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265. cherry´s かんざし編 4(エピローグ)




「アスってやっぱりかっこいいんだね~」


パーティーも終盤、(かんざし)御披露目からソフィアとエリザの行儀見習い騒動、各種挨拶を終え、歓談中のサクラとアス。


サクラの食事を一緒に味わっていたアスは、サクラの発言に 驚いて フリーズする。


「あれ?私変な事言った?」


サクラはサラダをもぎゅもぎゅしながらアスを見た。


「……いや、珍しいこと言うなと思って、、子ブタちゃん、アタシの事誉めたことないじゃない?」


「そうだっけ?」


そうだよ。

ありがとうの感謝の気持ちや 凄いねの賛辞句は言っても、サクラから面と向かって『カッコいい』と言われたことなんてなくてちょっと嬉しい。


「さっきの演舞はカッコ良かったよ。アスって強いんだね~」


言い方が他人事っぽいのが気になるが。


「必○技仕事人のヒデ!て感じで」


誉めてるんだよね?


「アタシは強いわよ、本気で戦ってるとこ見たら子ブタちゃんきっと惚れ直しちゃうわ」


「いや、惚れてないから直らないけどね」


サクラは あはは~と笑いながらバッサリ言葉でぶった斬る。手厳しい。


「本気になったらイシルにだって負けないんだから」


「イシルさんに?」


サクラがようやくアスを()()


「イシルの話しには食いつきが違うわね」


今まで 食べながらなんとな~く会話していたサクラの態度が明らかに違う。


「あはは~」


サクラは イシルが好きだと言うことをアスにはまったく隠さなくなった。

感情を読まれてるのだから隠しても仕方がないと思っているのもあるだろうが、敬語を辞めたことで気休くなったからというのもある。


サクラはアスに好意をもってくれている。

いや、好感、かな。

アスといる時のサクラからは()の感情の匂いがする。

でも、恋愛感情ではない。


「イシルさんと本気で戦ったことはないの?」


「ない」


「どうして?」


「ん~……」


そんな事したら世界が滅びる。


「惚れた弱み、かな」


「アス、好きだもんね~イシルさんの事」


「アンタの事も好きよ?」


「あはは~ありがとう」


サクラは再び料理台に目を向けた。


「本当よ?」


アスがサクラの肩を抱き、こめかみに唇をあてる。


「ちょ///アス、、」


「……好きよ」


「わかったから、離れて///」


「悪魔に気を許しちゃダメよ、子ブタちゃん」


「食べにくいから、離れてよ///」


「ヤダ♪」


サクラの口を押さえ、すうっとサクラの感情を味わう。


「もがっ///」


サクラが欲しい。

今のままのサクラも美味しい。

でもアスといてもサクラからはイシルといる時のような『最高に美味しい感情』は得られない。

イシルといる時のサクラが、イシルを想う時のサクラが最高に美味しくて好きなのだ。

イシルにしてもそうだ。


だから、アスにとって、サクラとイシルが二人一緒にいることがベストなのだ。


「もうっ///」


サクラがグイッと力任せにアスを押しのけた。

人前なのでアスもあっさり引く。


そう。

そうやって抵抗して。

『悪魔』が入り込める隙を見つけないように。

アタシに『奪える』と思わせないように。


「油断してるからよ、あ、ソレ、『ビーフブルギニョン』オススメ~」


睨むサクラに 何事もなかったかのように料理を薦め、アスも再びサクラと一緒に食事を味わう。


ビーフブルギニョン、牛肉の赤ワイン煮だ。

ワインやハーブの香りが染みこんで、柔らかく、とろける美味しさに煮込まれた肉は、見た目の濃厚さとは裏腹に意外とあっさりしていて、いくらでも食べられそうだ。


( c’est ()très (トレ)bo~n(ボ~ン)!ああん///おいしいわぁ)


「付け合わせのマッシュポテトも混ぜてみてよ」


「ええ~、ジャガイモは……」


「お願ぁ~い」


「しょうがないなぁ」


「うふ///」


アスはサクラの味覚を通して ()()()()()を堪能した。





◇◆◇◆◇





カール達がダフォディルの街へ帰る日。


行儀見習いのために『ラ・マリエ』に残ることになったエリザとソフィアを前に、カールは遊歩道入り口に停めてある馬車の前で寂しそうな顔を見せる。


「エリザもとうとう僕から卒業か……」


「お兄様ったら///もう子供じゃありませんから」


ずっとカールの後ろをついて歩いていた妹の可愛いエリザ。

残していくのはやはり心配だ。


「いつでも帰って来て良いんだからね」


「大丈夫ですわ、お兄様」


「ソフィアも、無理せずにね」


「ありがとうございます、カール様」


カールはエリザとソフィアの女家庭教師(ガヴァネス)のモリーナとスーザンに向き直る。

モリーナとスーザンはエリザ達と一緒にここに残るのだ。


「二人の事、頼みましたよ」


「「はい、カール様」」


カールはエリザとソフィアにお別れのキスをすると ドワーフの村に目を向けた。

入り口からバーガーウルフが見える。

カールは切なそうな目でソレを見つめる。


カールの耳に『ありがとうございましたー、またお待ちしてますね』という客を送り出す声が聞こえた気がした。


「君は眩しすぎるよ アイリーン……」


カールの目に光るものが浮かぶ。


スッ と カールの隣に人影が現れ、カールの腕に細い腕が絡められた。


「参りましょう、カール様、遅くなってしまいますわ」


ルーシーがカールの腕を抱き 笑いかける。

カールは滲む瞳から感情を溢さないように無理に笑い返すと ルーシーと連れ立って馬車へと乗り込んだ。





◇◆◇◆◇





(やった、、やったわ!)


馬車へ乗り込み、ルーシーはカールの隣でほくそ笑んでいた。


(邪魔者が消えた)


今までカールにアタックしようにも、隣に必ずブラコンエリザがついてきて何の進展も得られなかったのだ。


(これでカール様をゲットできるわ!!)


ルーシーは嬉しくて仕方がない。


(これでカール様は私のもの……カール様だけじゃないわ、ダフォディルにいるエリザの取り巻きだって私のものよ!みんな、みんな、私のもの!)


今まで何をやっても二番手だった。

エリザに勝つことは出来なかった。

そのエリザがいなくなったのだ。


(エリザもソフィアバカね。何でわざわざ面白くもない行儀見習いなんかやるつもりになったのかしら。そんなの行かなくったって()()()()は十分やってるのに)


ルーシーは得もいえぬ優越感に浸りながら ダフォディルまでの帰路にうっとりと身を委ねる。


(やっと、二人きり///)


窓の外に向けるカールの遠い眼差(まなざ)しに気づこうとしないまま……



















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