286. 迦 寓 屋 7 (白狐隊) ★
挿絵挿入(1/25)
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男湯から暖簾をくぐって出てきたのは 浴衣姿のイシルだった。
「早かったんですね、お仕事」
「ええ、夕飯を一緒に食べたくて 急いで終わらせてきました」
イシルがサクラに近寄る。
白地に雨のように青の縦縞の線の入る浴衣を着て、紺の羽織を羽織る姿が よく似合っている。
「まだ濡れてますね」
イシルがサクラに手を伸ばし、髪の先にふれた。
「大丈夫ですよ、これくらい、すぐ乾きますよ」
「ちゃんと乾かさないと湯冷めしてしまいます」
『座って』と イシルはサクラを長椅子に座らせると 風魔法で温風をつくり サクラの髪を乾かしだした。
『イシルさん、私自分でやります』と言いたかったのだが、イシルの表情が 一緒にお弁当を作った時のように嬉しそうで、言えなかった。
惚れた弱みか。
イシルは座るサクラの前に立ち、耳の上から指を差し入れ、手櫛でサクラの髪をすきながら乾かす。
(うわぁ///)
サクラの頭皮の上をイシルの指先が撫でていく。
「頭皮が濡れてるからいつまでも乾かないんですよ」
「すみません」
指を差し込んで髪を立ち上げ、中をふんわりと乾かしていく。
あまりにもその手つきが柔らかくて サクラは気恥ずかしくなり 目線を下に下げた。
イシルの浴衣の裾が目に入る。
(あ、オオイヌフグリ……)
ただの縦縞に見えたイシルの浴衣の裾には サクラの着ている浴衣と同じ柄の花が 控えめに雨に打たれて咲いていた。
「お揃い、ですね」
サクラの髪を 前から後ろに優しくすきながら イシルの笑みを含んだ声が上から降ってくる。
「ですね」
申し合わせたわけでもないのに 同じ柄の浴衣を選んで着たなんて、ほっこり、心が跳ねた。
嬉しくなり、顔が緩んでしまう。
イシルはサクラの後ろにまわり 髪を乾かすために サクラの襟足に指を差し込む。
「ひあっ///」
イシルの指がサクラのうなじを撫で ぞくりとして、サクラは思わず首をすくめる。
……変な声でた。お恥ずかしい。
「くすぐったいですか?」
「大丈夫です」
イシルは手櫛で襟足部分を持ち上げつつ、弧を描くように引っ張りながら サクラの髪を乾かしていく。
恥ずかしい、、でも、、イシルの手つきが柔らかくて……
「気持ちいいですか?」
聞かないでくださいよイシルさん、わざとですか?あなた私の心が読めるんですか!?
答えないサクラにもう一度イシルが聞く。
「気持ちいい?」
「……気持ちいいデス///」
恥ずかしいのは きっと サクラの心にヨコシマな気持ちがあるからだ。
「良いのぅ!サクラ、毛繕いか!?我も♪我も♪」
男湯から上がってきたセイヤが三つの尻尾をブンブンふりながらサクラに近づいてくる。
よかった、三助姿じゃなく、ちゃんと服着てる。
セイヤの後ろからアスも出て来た。
紺地に赤い彼岸花が毒々しく咲いている浴衣を着ている。
なんか、、凄いね。男の色気ムンムンですよ?
「邪魔しないの、折角ラブラブなんだから」
アスがサクラに向かうセイヤの着物の後ろ襟を掴み、引き止めた。
ラブラブって、、お願い、意識させないで!
「練習は出来たの?セイヤ」
アスが変なこと言い出す前に サクラは強引に話題をかえる。
「フン、此奴風呂に行ったらさっさと女体化解きおったのじゃ」
「だって男湯なのに女の姿では入れないでしょう?」
「他の客などおらぬではないか!」
「イシルがいたし」
「お前の姿なんかどっちでも一緒だろう」
サクラの髪を乾かし終えたイシルがサクラの後ろからアスの言葉に反論した。
「でも、子ブタちゃんは、イシルが他の女と一緒にお風呂に入るなんて嫌よね?」
こっちに振るなよアス~
「そうなんですか?」
うわ、スルー出来ない!
「いや、中身はアスなんだし 別に……」
ビジュアル的には男同士の方が妄想を掻き立てられます。
言わないけど。
「そもそも何で女体化したんだよ」
「それは無論、サクラと一緒に、、うきゃん!?」
イシルの根本的な疑問に 横から口を挟むセイヤの尻尾をアスがむんずと掴み、黙らせ――
「子ブタちゃんと一緒に 女の子同士で庭園をめぐりたかったの♪」
イシルに怒られないよう誤魔化した。
「そうなんですか?サクラさん」
「そうなんです」
無駄な流血は避けたいですからね。
「さあ、セイヤちゃん、アタシが向こうでやさ~しくトリミングしてあげるから、行・き・ま・しょ」
「あうっ!?」
何やら凄みのある笑顔のアスにがっちりホールドされ、セイヤはアスに連行されて行ってしまった。
きゃうん、きゃうんと 犬が悲鳴をあげるような切ない声をあげながら……
「部屋に戻りましょうか」
「そうですね」
″トトトトト……″
″テテテテテ……″
部屋に戻ろうとすると、廊下を走る音がする。
″ぱふん″
小学生くらいの子が走ってきてサクラに抱きついた。
かと思うと、子供達にわっと囲まれた
「サクラ、みーっけ!」
「サクラ!ありがとう!」
「僕にもちょうだい!」
「ちょっと苦いけど甘いのありがとう!」
「僕もらってないよ!」
「サクラ!」
「サクラ!」
小学生~中学生くらいまでの男の子達。
「「ぎぶみーちょこれいと!!!」」
サクラが庭園でチョコをお供えした白狐達だった。




