247. 来客
「子ブタちゃん、イシルに似てきたわね……」
「え?」
「アタシの扱いがヒドイわ」
アスが悲しげな瞳をサクラになげる。
そんな顔しても騙されないよ?
「あれ?忘れたの私を見殺しにした事」
そう、かくれんぼの時 アスはサクラを囮にして逃げたのだ。
しかも、投げて。ぽいっ、と。
「てへっ」
「可愛い顔してもダメだから」
その後どれだけ恥ずかしい思いをしたことか!
「あ~ん、許して子ブタちゃ~ん!イシルからお仕置き十分受けたんだから!」
お仕置きって言うな。
アスが言うと卑猥に聞こえる。
「お客さんて誰なの?ダリア商会の会長ジャンさん?仕事なら着替えた方がいい?」
「子ブタちゃん、とうとう敬語がなくなったわね」
「仕事の時はちゃんと使いますよ」
ふふんと笑ってアスが執務室を開ける。
そこに座っていたのは、雅な笑顔を浮かべた――
「ヨーコ様!?」
「久しぶりじゃな、サクラ」
サクラはヨーコに駆け寄る。
相変わらずお美しい!!
「なんで?なんで?アスと知り合い?」
「いや、テンコの様子を見に来たらな、道の途中でスカウトされたのじゃよ」
「スカウト~?」
サクラはアスを見る。
「んふふ、このビジュアル、簪がよく似合いそうじゃない?」
なるほど!
簪はやはり和装、ヨーコ様ならぴったり!
赤い口紅もよく似合いそうだ。
「やったー!私はお役御免だー!」
ウキウキするサクラにアスから残念なお知らせが。
「何言ってんの、それはそれ、これはこれよ。子ブタちゃんは親しみを持ってもらうための先陣で、ヨーコはイメージアップのために 絵を描かせてもらうの」
ポスターか!
美しい方はより美しく、そうでない方もそれなりに、ですね?古いですが。
「その代わり、アタシもヨーコの手伝いしてあげることにしたの」
「手伝い?」
「うむ、もてなしの基本を教えて貰うのじゃ」
「ヨーコ様、誰かをもてなすの?」
「妾もオーガの村に貢献しようと思うてな、探したのじゃ。何かないかと。したらば、源泉があったことを思い出してのぉ」
てことは
「温泉!?」
「そうじゃ。オーガの村からドワーフの村に来る途中にある」
それは、凄いな!
「子ブタちゃんにもらった宿の本があるじゃない?もう、ヨーコと二人で、どんな宿にするかとか、従業員の教育の事とか、イシルのわからんちんとか、盛り上がっちゃったわ~」
さりげにイシルさんの悪口が入ってたよ?
それで意気投合したのか、女子会のノリだな。
「これも巡り合わせじゃ。引き合わせてくれたサクラに感謝せねばな」
「感謝だなんて、別に何もしてないですよ」
いやん、ヨーコ様、その微笑みだけで十分お釣りが来ますって!
しっかし、この二人が並ぶと圧が凄いな、次元が違う、最早別の生き物だ。美しさは罪~♪
あ、二人とも人じゃなかった。
「サクラはどんな宿がよいかえ?」
「温泉旅館か~やっぱり、竹に囲まれてるんですよね?」
「そうじゃな」
「いいなぁ、竹林の中の露天風呂、、」
温泉と竹林ダブルのヒーリング効果。
「露天風呂?」
「屋根がないお風呂ですよ。屋根あっても半分だけだったりして、風景や空を見ながら入るんです」
「風流じゃな」
「この本だと……」
サクラはペラペラと雑誌をめくる。
サクラがアスにあげた『プロが唸る日本のホテル・旅館100選』だ。
「これですね」
露天風呂の隣に設けられた脱衣場と石造りの浴槽に、半屋根つき。そして冬景色。
「竹林なら、こっちかな」
宿の脱衣場から風呂場まで 竹林の中バスタオルを巻いて飛び石を渡るモデルさん。
竹垣で囲まれた目隠しもちらちら見える。
「宿の料理はどうするんですか?」
「『海の壺』があるからのぉ、魚が主流じゃな」
魚かぁ!いいね!
「この辺りは海がないからね、新鮮な魚が食べられるなら人がくるわ」
アスも賛成のようだ。
醤油も造るし、お刺身とか、煮付けもいいなぁ~
「そこでじゃ、サクラ、この前作ってくれたアレを教えてくれんかの?」
「アレ?」
ヨーコがぺろりとしたなめずりする。
はしたないが、ヨーコがやると妖しい美しさを引き立てる。
「いなり寿司じゃ」
お弁当で持っていったやつか!
「あれは……」
「秘密のレシピかえ?」
「いや、、」
言いにくい
「……私じゃなくイシルさんが作ったんです」
「じゃあイシルを呼んでこようか」
アスがマルクスを呼ぶ。
「あ、でも……」
サクラはヨーコを見る。
「気にするでないサクラ、もう随分昔の事じゃ」
「そうですか?」
「愚痴を言い合える友も出来たしな」
そうか、なによりです。
「悪魔がこんなに愉快な者だとは知らなんだ」
「ヨーコ様は悪魔の知り合いは初めてなんですか?」
「そうじゃ。悪魔は精気がないからのぉ、男でも女でもない、妾の力にはならん、近寄る必要がなかったのじゃ」
え!?ヨーコ様、人の精気で生きてるの?
「オーガの村は良い。活きの良い男子が集まりおる。少しづつ分けてもらうのに申し分ないわ」
そうね、血気盛んな剣士達が集まるんですもんね……
「もうすぐイシルも来るから こっそりつまみ食いしちゃえばいいのよ」
「それは、、スリリングじゃな///」
「でしょう?」
アスとヨーコは 優雅にコロコロと笑う。
今、不穏な会話を……聞かなかったことにしよう。
イシルさんならきっと大丈夫だ。
てかイシルさん、そんなに美味しいの?
妖怪に狙われる三蔵法師みたいですね……




