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261. 指輪の行方

サンドイッチは洒落のネタとして砂と魔女以外ならなんでも挟んで食べられると何かの本で読んだ記憶があります。


でも サンドイッチって「sandwich」って書くんですよね「witch(魔女)」じゃない(笑)



「レオ、なんか焦げ臭いよ」


「うわっ!パンみて、ユーリ、パン!」


″ガシャン″


「まっくろだよ、パン……レオ、鍋吹いてる」


「うおっ!あちっ!!」


次の日の朝、組合会館のキッチンで死闘を繰り広げるレオ。


「おお~、見事な失敗作だな~」


ラルゴが起きて来て キッチンをのぞく。

鍋は吹きこぼれ、パンは墨になり、絵に描いたような大惨事。

無事なのはサラダだけ。


「すみません、ラルゴさん朝食の支度をしようと思ったんですけど……」


いい心がけだなとラルゴは思う。

レオは ちゃんと仕込めば気のまわるいい商人になりそうだ。


「オレも料理上手くないが、レオも大概だな」


ラルゴは笑いながら フライパンの中の卵をつまんだ。


″ジャリッ″


これは目玉焼き?スクランブルエッグか?卵の殻がジャリジャリする。

それと――


「しょっぺぇ!」


「それ、食べるんですか?」


「おっ、サクラちゃん おはよう」


キッチンで途方にくれる三人の後ろから

森のイシルの家から地下の魔方陣を通ってランとともにやって来たサクラが キッチンの惨状をみて声をかけた。

ランはそのまま警備隊駐屯所へと向かう。


「遅い朝食ですね」


「うん、昨日遅かったからね」


ラルゴがふわぁ、と アクビをする。


「よかったら私作りましょうか?」


「いいの!?サクラちゃん!」


ラルゴの目からハートが飛び出した。

メロリンしてるのが傍目にもわかる。


「今日は午後からパーティーがあるだけなので時間があるんです。簡単なのでよければ」


「いい!いい!なんでもいい!サクラちゃんが作ってくれるなら~(サンド)でも魔女(ウィッチ)でも食べちゃうよ~ん」


大丈夫か、この男……


「ラルゴさん顔洗って着替えてきて下さいよ」


「はぁ~い///」


本当に大丈夫か、この男……


呆れてちょっと引き気味のレオとユーリに、サクラが『仕事は出来る人だから』と、一応フォローを入れる。


サクラがキッチンに立ち、フライパンに手をかけたところで ユーリがサクラに聞いた。


「それ、捨てるの?」


レオの作った朝食、、勿体ない。

まずいけど腹は膨れる。


「そんな勿体ないことしないよ。食べ物の神様に嫌われたくないし。飼料と混ぜて豚さんにたべてもらうの」


「食べ物の神様に嫌われちゃうんだ」


「そうだよ、食べ物を粗末にするとね、怒られちゃう」


サクラがチラリとユーリを見る。


「ユーリに嫌われてもいいけど それだけはイヤ」


ユーリはサクラに嫌みを言われた。


「別に、嫌ってなんか……」


ユーリは口ごもる。

サクラはふふん、と笑うと レオに向き直った。


「じゃあ、レオも、一緒に作ってみよっか、朝ごはん。簡単なの作れたほうがいいでしょ」


「はい、よろしくお願いします」


(なんだよ、レオには優しいじゃんか)


ちょっと 面白くない。


「目玉焼きの卵は殻が入っちゃうなら一度別の器に割ったらいいよ」


「はい。わっ!黄身がつぶれた!」


「じゃあスクランブルにしちゃおっか」


ボウルに卵を割り入れて牛乳と、塩、こしょうを加えて解きほぐす。

牛乳を加えたスクランブルはふんわりとろとろ。

オムレツみたいに形づくらないから牛乳を少し多めに加える。


″ジュウ~″


バターたっぷりスクランブル。


「焦らず、弱火でかき混ぜれば良いだけだから」


均一の固さになるようかきまぜるのが理想的なふわふわスクランブルエッグの要だ。


レオがスクランブルを作るのを見ながら、サクラは隣でベーコンを焼く。

ジリジリと焼けるベーコンとスクランブルのバターの香り、そしてタマネギスープのほんわかいい匂いが混ざり合い、部屋を満たす。


テーブルの上には こんがりとキツネ色に焼けたトースト、ぱりっとサラダ、新鮮なミルク。

幸せの朝食、、


「「いただきます」」


ユーリはレオ、ラルゴと共に食卓を囲んだ。

なんだか、変な感じ。


イチゴジャム、マーマレード、ピーナツバター……どれにするか迷うなぁ。


(やっぱり、コレ!)


ユーリはトーストにイチゴジャムをたっぷりぬってかぶりついた。


″サクッ″


甘酸っぱいイチゴジャムのトースト……久しぶりだ。

母さんの手作りジャムを思い出す。

ごろりと果肉が残る手作りジャムは イチゴの実がプチプチと弾け、甘くて美味しい。


「レオはまず 料理を少し覚えた方がいいな。モルガンピューラーを使いこなせるようにならないと」


トーストにスクランブルをのっけてムシャムシャと食べながらラルゴがレオに今日の仕事内容をはなしていく。


「午前中はサンミのとこで特訓だな。ジャガイモの革剥きだ。午後は五の道に行って加治屋まわり。自分の扱う商品を知らないと」


「はい!」


ユーリは 美味しい朝ごはんを食べながら 打ち合わせをするラルゴとレオをよそ目にキッチンをのぞく。

サクラが片付けをしている後ろ姿がチラチラ見えた。


サクラが 気になる。


(また歌ってる)


サクラは鼻唄を歌いながら 後片付けをしていた。

ラルゴとレオは仕事の話をしている。


ユーリは空になった牛乳のカップを持って、サクラに近づいた。


「牛乳、おかわり?」


「……うん」


サクラはユーリのカップに牛乳を注ぐ。


「あのさ」


ん?とサクラが首をかしげる。


「指輪、本当はオレが落としたんだ」


サクラが驚く。

『呪い』の効果がもうでたようだ。


「だから、、ゴメン」


「レオとは仲直りしたの?」


「昨日の夜に……」


さくらはふふんと笑う。


「しょうがないなぁ、許してやろう」


「なんだ、偉そうだな」


「当たり前じゃん、私、被害者だし」


「うぐ、、なんかムカつく 大人のクセに心が狭いな」


「大人がみんな子供に優しいと思ったら大間違いだよ。謝ったから 許してあげる」


さくらの許し方は 変な言い方だったけど、いいよと優しく言われるより よっぽど許された気がした。


「朝ごはんたべたらさ、一緒に探しに行ってみようよ、指輪」


そう言って さくらは ユーリに牛乳を渡してくれた。





◇◆◇◆◇





朝食後、ユーリはサクラと指輪を探して三の道を歩く。


「サクラはさ、なんで自分じゃないって言わなかったんだよ」


「指輪の事?」


「うん」


「う~ん……私もさ、昔は子供だったんだよ」


「当たり前だろ」


そうだね、とサクラが続ける。


「私も子供の頃 ウソついたことがあってさ、そんとき、自分がやったって言えなかったんだ。だから、ユーリの気持ちがわかったの」


サクラはもっと悪かった。

お菓子が食べたくて、仏壇にあったお金を使ったのだ。


母に疑われ、ユーリのように責められた。

やはり、自分じゃないと言い張ったんだ。

怒られるのも怖かったし、悪い子だと思われるのも嫌だった。


金額の問題じゃない、行動が問題だから母は怒ったのだ。

黙ってお金を使ったこと、嘘をついたこと、責任逃れしたこと。


そしたら父が『オレがやった』と言い出したのだ。

父はわかっていた。

サクラがやったことだと。

「本当は自分がやりましたと」後で言い出すのを待っていてくれた。


「だから、ユーリが自分から本当の事を言うのを待ちたかったんだよね」


父がしてくれたように。

思うに、うちでは怒るのは母の役目で、父は最後の砦だったのだ。


ユーリには怒ってくれるレオがいる。

だから、あの瞬間、ユーリの砦になってあげたかった。


結局サクラは打ち明ける事が出来ないまま 大人になってしまった。

今でも小さなシコリとして胸にある。

もう、謝ることもないだろう。

父は亡くなってしまったし、母もきっと忘れている。


二度と自分のために嘘はつくまいと決めた。

自分への戒めとして。


「偉いね、ユーリは ちゃんと謝れて」


サクラはそう言ってユーリの頭をそっと撫でた。

サクラの柔らかい手が心地よくユーリの頭を滑っていく。


サクラは ユーリの知っている他の大人とちょっと違う。

サクラの言葉は どの言葉もわかりやすく、ユーリの胸にストンと落ちる。


「サクラは今も子供みたいだな」


「そうだね()()にいるとそう思うよ」


ユーリはサクラの手をそっと握ってみる。

サクラは嫌がらず、ユーリに笑いかけ、ユーリの手を握り返してくれた。

なんだか、嬉しい。


「来たのはこの辺まで?」


「うん」


残念だが 指輪は見当たらなかった。


「あ、、エルフだ」


「え?」


ユーリが 三の道から四の道へ折れた横道の先を見て声をあげた。


「イシルさん!?」


イシルがトン、トンッと飛んで来る。


サクラの顔がぱっと輝いた。

サクラがあまりにも嬉しそうにしたので、ユーリはちょっと嫌だなと思い、サクラの手をきゅっと握る。


「彼氏か?」


「えっ///ちが、、家主……さん、かな」


「ふ~ん」


サクラが動揺してる。面白くない。


「どうしたんですか、イシルさん オーガの村に行ったんじゃなかったんですか?」


「ええ、指輪を探していると言っていたので、心当たりを探しに」


「心あたり?」


「はい」


イシルが手の平を広げて見せる。


()()ですか?」


イシルの手には沢山の指輪がのっていた。

色とりどりの指輪はどれも古そうだが、ピカピカに磨かれてキラキラ光っている。


「どうしたんですか!?コレ」


使兎(シト)の寝床から拝借してきました」


「あの、墓守りの?」


使兎(シト)はどの町にもいる 墓場に巣を作り群れで 人のように生活を構築するネズミ大のウサギだ。


「はい。話を聞いて朝のうちにその子の、、ユーリの足跡を辿りました」


レンジャーの能力(スキル)だ。

自然を読み取る能力、山歩きの力。


「足跡は大分消えていましたが、大体の場所はわかりました。ですが指輪は見当たらず、もしかしたら光り物を集める習性のある鳥か何かの巣にあるんじゃないかと見当をつけてもう一度痕跡がないか探したんです」


なるほど、カラスとか光る物を集めるって言いますしね。


「途中に使兎(シト)の足跡を見つけて、これはと思い、見に行き、今交渉して 拝借してきたところです」


イシルはユーリの前に片足付くと 再び手の平を広げて見せた。


「この中にありますか?」


サクラも一緒にしゃがんで覗き込む。

すぐにユーリの目が輝き、沢山の指輪の中から 1つをつまみ上げた。


「……あった」


シンプルな細身のシルバーの指輪。

流れるような文字が刻まれている。


「あったよ!サクラ!」


「良かったね」


ユーリはしゃがんだままのサクラの首に抱きついてハグをした。


「サクラ、ありがとう」


″チュッ″


サクラの頬にキスをする。


「お礼は私じゃなくて、イシルさんに」


ユーリはサクラに言われ、イシルに向き。


「ありがとう、()()さん」


イシルの首に腕を回し きゅっと抱きつき、イシルの耳元で何事かを囁いた。

サクラが微笑ましく見守る中、聞いたイシルの眉尻がピクリと上がる。

ユーリはイシルから離れ、サクラに向き直る。


「オレ、レオに教えてくるね」


「うん、レオは今ごろは まだ銀狼亭にいるんじゃないかな」


じゃ、と ユーリはサクラに笑顔を見せて イシルに一目くれると、指輪を握りしめて 銀狼亭へと走っていった。


「かわいいですね~」


サクラはユーリを見送りながらのほほんと微笑む。


「かわいいですか~?」


イシルの言葉に剣がある。

ちょっと ご機嫌ナナメのご様子。


「あまり愛想を振り撒かないでください」


「ユーリのことですか?子供ですよ?いくつ離れてると思ってるんですか……」


「僕とサクラさんよりは離れてません」


それ言ったら全員ですよ!?

貴方は規格外でしょ1200歳。


「……イシルさん、大人げないです」


サクラは昨日イシルに言われた言葉を返す。


「サクラさんはわかってないんですよ」


ユーリがイシルの耳元で呟いた言葉――


″サクラは渡さないから″


まったくけしからん。

トムと言い、ユーリと言い、最近の子は早熟すぎる!

あんなに易々とサクラの頬にキスを……


「イシルさんはこれからオーガの村に行くんですか?」


「ええ、その前に使兎(シト)に指輪を返しに行かないと」


「イシルさん使兎(シト)と話せるんですね」


サクラはイシルが使兎(シト)と話しているところを想像する。


「そういえば 猫の姿のランとも話してましたね」


それもレンジャーの能力(スキル)のようだ。

かわいいな。


「私も一緒に行ってもいいですか?」


「え?」


「あ、急ぎますよね?やっぱりいいです」


サクラが慌てて否定する。


「いえ」


イシルがサクラの手を取り――


「僕も一緒に居たいですから」


と、二人でのんびり 五の道にあるドワーフの墓場まで歩いて行った。













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