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293. すき焼き



うふふふ、、

クスクス、、、


か~って嬉しい花いちもんめ♪

まけ~て悔しい花いちもんめ♪


隣のおばちゃんちょっと来ておくれ♪

鬼がいるから行かれない♪

お布団かぶってちょっと来ておくれ♪

お布団ビリビリいかれない♪

お釜かぶってちょっと来ておくれ♪

お釜底抜け行かれない♪

鉄砲かついでちょっと来ておくれ♪

鉄砲たまなし行かれない♪


あの子がほしい♪

あの子じゃ分らん♪

その子がほしい♪

その子じゃ分らん♪

相談しよう♪

そうしよう……


「どうする?」

「誰にする?」


白狐たちは輪になってゴニョゴニョと相談を始めた。


『はないちもんめ』


手を繋ぎ、一列になった二組が向かい合い 唄にあわせて やる遊びだ。


″か~って嬉しいはないちもんめ″


よせる波のように、相手へ押し寄せ、最後の『め♪』で片足をあげる。


″まけ~て悔しいはないちもんめ″


相手が攻めてきたら 今度は唄に合わせて後ろにさがる。

相手が『め♪』で片足をあげる。


ひと節ごとにこれの繰り返し。

『♪』で足をあげる簡単なリズム踊りだ。

そして、相手チームから こちらに迎える一人を決め、決められた同士がじゃんけんをして、勝ったら選んだ相手をチームに加えられる。

終了時に人数が多いチームが勝ち。


「イッキュウ(19)にする?」

「ニャー(28)にしようよ」

「ハタ(20)がいい」


白狐達は真剣である。

アスは白狐達が誰が誰だかわからないが、純粋な白狐達の熱い()()を味わいながら 輪に加わっていた。


サクラの魔法は異質だ。

どういう原理かわからないが、先程アスの中から デーモンキラーの魔力を消したわけでも、中和したわけでもなく、弾き飛ばし 取り出したのだから。


(ホント 規格外)


「イチジク(9)兄ちゃん選ばないと拗ねるかも」

「ありえる」


う~ん、と 頭を悩ませる。

こんな小さな世界にも 序列で社会が形成され、気をつかっているのが面白い。


「あ、だったらアス殿に決めてもらおうよ」


(え?)


「それなら文句言われないね!」


兄狐に怒られるのを恐れた白狐達が アスに選んでもらおうとアスを見上げる。


(アタシ?)


「アス殿は誰がいい?」


丸投げである。

白狐達にせがまれて アスは相手チームを見た。


誰が欲しい?


(アタシが欲しいのは……)


「「き~まった!!」」


両チーム手をつないで横一列に並び、向き合う。


「「サクラが欲しい♪」」

「「ヒヅメ(29)が欲しい♪」」


サクラとヒヅメが前に出る。


「「じゃんけん、ポン!、あいこで、しょっ!」」


「やった!」

「うわ~、負けた」


サクラが出したのはパー

ヒヅメが出したのはグー


サクラが勝ったのでヒヅメがサクラのチームに加わった。


「ちぇっ」

「残念~」


望んだけれど サクラは 手に入らなかった。


うふふふ、、

クスクス、、、


白狐達の笑う声。

唄う声と共に じー……んと頭の奥に痺れるような感覚が沸き上がる。


か~って嬉しい花いちもんめ♪

まけ~て悔しい花いちもんめ♪


あの子が欲しい

サクラが欲しい


相談しよう♪

そうしよう……


まだ、、駄目だ。

まだ、、、その時期(とき)じゃない……





◇◆◇◆◇





「『卓球』を娯楽施設に加えるんですか、それはいいですね、サクラさん」


夜になり イシルがオーガの村から帰って来て サクラはイシルと 浴衣姿で斜向(はすむ)かいに座り 二人で食事をとっていた。

給仕係のセイヤと白狐は夕餉(ゆうげ)用意を済ませると 用があったら鈴を鳴らすからと イシルに追い出されたのだ。


迦寓屋(かぐや)』の今日の夕飯は『すき焼き』だった。


スキヤキの割り下って甘いから糖分高いんじゃない?


はい。すき焼きの糖質は、1人前あたり30gくらいあり、ほかの鍋料理と比べると、すき焼きは高糖質である。

しかし、諦めることなかれ。

割下は作り方次第で糖質オフできちゃいますから!

砂糖やみりんの量を減らしたり、ダイエット甘味料にしてみたりするだけで食べられます。

だって 割り下さえ調整出来れば あとは低糖質なキノコや豆腐、野菜にお肉ですから!

野菜からたっぷり水分も出ますからね!薄まります。

鍋の〆にうどんとかの炭水化物食べなければ 全然OK!


グツグツと煮える鍋の様子を見ながらサクラはイシルと会話を続ける。


現世(あっち)では『温泉』といえば『卓球』というくらい 温泉旅館にはつきものでしたよ」


「たしかに、卓球はスペースをとらず室内で出来る娯楽ですからね」


お肉と白滝は離してね。

お肉が硬くなっちゃうから。


「卓球だけじゃなく、他にも ダーツ、輪投げ、射的、スタンプラリーと、色々提案中です」


「それは楽しみですね」


鍋が煮えてきたので、イシルがお椀にスキヤキ用の卵を用意する。


″コンコン、パカッ″


うっすら白濁した白身にトロンと濃厚な半熟の黄身


「これは、、ポーチドエッグ、、ではないですね、白身がかたまっていない」


イシルは温泉卵は初めてのようだ。


「それ温泉卵です」


「これもサクラさんが教えたんですか?温泉卵って……」


「温泉を利用して卵を温泉に数十分程度浸しておくことで作られるから『温泉卵』なんですよ。白身と黄身は固まる温度が違うから、沸騰しない低温で ゆっくり温めることによって 先に白身がかたまってしまわないんです」


「このまま食べるんですか?」


「一般的にはダシをかけて食べますね。スキヤキ用に生卵ありますけど、温泉卵で食べても美味しいですよ」


「折角ですから、温泉卵でスキヤキをいただきます。サクラさんはどうしますか?」


「じゃあ、私も温泉卵で」


「わかりました」


イシルがサクラの分の温泉卵を割ってお椀をサクラに渡した。

ありがとうございますとサクラが受けとる。


「「いただきます!」」


イシルは出来上がったスキヤキを温泉卵の入ったお椀によそうと 肉を絡める。


″つるん、とろ~っ″


ねっとりと肉にまとわりつく黄身と、ふるふるとした白身。


″はむっ、、もぐっ″


「どうですか?」


「うん///」


イシルの顔がほころぶ


「濃厚ですね」


生卵とはまた違う味わい。

白身がジュレに近い状態のため、黄身の味を濃く感じられる。

サクラも温泉卵のお椀に スキヤキ肉をよそう。

スキヤキと一緒によそったのは春菊。


″はふっ、、はむん″


スキヤキに生卵をつけるようになったのは そのまま食べると熱いから、と言う説があるが、なにより卵を絡めると 味ががマイルドになって美味しい。


「んー///」


甘辛味に仕上がったお肉にまったりと絡み付く温泉卵の黄身が 肉の旨さに濃厚なコクを加え、つるんとした白身がそれをさっぱりとリセットしてくれる。

一緒に口にいれた春菊の香りのいいこと!

この苦味が 味覚を呼び覚まし、引き締め、肉の味を引き立たせてくれている。


「あとは温泉まんじゅうも考えてるんですよ」


すき焼きを味わいながらサクラが話を続ける。


「お菓子ですね」


「はい、これも温泉の熱を使って蒸すんです。出来立てはふっかふかであったかくて美味しいんですよ~次に現世(あっち)に戻ったら作り方を調べてくるつもりです」


「僕も手伝いますよ」


イシルは二個目の卵を割り、白滝をよそった。

今度は生卵だ。

割り下で少し茶色く煮えた熱い白滝にたっぷり生卵を絡めて口にはこぶ。


「はむ、、」


ぷるんと口のなかで白滝がバラけて踊る。

白滝の間に甘辛割下と生卵が絡みまくって、何ともいえない味わいと独特の美味しさだ。


「イシルさん、これ以上忙しいと疲れちゃいますよ」


「いえ、サクラさんと一緒にいることが癒しですから」


「あ――……///」


イシルがさらりと甘い言葉をぶっこんできた。

いつからこんなに日常会話が甘くなったんだ!?


ネギとスキヤキ肉の相性は抜群。

鍋のネギはトロトロと煮え、辛味よりも甘味の方が増してくる。

イシルはソレを肉と共に味わう。


「他にも湯上がりに飲み物を考えていてですね――」


「サクラさん」


イシルは食べようとして違和感を覚え、手を止めた。

サクラは先程からあまりスキヤキに手をつけていない。

お喋りに夢中だからかと思ったが、違う。

何か、おかしい。


「あまり食べていませんね」


「えっ!?」


サクラはぎくりと身を硬くする。

バレてる……?


「やはり今日は朝からおかしいですよ。どうかしたんですか?」


サクラがたははと笑う。

イシルには隠し事ができないのか!?


「実は 体重が増えてしまって……」


サクラは正直にイシルに話した。


「食生活は変わってないんですがね、、あ、運動量が少し落ちたかなと」


イシルがふむ、と考える。


「それでも体重は減っていたからと油断してた私が悪いんです」


斜向かいでちょい落ち込むサクラにイシルが突然 触れきた。

横座りしているサクラの浴衣から出ている足に、である。


「なっ///イシルさん!?」


ビックリしたサクラが後ずさると、足先から手を浴衣の中に滑らせ、ふくらはぎを撫であげる。


「っ///」


縮こまるサクラの手をにぎり 有無を言わさず自分へと引き寄せた。


「あわわわ///」


そうしてサクラに被さるようにして、そのままサクラの指先をじぶんの頬に当てた。


(ひえぇぇ///)


心臓がばっくんばっくんですよ!!?


「指先が冷たいですね」


「へ?」


イシルはサクラの指先を自分の体温で温めるように 首と手で挟む。


「代謝が落ちているんだと思いますよ。足先も冷たい」


(あ、、)


イシルはそれでサクラに触ったのか。

イシルがいたずらっぽく笑う。


「期待しました?」


「、、してませんっ///」


わざとだ。

毎回毎回、揺さぶりがヒドイですよイシルさん。

確信犯め、くそぅ!

毎回翻弄される自分が恨めしい。


「来たばかりの頃のサクラさんは体温高めでしたよね?」


そう、痩せる前のサクラの基礎体温は36.5度。

少し動けば汗をかける状態の体温。

なのに、今は、、計ってみると35度を下回りそうな勢いだ。

痩せて、脂肪が減り、基礎体温が下がったのだ。

前と同じく汗をかこうと思えば、先ずは1.5度体温を上げなくてはいけない。


「そういうことか……」


「貴女が悪いんじゃないんですよ、サクラさん、頑張った証拠じゃないですか」


イシルがサクラの両手を温めながら励ましてくれる。

だから、自分を責めないで と。


「明日、僕と一緒にオーガの村に行きましょう。一緒に歩き回れば 運動になりますから」


「……はい///」


……近いよ、イシルさん。


「だから、スキヤキ、食べましょう?」


「はい!」


イシルはにっこり笑うと サクラの浴衣の裾をなおし、座りなおらせ、箸を握らせる。

うん。

イシルさんと一緒に 明日はオーガの村をウォーキングしよう。

そうと決めたら、喰うのだ!


サクラはスキヤキ肉で温泉卵をくるみ、


″はぐっ、はふん″


本気モードで肉を味わう。


「んんっ///」


きめ細やかな霜降りの上質な牛肉のとろけるような舌触り、柔らかさ、そしてじんわりと体の奥まで染み入るような脂の甘さ、、

柔らかいけど程よいかみごたえがあって、噛めば噛むほどあふれる肉汁の旨さがたまらない!!


「はぁっ///」


生卵を割りといて、熱々の豆腐、白菜を入れる。

お肉の出汁で煮た野菜は美味しい!

豆腐を割ると中はさらに熱々。

しばらくすると、熱々の豆腐のまわりに蒸らされた玉子の黄身の幕がうっすら出来る。

先に白菜をいただき、豆腐もいただく。


「はふ///」


ひたすら旨い!

豆腐も、白菜も、元がシンプルなだけに 他の野菜と肉からでた旨味エキスを存分に吸って、いうことなし!

エキスを吸うといえば、忘れてはいけない、お麩!

肉と野菜の美味しさをこれでもかと吸ったお麩は美味しすぎてとまらん!!


「はぁ///美味しいっ」


「やっぱりサクラさんは そうでなくちゃ」


顔を上気させ、ため息をもらしながら 豪快にすき焼きを食べるサクラを見つめて イシルが嬉しそうにはにかんだ。


二人きりになった意味がないです と。









『はないちもんめ』

地方によって歌がちょっとずつ違うんですよね。

うちは長崎でしたから、『行かれない』部分も『来られない』でした。


著作権はない(フリー)ので全文のせました。

いじめにつながるからと、一時期禁止されていましたね。


イチジク(九)は 一文字で『九』だから、

ヒヅメ(29)は 月末前、月の大詰めてことらしいです

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― 新着の感想 ―
[良い点] まー、可愛いはないちもんめ。 白狐っ子たちがわちゃわちゃ遊んでいる様子、一斉に見上げてくる様子を想像するとほほが緩みます*^^* そんななか、ひとり忍ぶアス様の恋はいっそう切ないです。 …
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