259. ユーリとレオとサクラの呪い ★
挿し絵挿入しました(12/11)
イメージ壊したくない方は 画像オフ機能をお使い下さいm(_ _)m
「あいつがとったんだよ、母さんの指輪」
男の子はサクラを指差した。
何て事を言い出すんだこの子は!!
そして人を指差すんじゃありません!!
「オレ、見たんだ、アイツが部屋から出てくるところを、アイツが指輪とったんだよ」
店先で弄ってたあの指輪か。
うわあ、失くしちゃったんだね。
失くしたって言えなくて咄嗟に嘘を……
サンミさん、ローニさん、私を見て 私がいちばんチョロそうに見えたんだな、コノヤロウ。
せめて『知らないおじさんがやって来て、、』とかにしといてくれ。
私を巻き込むなぁ~!!!
「盗ったところを見たわけじゃないんだろ?ユーリ、お前があの指輪を部屋に置きっぱなしにするわけないじゃないか!」
ああ、お兄さんはわかってるのね、弟ユーリが嘘をついているのを。
でも、イライラしちゃいかんよ?
逆効果だよ?頭ごなしに否定したら。
嘘だとわかっていても、何でそんな事言うのかちゃんと目線に立って聞いてあげないと――
「見たんだ!そいつが指輪盗んでるとこと」
ほらね、反発した。
更に嘘を重ねる。
今を逃れるために子供がつくその場凌ぎの咄嗟にでた嘘に、深い意味なんてない。
怒られたくないだけだ。
相手を困らせようとか、面白いからとかじゃなく、自分を守るために嘘をつく。
自己防衛。
そして、その嘘を守るためにまた嘘をつく。
自分を追い込んでいるとも知らずに。
でも、どうしたらいいかなんて 自分でもわかんないんだよね。
怒られる恐怖からくる反応、もしくは、大事なものを失くしてしまって、お兄さんをがっかりさせたくないから、とか……
わかりにくいけど、これはユーリからのSOSだ。
どうすっかなぁ……
「いい加減にしないか!どうせお前が失くしたんだ!」
ああ、お兄さん、ダメだよそんな頭ごなしな怒り方しちゃ……
どんどん意固地になるよ?ユーリくん。
謝れなくなっちゃう……
「だって、そいつが……」
もう無理か。
謝れる雰囲気には持っていけそうにない。
サクラが否定しないのを見かねて ローニがかわりに否定する。
「サクラは部屋になんか入ってないよ、部屋の掃除はアタシ一人でやったんだから」
「えっ!?」
ローニの言葉にユーリの目が泳ぐ。
「サクラは洗濯しただけさね。二階には上がってもいないよ」
ユーリが黙り込み下を向いた。
「なんでお前はそうなんだ、いい子にしててくれよ!これ以上手を煩わせるなよ!」
兄の言葉に ユーリが一瞬泣きそうな顔をして……
「じゃあ あん時 オレを捨てればよかったじゃないか!」
そう言って店から飛び出して行った。
今度はお兄さんが泣きそうな顔をした。
「いいのかい?追っかけなくて」
サンミが後を追うよう兄を促す。
「いいんです。ほっとけば。どうせ行くとこなんかないんだし、すぐ帰ってきますよ」
兄も大概いじっぱりのようだ。
「あんた達、商隊と一緒に来たんだね」
「はい。オレはレオニード、、レオといいます。お騒がせしてすみませんでした」
会話から汲み取るに、両親はおらず、兄弟二人で商隊についてまわっているようだ。
「オレの考えが甘かったんですよ。弟を抱えたまま移動するなんて。やっぱり孤児院に頼んでくればよかったんだ……」
ユーリの『あん時 オレを捨てれば……』発言はその事か。
「はじめはよかったんです。でも、最近言うこときかないし、可愛げはないし、何考えてるかわかんない……」
うん、それはきっと寂しいんだ、ユーリくん。
気を引きたくてワガママを言う。
かまって欲しいから。
でも面と向かって甘えたいなんて言えないんだ。
お兄さんの力になりたいし、カッコつけたい。でも寂しいからつい口からワガママがでてしまう。
「何で連れてきたんだ、ユーリがいなければもっと稼げるのに……」
何で、って……
「一緒にいたいから、じゃないの?」
「えっ?」
レオがサクラの発言に驚いて顔をあげた。
お前も私のことをチョロインだと思っていたなコノヤロウ。
当事者(犯人)ど真ん中だったのに、私の存在忘れていただろう!
「一緒にいたいから連れてきたんだよね?それともお金を稼ぐ事が目的だったの?」
「それは……」
サンミがサクラの言葉を引き取り続ける。
「子連れで商隊に参加するなんて、随分頼み込んだんだろ、ちゃんと愛情があるじゃないか」
「オレ、でもがしっかりしないと、、愛情だけじゃ……」
「そうだね、食ってかなきゃいけないからね。あんたはちょとがんばりすぎで、疲れてるだけさね」
ポツリと、レオの目から涙が落ちた。
「ユーリはまだ小さいんだし、オレが……」
ポロポロと不安がこぼれ落ちる。
サンミは あんたはよくやってるよ、と、レオの背中に手を当てる。
レオはレオで不安だったんだ。
頼る者はなく、ユーリを背負って進まなくてはならないから。
「アザミ野に行くつもりだったのかい?」
「はい、大きな町に行けばユーリと二人で住めるところと働き口があるかと思って自分の村を出ました。オレのいた村は、その、、あんまり裕福じゃなくて……いくつか町を渡ってきたんですが、子供はって……」
「そうかい……」
「この村で警備隊募集してたから志願しに行ったんです。でもオレ、冒険者カード持ってなくて……」
この村の警備隊入隊条件は『冒険者カード所持』最低ラインの戦闘訓練を受けていること。
自分の身すら護れないものは入れない。
「商人カードじゃどうにも……」
「「商人カード!!」」
レオの言葉にサクラとサンミの声がハモる。
レオは、はてな顔だ。
「お前さん、商人カード持ってんのかい!?」
「はい、それで雇ってもらって、商隊についてきてノウハウを……」
サクラとサンミがひそひそ話す。
商人カードはこの村の者は面倒臭がって持ってない!
持っているのはラルゴだけ。
(そう言えば、ラルゴさんが人手が欲しいって言ってましたよね)
(こんなところにカモがいるなんて……)
サンミの目が獲物を狙う目付きに変わる。
いや『カモ』は失礼ですよ?サンミさん。
「それが、何か……?」
レオがサンミに怪しく微笑まれ たじろいだ。
「あんたをスカウトするよ、レオニード、就職おめでとう、住居付きだ」
◇◆◇◆◇
それからのサンミさんは素早かった。
レオとラルゴを引き合わせ、商隊の長と話をつけた。
商隊の長という人は 子連れのレオを引き受けてくれただけあって、よかったなと喜んでくれた。
サクラはランと一緒に帰ろうと 警備隊駐屯所に向かう。
途中、三の道の少し先に ユーリがいるのが見えた。
何やら探し物をしているようだ。
「何してんの」
声をかけると、ビクリとユーリが振り向き、なんだ、お前かよという顔をした。
大人になりたがっている子どもは子供扱いしちゃイカン。
サクラは対等な位置でユーリに話しかける。
「お兄さん、仕事決まったよ」
「……ふーん」
「……」
「……」
ユーリは再び足下をさぐる。
謝る気はないようだ。
「探し物?一緒に探してあげようか」
「いらねーよ」
生意気だなおい。
自分で落とした指輪を探してるんだよね?
怒られるのが嫌で 私のせいにしたんだよね?
そうかぁ~、謝れないかぁ~
それでは仕方がない……
「お兄さん仕事決まったから ユーリくんはこの村に住むんだよね~」
「だから何だよ」
「別に~」
何だこいつと ユーリがいぶかしみ、また 足元を探して歩く。
サクラはさりげなく復讐を開始する。
「この村にはさぁ『アモジョ』が出るんだよね」
「アモジョ?なんだそれ」
おっ、食いついた。
「夜な夜な嘘つきを探して女が現れるんだよ『あー、もう!あー、もう!』て言いながらね」
「そんなの迷信だろ」
「そうだね」
サクラは組合会館の場所をユーリに教えると、暗くならないうちに帰りなよと 別れた。
門前広場に出ると 警備隊帰りのランとオーガの村から戻ったイシルと鉢合わせしたので そのまま三人で組合会館に行くと、玄関先でレオと会った。
どうやらユーリを迎えに行くようだ。
「すみませんでした、サクラさん。泥棒扱いして……後でユーリにはちゃんと謝らせますんで」
レオはサクラに謝ってくれた。
「いいんです。もう、呪いをかけてきたから」
「呪い?」
ふふんとサクラが笑う。
「それより、ユーリくんにもうちょっとかまってあげて。甘えるの下手そうだから」
「はい」
三の道にユーリがいたことを教えてあげると、レオは今日は色々ありがとうございましたと ユーリを迎えに行った。
普段は礼儀正しいいい子なんだね。
「サクラ、お前『呪い』なんて魔法使えたのか?」
隣のランが不思議そうに聞く。
「いや。魔法は使えないけど……」
呪いは使える。
私をチョロイン扱いした報いを受けるがいい!
「サクラさん、大人げない顔してますよ……」
ニヤニヤ笑うサクラを見て イシルがちょっと呆れた顔をした。




