283. 迦 寓 屋 5 (庭園めぐり) ◎
後書きにイメージ写真挿入(2021/9/14)
三月のうららかな日差しの中、『迦寓屋』の日本庭園の茶屋で 炊き込みご飯をご馳走になったサクラとアスは、店先の縁台で 食後に セイヤのいれてくれた笹茶をまったり いっぷく中。
「う~ん、和む~」
小腹が満たされたら欲しくなるのが甘いもの。
「でも、このシチュエーション、チョコじゃないんだよね……」
「そうなの?」
この時代劇の設定のような景色の中にあって、食べたいのはチョコじゃないでしょ。
「こういう雰囲気の中で飲むお茶にはさ、やっぱり『和菓子』が合うんだよね」
串に刺さった団子が食べたいなぁ……
甘タレをつけたみたらし団子、小豆あんを載せたあん団子、黒胡麻と砂糖をまぶしたごま団子、ずんだ、きなこ、小豆生クリームとかも好き!
(くはぁ///食べたい!)
もちもち香ばしくて、ほんのり団子本来の甘味を感じらる、甘くない素焼きだんごもいいなぁ~
醤油で味付けした醤油だんご、それに七味をかけてピリ辛団子、のりを巻いて磯部巻き団子、だんご♪ダンゴ♪だんご♪ダンゴ♪
「ソレ、イシルに作ってもらえばいいじゃない」
「イシルさんを何だと思ってるんだ、アスは」
「子ブタちゃんのためなら はりきって作ってくれると思うけど?」
「和菓子かぁ」
異世界には『米』がない。
米系の粉から作られる和菓子は作れないということだ。
「お団子は無理かな」
次に現世に行ったら米の粉以外で作れる団子を調べるか。
小麦粉、小麦粉で作られる和菓子は……どや焼き、とか たい焼き、とか、まんじゅう……
「あ!温泉まんじゅう」
温泉水を使用し、重曹をくわえ、温泉の熱で蒸す 炭酸まんじゅうがあるじゃないか。
白いままもいいけど黒糖で黒蜜を作れば 生地に混ぜて茶まんじゅうにできる。
ふっかり、ふわふわの皮に、甘く酷のあるあんこ……
「ん~、なるほど、ダンゴも温泉まんじゅうもお茶に合いそうね~それですすめてよ。アタシ、食べたい♪」
アスがサクラの想像した味覚を共有しておねだりする。
(あんこって作れるのかな?そもそも小豆ってあるの?)
なければ栗あんや芋あんでもいい。
次に現世に行ったら現物を買ってこよう。
イシルなら味がわかれば似たようなものが作れる。
「言っとくけど 和菓子は糖質高めだから私は食べられないからね?」
「え――――っ!!」
サクラが食べられなければアスは味わえない。
そんなことお構い無く、サクラはヨーコへの提案を一つ頭に書き留めた。
ちなみに、温泉宿の部屋にお菓子が置いてあるのは、温泉にはいる前に、お菓子を食べて血糖値を上げ、安全に入浴できるようにするための意味もあるそうだ。
◇◆◇◆◇
茶屋の裏手にも白狐の像があったので、チョコをお供えして奥へとすすむと、赤い鳥居が見え、ヨーコの神殿への石畳が続いていた。
オーガの村で見たヨーコの神殿とまったく同じに見える。
ていうか、同じ?
「もしかして、ここがオーガの村に繋がってるの?」
「察しが良いな、サクラは」
セイヤがそうだと教えてくれた。
イシルさんはここからオーガの村に行ったのか。
ヨーコに参拝(?)し、両脇のお狐様にチョコをお供えして 先へと進むと、大きな水音が聞こえだした。
「滝だ!」
それは、一本の大きな流れではなく、カーテンのように横に広がって落ちる滝だった。
岩肌からしみ出た湧き水が無数の“糸”を紡ぐ
流れ落ちる無数の白い滝は、美しい糸が垂れるように繊細。
滝壺はエメラルドグリーンに透き通り、底が、、見える!
周囲の緑と相まって、自然が生み出すダイナミックな絵がそこにあった。
有名な『白糸の滝』のように。
「う~ん、マイナスイオン!」
空気が先程よりひんやり感じるのはマイナスイオンのせいかな?
風が細かな水飛沫を サクラのもとまで運んでくる。
「あの滝の裏は 半洞窟になっておって 水位が低いときは歩けるのじゃ」
「へぇ~」
「もう少ししたらこのあたりは桜の花も咲くからのぉ、むこうから見えるこちらの景色もまた絶景じゃろうて」
「桜かぁ~キレイだろうなぁ~」
滝のカーテンの間から見える景色も素敵だろうなぁ……
そういえば お箸をイシルさんにプレゼントした時、『春になったらお花見に行きましょう』と言っていたっけな。
「その頃にはお客を入れたいわよね~」
サスガ商売人ですな!アスよ。
花見時期はかきいれ時、サクラが咲けば美しい景色に呑めや歌えや、財布の紐もゆるみます。
日本人だけ?
「あ!ここにもいらっしゃる」
サクラはひっそりとたたずむ白狐の像を発見し、またチョコをお供えした。
「全部見つけたら何か起これば面白いのにね」
アスが笑いながらサクラに冗談めかしたことを言った。
「全部見つけたら……いいかも」
「え?」
「全部見つけたら 記念品をあげればいいんじゃない?」
「面白いけど、どうやって全部見つけたって事を証明するの?」
「スタンプラリーです!」
女子旅の時にリズとスノーが作った『旅のしおり』のような冊子を作り、スタンプが押せるような手帳を作る。
白狐48に番号のふってあるスタンプを持たせておいて、発見したら押せるようにするのだ。
「『迦寓屋』の敷地を満遍なくまわることになりますし、記念にもなります。景品は そんなに高価なものじゃなくていいんですよ。お遊びですから。ただし、限定品で」
サクラはまた一つ、ヨーコへの提案を思いついた。
その後も、金魚がゆらゆら泳ぐ 瓢箪の形をたした『瓢箪池』や、石灯篭の並ぶ不思議な空間に佇む しめ縄をした『御神木』、登ると景色を一望できる『五重の塔』など、『迦寓屋』の庭園の中は他にも程見所が沢山あった。
「今日はこれくらいにして 温泉で汗を流してはどうじゃ?」
結構歩いたし、少し疲れもしたので サクラはセイヤの提案を受け入れ、『迦寓屋』の本館へと戻り、次は温泉へと案内してもらうことにした。




