260. アモジョ(ユーリの場合) ★
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新しい家が決まった。
ユーリの兄であるレオが『組合会館』というところで商人見習いとして 住み込みで働くことになったのだ。
給料は安いみたいだが 寝るとこがある。
「お前ら、一緒の部屋でいいんだろ?」
組合長のラルゴが部屋へと案内してくれた。
「はい、ありがとうございます」
レオが礼を返し、二階へとあがる。
この組合会館には、部屋が4つあり、組合長のラルゴと警備隊隊長のギルロスが住んでいて、部屋が二つ空いていた。
「オレ、一人で寝る」
「ユーリ!」
「おっ、一人で寝れんのか?」
もう七歳だ。一人でも寝れる。夢の一人部屋だ!
「子供扱いすんなよ」
ユーリはレオを振り切り、案内された部家の向かいの空き部屋へ入った。
「すみません、ラルゴさん」
「いいよいいよ、部屋はあるんだし」
夜、ユーリは灯りを消してベッドに入る。
今日 母さんの指輪を失くしてしまった。
嘘をつくつもりなんてなかったのに、レオの顔を見たら失くしたと言えなかった。
落としたけど、レオに気づかれないうちに探してしまえばいいと思ったんだ。
そしたら失くしたことにはならないだろ?
結局レオにバレてしまったんだけど。
あの『サクラ』というヤツは 犯人にされたのに 何で『自分じゃない』と言わなかったんだろう……
もやもやとしたものがユーリの中に膨らんでくる。
悪いことしたかな……
いや、知ったことかよ
ユーリは寝返りをうって天井をむいた。
シーンと静かな部屋は、一人で寝ているととても広く見える。
天井の黒い影を見ていると、人の顔のように見えてきて、そうじゃないことを確認しようと見つめているてと段々大きくなりユーリに迫ってきた。
『ウソつきめ!』『ずるいヤツ!』『悪い子だ!』
ユーリの中にあるモヤモヤの正体は罪悪感。
ユーリにはわからない、お化けの正体。
ユーリは陰から逃れるよう横を向いて、再びぎょっとする。
窓の外に、手を広げ髪を振り乱した影が見えたのだ。
ガバッと頭から布団を被る。
(あれは影だ、木の影と葉っぱがあんな形に見えるだけだ、こうすれば何も見えない)
″カタン″
(ひゃっ!)
窓に何かが当たった。
(風だ、あれは風の音だ)
″コン、コン″
入れてくれと窓を叩いているような音。
ユーリは布団の中で耳をおさえ身を固くする。
(レオ……)
いつもレオと一緒に寝ていた。
野宿のときも、宿のベッドで寝れた時も、一緒だった。
狭くて、窮屈で、寝相が悪くて、男臭くて、、
『……』
(あれ?人の声?)
ため息のような ぼやくような声がする。
なんか、言ってる……
『……モウ』
(!!?)
聞かなきゃいいのに聞いてしまった。
『アー……モウ』
(この声、、アモジョ!!?)
この村には『アモジョ』がでる。
夜な夜な嘘つきを探して女が現れるんだ。
『あー、もう!あー、もう!』て言いながら。
ユーリはベッドで小さく怯える。
嘘をついたから?
オレがウソをついて人のせいにしたからアモジョがオレを探しに来たのか!?
『アーモウ、、』
(撃退法はなんだった!?サクラは何て言ってた!?)
頭の中で さっきの窓の外の黒い影が襲ってくる。
″コン、コン″
(ひっ!)
ユーリは堪えきれず、部屋を飛び出した。
『アー、モウ!』
声がさっきより近い!
ユーリは向かいのレオの部屋のノブをまわす。
レオの部屋のドアに鍵はかかっていなかったが、手が震えてうまくまわせない。
(レオ!レオ!助けて!!)
なんとかドアをあけ、部屋に入ると、ユーリはレオのベッドに潜り込んだ。
「ん、、どうした?」
レオが寝ぼけ声でユーリを向く。
「にーちゃん……」
ユーリはレオにしがみついた。
レオは 震えるユーリを引き寄せると、無言でふんわり抱きしめる。
ユーリが″にーちゃん″て呼ぶのは久しぶりだ。
「ごめん」
「……ん」
ユーリがレオのシャツをきゅっとつかむ。
「指輪……」
「うん」
「ごめんなさい」
「いいよ」
レオはユーリを安心させるようしっかりと包み込んでくれた。
レオの腕の中は あったかい。
アモジョは嘘つきを探して夜な夜な歩き回る。
嘘をつかなければ現れない。
撃退法は『嘘を認めて謝ること』だ。
ユーリはレオの腕の中で とろとろと微睡む。
アイツにも……
サクラにも明日謝ろう……
◇◆◇◆◇
「あー、もう!なんだってこんなに読みづらいんだ!!」
ラルゴは部屋で書類の整理をしていた。
明日、レオに教えるのに、一度まとめておこうと書類を引っ張り出したのだが、夜中を過ぎても終わらない。
「あー、もう!モルガン爺さん字、汚すぎ!!」
ドワーフの年寄り連中は、クセ者揃いのクセ字揃い……
ラルゴは頭をかきむしる。
「あ″ーっ!もうっっ!!」
ラルゴの部屋は ユーリの寝ていた部屋の隣だった。




