表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/557

263. cherry´s かんざし編 2(ソフィアの場合) ★

挿絵挿入しました(12/16)

イメージ壊したくない方は画像オフ機能をお使いくださいm(_ _)m




「そろそろ出立の準備をしませんとね」


ソフィアのパーティーの支度をしながら女家庭教師(ガヴァネス)のスーザンがソフィアに話しかける。


ダフォディルの第一、第三、中央地区を統治しているキャンベル家のエリザの誘いで キャンベル家の別荘地へ行く途中だったのだが、エリザの兄カールが このドワーフの村のアイリーンという娘に熱をあげてしまい、滞在が延びていたのだ。


「カール様も いい加減諦れば宜しいのに……ソフィア様ももう少し頑張ってカール様にアタックしないと!」


カール様は素敵だ。

狙っている女性は多い。

この旅に一緒に招待されたポートマン家の次女ルーシーだってカール様を狙っている。

私だって、カール様は素敵だと思う。

カール様がお相手ならどんなに良いだろうとずっと夢見ていた。


「私なんかには無理よ」


もう ここへ来てひと月が過ぎてしまった。

カール様は そろそろ冬の休暇を終わりにし、春へ向けての準備をしなくてはならない。

少し遅いくらいだ。

そのため、ダフォディルの街の本家から戻ってこいとの知らせが届いたのだ。


カール様はアイリーンを諦めてはいなかった。

毎日毎日プレゼントを持ってはバーガーウルフに通っていた。

毎日毎日柱の陰からから見守っていた。


()()()()()()()が来てしまったのだ。

帰ってこいと。


(折角友達が出来たけど……)


ソフィアはため息をつく。


数日前ドワーフのリズとスノーと知り合った。

それからというもの、仕事が終わると二人は毎日遊びに来てくれた。

貴族の友達との会話とはまた違う楽しさや発見があった。

おしゃれの事、素敵な恋の話し、お菓子を食べ、絵を描き、一緒に物語を紡ぎ……

村の事を教えてもらいに、今度、バロンという名のリズの従魔に乗って 村を案内してくれるという約束もしていたのだ。

魔物を従えているなんて凄い!

ワクワクしていた。

だけど……


ソフィアは国に帰らなくてはいけない。

招いてくれた主人であるカールが帰るというならば従うしかないのだ。


ソフィアは少し残念な気持ちでパーティー会場へ向かった。


パーティー会場につくと、会場は淡い色で溢れていた。

今流行りのピンクの口紅に合うように、パステルカラーのドレスを着ている女性が多いからだ。


一番多いのはシンデレラカラー、水色のドレスを来た女性が多く見られる。

前回のサクラの影響だ。


デザインや宝石は違えど、前回サクラが着ていた水色を基調とし、同色の濃さを変えたリボンやレースでデザインされたドレス。

どのお方も一人として同じものがないのが凄い。

()()()()()のお約束どおり、サクラの真似をして レースのストールで 上品に肩を隠している。

殿方のジャケットを肩に羽織っている方もいる。


「やっとこの田舎ともお別れね」


ソフィアと同じくエリザに招待してもらったルーシーがグラスを片手に 機嫌良くソフィアに近づいてきた。

ルーシーはカールを狙っていたのだから、ダフォディルの街に帰れるのが嬉しいのだろう。


「ルーシー、ドレス素敵ね」


「うふ、ありがとう」


ルーシーは前回のサクラを彷彿させる 水色ドレスとパールの髪飾りをつけていた。

あんなにサクラを敵視していたのに。


「効果アリよ、さっきからお誘いが多いの♪」


ルーシーはピラリと 手袋の間から 数枚のエスコートカードを広げて見せた。


「ソフィアはドレス新調しなかったの?」


「……うん、口紅だけ」


()()()()したところで どうせ相手は父が連れてくるのだ。

話すのは得意じゃないし、こうやって遠くから素敵な人を見つめて夢を見ている方がいい。


そうしている間にも ルーシーには誘いがかかる。

ルーシーは淑やかに微笑むと、ソフィアに軽くウインクして行ってしまった。


(エリザは どこにいるんだろう……あ、いた!)


エリザを探して会場を見回すと奥のほうで カールと共に挨拶回りをしているエリザが見えた。


(エリザは 諦めがついたんだろうか……)


エリザも兄のカール同様、この村にいるエルフの『イシル様』に熱をあげていた。

健気にも、彼が来ると聞いて 毎日村の薬草園へと手伝いに行っていた。

農民のような格好をして、泥にまみれ、汗を長し、畑に入る。


似た者兄妹だ。

思い立ったら即行動。

キャンベル家に力があるのは、エリザがリーダー格で一目置かれているのは 家柄のせいじゃない。

引力があるからだとソフィアは思う。

その行動力がキャンベル家の強さだ。


(あれ?)


淡いドレスの溢れる中、ひときわ目を引く濃いドレスを着た人がいた。


(あ、サクラさんだ)


可愛らしいドレスの波の中、凛とした濃い紫のドレスを着て 煌めくダイヤで髪を飾り、真っ赤な口紅をさしている。

なのにケバケバしく見えないのは ふんわりとした女性らしい丸みのせいか。


(凄く、素敵……)


大人の香り漂う紫の不思議なドレスは 夜の夢のように 見る者を引き付けた。

そして、ユラユラと揺れる不思議な髪飾り。

短いサクラの髪をきゅっと引き上げ 首のラインが美しい。


前回とは別人のようだ。


先日 大階段のホールで会った時のサクラは 普通の人だった。

むしろ ソフィアと同じく 目立たない、幼い感じの。

スタイルだって、良いわけじゃなかった。


(あんなに、変われるの?)


これは 魔法。

女の子にかけられた魔法。

サクラもルーシーもこの会場にいる女の子達も アスの魔法にかかっているのだ。


なにより目を引くのが――


赤い口紅。


サクラの印象を一番変えているのは その口元。

見ているだけでドキドキするような 媚薬のような赤。


サクラの隣で 唇に魅了されながらエスコートしている男性の 顔がうっとりと……


(ハル、様!?)


サクラの隣でうっとりと見つめ、甘えた顔で微笑んでいるのは ソフィアの憧れの男性、村の警備隊員のハルのだった。


ソフィアは一気に顔が熱くなり、ドキドキが止まらなくなる。


(何でハル様が)


白い礼服姿のハルは、正に 夢に描いた王子様のようで……


″サクラさぁん″


蜂蜜のようなとろける声でサクラの名前を呼び、甘い空気を漂わせている。


(外の風にあたってこよう///)


ソフィアはふたりに当てられて 気を落ち着かせようとバルコニーに出た。


(ふう///)


バルコニーのベンチに座り、メガネを外す。


ドキドキする。

胸が痛い、切ない、苦しい、、

あんな顔でハルに見つめられるサクラが羨ましい。


その反面、きゅんとした。

二人の醸し出す甘い雰囲気に憧れを懐いた。


ハルの正装した姿、たたずまい、笑顔、、

いつもの爽やかな笑顔ではない、もっと、熱のこもった表情に。

ソフィアの中に、想像が膨らむ。


村の警備員と貴族の娘の恋物語。


(書きたい)


この気持ちを文章にのせて、物語にしたい


(書きたい)


このトキメキを 忘れてしまわないうちに


(書きたい)


恋する気持ちを筆にのせて……


″カシャン″


「あ、メガネ……」


ソフィアは興奮して、ベンチに置いたメガネを手で弾いて落としてしまう。

それを拾う人影。


「すみません、ありがとうございます」


メガネを拾った人物は、メガネをソフィアに向けると、スッとソフィアの顔にメガネをかける――


「!!?」


「みえる?」


目前にはっきりとうつる人の顔……


「あ///う///」


「割れてないみたいだね、よかった」


キラキラの笑顔……


ソフィアの隣に座り、ソフィアにメガネをかけてくれたのは、今、正に、想っていた……


(ハル様!!)


ハルがメガネ越しにソフィアを覗き込んでいたのだ。


「ど///どど///ど……」


「?」


駄目だ!しゃべれない!!

これは 夢!?

ソフィアは 頑張って言葉を探す。


(何を話せばいいの!?)


ルーシーが言っていたのは、確か、、会話を続ける方法は……質問!質問で会話を返せば相手は答えてくれる。

そして、長く会話するコツは、出来れば、共通の話題、、共通の……


「あの、サクラさんは……」


これくらいしか思いつかない自分が情けない。


「サクラさん?サクラさんを知ってるの?」


帰って来た!会話した!


「この間、お話をさせていただきました。リズとスノーと……」


「リズとスノーも知ってるんだ~」


会話が成立してる!嬉しい!!えっと……


「いいんですか?サクラさんはホールにいるんですよね?」


「うん、僕の役目は終わり。アス来たし」


ハル様は、アス様が来るまでの代わりだったんだ!そっかあ、そっかぁ……


「サクラさん、今日綺麗でしたね」


「うん」


「大人っぽくて」


「うん」


「赤い口紅が素敵でした」


「そうだね」


駄目だ!質問しなきゃ、えっと、えっとぉ……

頭がぐるぐるする。

頑張れ!私!!


「君の唇はピンクなんだね」


「え?」


ハルがソフィアに笑いかける。


「赤もいいけど、ピンクもかわいい」


(かっ///かわいい!?)


「君に似合ってる」


(ハル様が、、私に、、!!?)


ハルがバルコニーに足をかける。


「じゃ、またね」


キラキラの笑顔をソフィアに見せて ハルはヒラリとバルコニーからとびおりた。


「あっ!」


バルコニーから下を見ると、ハルがスタスタと歩いて行くのが見えた。


(……またね、ですって///)


ソフィアはハルの背を見送りながら溢れる気持ちを押さえられないでいた。


これは何?


この突き動かされるような高揚感は……


内側から何かが溢れてくる。

気持ちが 溢れてくる。

力が 溢れてくる。


この気持ちを……


(書きたい!)


そのためには……


ソフィアは意を決して ホールへと戻ると、アスの前に進み出た。


「あら、子タヌキ(ソフィア)ちゃん、どうしたの?」


(終わりになんかしたくない!)


ソフィアは ぐっと 拳を握って顔をあげる。


「アス様……」


声が震える。

でも、アスの顔をしっかりとみつめる。


道は一つじゃなくていいとサクラは言った。

逃げ道も含めて、道は沢山ある。

途中で道がなくなったら、戻っていいし、曲がっていい、と。

ソフィアが決めてもいいんじゃないかと。


ソフィアは初めて自分から一歩踏み出す。


「私を行儀見習いで ここに置いていただけないでしょうか」


今 ソフィアの物語が始まろうとしていた。





挿絵(By みてみん)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ