しする。


シャナはラーメン丼を両手で持ち上げると――


″ゴクッ、ゴクッ、、ングッ、、″


一滴残らず飲み干した。


「はあ///ん」


辛いだけじゃない、何この清涼感、、


「最っ高///」


食べ終わったシャナは しばらく呆然と椅子に座ったまま、麻婆ラーメンの余韻から抜け出せないでいた。


色っぽすぎますよ!シャナさんっっ!!








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