295. オーガの村 ★
挿絵挿入しました(2/10)
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体重増加を懸念したサクラは ウォーキングがてらイシルと共にオーガの村へとやってきた。
オーガの村は 剣の修行者の集まる村。
戦闘種族オーガの剣道場に挑みに来る者、入門する者、見物に来る者、武器商人等が多く、ドワーフの村より活気がある。
此処彼処でトレーニングしている者を見かける、和風 体育会系の村だ。
イシルとサクラは村につくと シャナが竹打ちを指導している麺工房へと顔をだした。
「シャナさん!お久しぶりです!」
サクラがシャナに声をかけると、シャナは笑顔で答えてくれた。
「サクラさん、来てくれたのね」
ああ、やっぱりブカブカですね、私のジャージ。
そして、寸足らずですね、ジャージのズボン。
「すみません、任せっぱなしで」
お詫びに次に現世に行ったら 買ってきますね、シャナさんのジャージ。
「いえ、楽しんでやらせてもらってるわ。人手は足りてるから気にしないで」
そうですね、屈強なオーガのお弟子さん達がデレた顔してこんなに沢山……
パキパキと働いてくれているようで何よりです。
イシルはオーガの村人が仕込んだラーメンスープの具合を見ながら 人懐っこくシャナに話しかけるサクラを複雑な気持ちで見つめていた。
「サクラさん、そろそろ次に行きたいのですが」
「あ、すみません、じゃあ、シャナさん、また後で」
「サクラさん」
サクラはシャナにひき止められ振り返る。
「お昼は食べに来てね」
「はい!」
サクラはシャナに笑顔で返事をしてイシルを追いかけた。
お昼はラーメンか……
これは、はりきって歩かなくちゃ!
次は確か、豆腐製造所だ。
『油揚げ』をつくるために ヨーコが一番力を入れている場所。
「サクラさん」
歩きながら呼び掛けられ、サクラは『はい』と返事をしてイシルを向いた。
サクラに話しかけてきたイシルは、少し言いにくそうな顔をしている。
「ひとつ僕と約束してくれませんか」
「何ですか?」
「人前で生活魔法以外の魔法は使わないと」
ん?どういうこと?
「アスに使ったような魔法は 使わないと約束してください」
前もイシルに生活魔法以外使うなと言われたことがあった。
異世界に来てまもなくの頃だった。
確か、魔力量が少ないのに大型の魔法を使うとガス欠を起こし、体が動けなくなるからと。
今はヨーコからもらった力があるが、そもそも魔力切れになるような大魔法なんて使わない。
使う必要ない。
サクラがアスに使ったのは魔法と呼べないくらい、小さな力で、叩いたら弾みで出た偶然の副産物。
魔力切れを起こしてぶっ倒れるようなことはしてないよ?
イシルは何を心配しているのだろう……
「イシルさん、何か 隠してます?」
「……」
何なんだ?
遠回しに アスもこの力を使うなと言っていた。
リズもスノーも サクラがギルロスを助けた時、三人の秘密にしたいと言っていた。
何か ある。
「イシルさん」
答えないイシルに サクラがもう一度聞く。
イシルはため息を一つつくと、観念したようにサクラに話し出した。
「サクラさんの魔法は特別なんです」
そうなの?
「魔力の色が違うのに気づきませんでした?」
言われてサクラは思い返す。
イシルの魔力の色は赤紫。属性は『闇』
神がサクラを転送する時使う魔力は金色の光の粒子が舞う。属性は『光』か。
ギルロスは『火』の赤、アイリーンは『水』の青、シャナは『風』の緑、、
現世でやるファンタジーゲームのイメージと一緒だ。
ドワーフは魔法が得意じゃないから見たことはないが、きっと『地』の黄色?
私のは、、
「銀色の魔力」
「そうです」
属性は何だ?
「銀色の魔力を持つ者なんていません。多分この世界になない力なんでしょう」
「違う世界から来たからですか?」
「恐らく。アスもこの世界にはない『黒』の魔力を使いますから」
アスも喚ばれてこの世界に来たんだっけ。
「じゃあ シズエさんも 私と同じだったんじゃないですか?」
「シズエは 生活魔法以外使いませんでしたから」
あー、シズエ殿はファンタジーゲームに興味がなかったのね。
「サクラさんの力を知れば 利用したがる者は多いでしょう。だから、人前で使ってほしくないんです。ここにいられなくなります。リズやスノーが秘密にしたがったのは、貴女が何処かに連れていかれるのを懸念したからですよ」
「そうだったんですね」
言ってくれればよかったのに……気を遣わせちゃったな。
なんだかもやもやする。
『特別』と言えば聞こえはいいが、自分がこの世界の一員ではないことを改めて実感させられる。
内緒にされていたことで疎外感を感じてちょっともやっとしたのは、自分のわがままだ。
皆自分のために内緒にしてくれたのだからとサクラは自分に言い聞かせる。
(でも、、)
それでも、もやもやが拭えなくて、溢れた感情が言葉になって口からぽろっとこぼれた。
「早く言ってくれれば良かったのに」
「すみません」
「もう、隠し事はイヤですよ?」
「はい」
わかってる。
イシルは悪くない。
これは八つ当たりの言葉。
自分だって心を見せないくせに、イシルが見せないとなんで?と拗ねて甘えてるだけだ。
「約束してくれますか?『銀色の魔法』は使わないと」
「わかりました」
サクラだってここを離れたくはない。
他の人に知られずに過ごせばいいだけだ。
今までだって必要なかったし、大丈夫だろう。
サクラはイシルと約束をすると 気分をリセットして、何事もなかったかのように豆腐製造所へと到着した。
◇◆◇◆◇
「い、イシルさん、、待って、、」
「大丈夫ですか?少し休みますか?」
「だ、大丈夫です シャナさんのところまでもう少しですよね?」
ウォーキングに来たサクラのためを思ってなのか、いつもよりイシルの歩く速度が速い。
そして、移動範囲が広い。
村の入口付近にあるシャナの麺工房から始まり、豆腐製造所で指導をし、醤油製造所を視察し、味噌製造所を見回り、、
こんなに、仕事してたんですねイシルさん。
朝からたっぷり三時間。
ハードな社会科見学を終え、昼飯にするためにシャナの麺工房へと戻る途中だ。
サクラとイシルは武器や薬を売る露店が並ぶ間を抜けていくことにする。
「ラインナップが凄いですね」
露店に並ぶ商品は強そうな武器はさることながら、薬の種類が多かった。
あまり見たことのない、どちらかと言えばグロい見た目の材料が並ぶ。
「オーガの村では身体を強くするものが良く売れるようですよ」
「凄い……」
串刺し乾燥されたヤモリにタツノオトシゴ、スッポン、
牡鹿の角質化していない幼い角、瓶詰めの蛇、冬虫夏草、ウシの胆石、、
「粉末にして使いますが、現物を見せた方がインパクトもあるし、本物を使ってるのがわかるから売れるんですよ」
たしかに、インパクト大だ。
あの、、蛙のタマゴみたいなのは何?何かの目玉?
高麗人参の根、サソリの死骸、カマキリの巣、、
現世の漢方薬みたいなものみたい。
高そうな木箱に入っているアレはなんだろう?カラカラに乾燥しているが、木の枝みたいなのに二つの実がついている。
「あれは何ですか?高そうですね」
「海狗腎ですね」
「かいくじん?」
「オットセイの睾丸です」
「……」
(……聞くんじゃなかった)
目が点になってるサクラをみてイシルがくくっ、と声を噛み殺して笑った。
「アレ、口にするんですか?」
「ええ、ここにあるものはすべて飲み薬です。言えば症状に合わせて配合してくれます」
……のみたくない。
薬は現世でもらうに限る。
「これらは主に戦士のための精力剤の原料ですから、サクラさんが口にすることはありませんよ」
複雑怪奇な表情をしているサクラにイシルが笑いながらそう教えてくれた。
(あ……)
げんなりと苦笑いしながら目を反らした先に、サクラは見覚えのある顔を見つけた。
「こいつは掘り出しもんですぜ、ダンナ、ちょいと握ってみやせんか」
地べたに武器を並べて売る男。
好好爺風のお爺さんと ガタイのいいお父さん、、道中の湖で出会った家族を装った盗賊だった。
「盗品を売りさばいているのでしょう」
イシルも気づき、サクラにそう耳打ちすると、サクラの肩に手をまわし、サクラを隠すように露店の間を通りすぎる。
「ああいう輩は 小さな村では悪さをしません。ましてやここは強いものが多いので尚更大人しくしているでしょう。関わらなければ心配いりませんよ」




