245. シャナの竹打ち麺
竹打ち麺は現世にもあった。
竹の片方を固定し、もう片方に脚をかけ、体重を乗せ、少しずつずらしながらリズミカルに竹をしならせ、麺を伸ばしていく中国伝統の麺製法だ。
「シャナさん、その格好のままでやるんですか?」
「はい、下、はいてますよ」
ぴらりとチャイナの裾をめくればシャナはベリーショートパンツをはいていた。
「ね?」
シャナはサクラににこりと笑う。
それでも刺激が強いですよ、シャナさん。
シャナが竹に片脚をかける。
作業台の高さまで脚をあげて……
「おおっ///」
短パンはいてるとわかっていても、チャイナからのぞく太股は魅惑的だ。
チラリズムが 男の本能を大いに刺激してくる。
オーガの村から手習いに来た男衆も動揺を隠せないでいる。
″ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、、″
竹の軋む音と小刻みに上下するシャナの体。
「んっ、、ふっ///」
太くて なが~い 竹のしなる反動にあわせて少しずつ麺を打つ位置をずらしていく。
運動量が増えると シャナの顔が上気し、息があがる。
「ごくり///」
オーガたちの目線は釘付けだ。
これは、、いかんだろう!!
ラーメンの博覧会で見た竹打ちはこんなにエロかったっけ!?
(私でもムラムラするわ!!)
サスガドワーフ村の峰○二子!
お色気担当は違いますね、ド○ンジョ様もびっくりです!
「では、どなたかやってみてください」
はい!はい!と、我先にシャナに教えてもらおうと押し寄せる。
竹打ち麺はこうやって竹で生地を2㎜まで薄く 踏み伸ばしてはたたみ、踏み伸ばしてはたたみを繰り返す。
これにより細かい気泡が入り、生地がなめらかになり、コシがあって切れにくく、喉ごしのよい麺になるのだ。
「今日は『醤油ラーメン』にしてみました」
イシルが竹打ちされた麺をゆで、ラーメンを仕上げる。
チャーシュー、メンマ、煮卵、ネギ、ゴマ、、サスガにナルトはのってないが、正しく王道醤油ラーメン!
サクラは糖分控え目にと、イシルのどんぶりから小さいお椀にわけてもらう。
「麺は控え目に、肉は沢山食べてください、自信作です」
チャーシューたっぷり!すみませんね、お母さん。
「「いただきます!」」
お椀から香る鶏ガラベースのすっきり澄んだ醤油ラーメン。
コシコシの麺にあっさり醤油……
「ん?」
薄い花弁のようなものが浮いている。
ふわふわと羽根のよう。これは、、ワンタンだ!
試作の竹の箸でワンタンをつまむ。
向こうが透けるかと思うほど薄く、つるつるした光沢。
「ちゅるっ、ん~///」
ワンタンはつるんと口に滑り込み、あんなに薄いのに噛むともっちり!もっちりの中から具が飛び出し、胡麻油が香る。
中の具材は豚ひき肉とネギで、味つけはあえて薄め。
何故ならラーメンスープで味わうからだ。
「煮卵とろとろ~///」
醤油の染みた煮卵は黄身がまったり、とろっとろ。
半透明の濃いオレンジがまた食欲をそそる。
「サクラさん、こっち向いて食べてください」
イシルは有無をいわさずサクラを椅子ごと方向転換させ、自分のほうをむかせた。
「うわ!何を……」
「サクラさんの顔もとろとろだからですよ」
「あ、すみません」
「わかってます?」
「はい、すみません」
だらしない食べ方したかな、、アザミ野の子供達とかわらんな、こりゃ。
サクラには聞こえないがイシルには聞こえている。
オーガの村の男衆が ラーメン食べるサクラの顔を見て「オレ///この村に住もうかな」と言ったのを……
煮卵は半分そのままで味わい、もう半分は麺と一緒に味わう。
まったりとした黄身が絡んだ麺は最高に美味しい!!
この時 スープに黄身が溶け込まないよう注意する。
これは好みの問題だが、折角のスッキリスープが濁らないように。
「でも、醤油ラーメンは醤油がないと作れないのでは?」
サクラはこれは商品候補なのか聞いてみる。
王道醤油ラーメンは安定、定番の商品だが、異世界にイシルが作る以外に醤油があるのか?
「オーガの村は大豆がとれます。なので、醤油と味噌作りを教えることにしました。今仕込めば醤油は一年、味噌は夏には出来るでしょう。はじめに使う分は時間魔法を使い、僕が作ります」
「なんだか大掛かりになってきましたね、すみません」
「僕もこの先 自分で作らずに手に入れることが出来ますから」
イシルがイタズラっぽく笑う。
なるほど、趣味と実益と好みを織り込んだんですね!
じゃあ今度は味噌バターラーメン食べたいです。
コーンも入れて。
サクラは試作のレンゲでスープをすする。
レンゲは陶器でできていて、口当たりがすべすべしてていい。
適度な重さがあり 手にしっくり馴染む。
そして、箸は……
サクラはチャーシューをつまむ。
豚バラを小がとネギで煮込んだチャーシュー。
うん、掴みやすい竹箸。
「あむっ」
すべすべに丸くヤスリをかけられた竹の箸は先端が細目で上品だ。
とろとろチャーシューと麺を一緒にはさんで口にいれる。
「んふ///」
口一杯にチャーシューと麺が入り乱れる。
麺の小麦くさい風味、チャーシューの柔らかいけど肉の繊維を感じる噛みごたえ、甘いあぶらがとけまざり、最高です!!
イシルが何か言いたそうにサクラを見る。
「もぐっ。なんですか」
「……いえ」
そんなに見ないでくださいなイシルさん。
「そのテラテラの口は卑怯です」
「ああ、すみません」
サクラはあわてて口をふく。
「サクラさん 本当にわかってます?」
「わかってますよ」
わかってない。
サクラは最後の一滴まで飲み干す。
「ふはー///ご馳走さまでした」
「お粗末様でした」
イシルが満足気に応えてくれる。
サクラは食べ終わったのでテーブルに向き直り、オーガの男衆を観察する。
(あれ?)
やっぱり、ダメ?
シャナ、イシル、サクラ以外はうまく箸を使えていない。
シャナがはしの持ち方を教えてまわるが、なんとかつかめてもつるんと麺が逃げてしまう。
どんぶりに口をよせて無理やりすくって食べる者が多く、箸でレンゲに麺を乗せてレンゲをスプーンのようにして麺を食べている者もいる。
あれではうまさも半減だ。
菜箸みたいに二つを紐で繋げてみる?
「先端に切り込みを入れて滑り止めをつけるかなぁ……」
「箸ですか?」
サクラの呟きにイシルが聞き返す。
「はい。箸先の口に入れる部分に小さな溝がいくつかあるだけで、滑り止めになって安定感が増すんですよ。でも、滑り止めつけると口に当たるのが気になるんですよね。ぽこぽこして、私は好きじゃないんだよなぁ……」
サクラは箸の先端を眺める。
ラーメンが一番おいしく感じるのは割り箸だ。
個人的に。
竹じゃなく割り箸にする?
いやいや、それじゃあ折角のオーガの村の特色が消えてしまう。
「滑らかすぎるんですかね」
イシルも考えてくれる。
なめらかだから滑りやすい。
でもヤスリをかけないと竹はささくれて箸に使えない、、
「あ!そうか」
「どうしました?」
「この箸、先端が丸いじゃないですか、ヤスリをかけるとき角はとらず、先を四角くヤスリがけしましょう!これだけ箸先が細ければ四角くても気にならないと思います」
このラインのまま割り箸の形にするのだ。
丸箸より手にひっかかりやすいし、麺も滑りにくいはず。
「では、早速試作品を作ってみましょう」
「滑り止めありもやってみますかね~」
サクラはイシルに箸の説明をする。
紐で繋げたもの、滑り止め溝あり、太めの割り箸のサイズ、先端四角、、、
絵に描いてみて 、イシルがサクラの説明を書き込んだところで マルクスが会館入口に来たのが見えた。
「マルクスさん!お久し振りです!」
サクラがマルクスに気づき声をかけると マルクスがにしゃりと嗤い、その場にいるオーガの男衆が凍りつく。
「70点!もう少しですね~」
え?70点?
今ので70点??
もとはどんだけ怖いんだよ!!
30点ならどんな凶悪な笑顔だよ!
0点とか最早悪魔的!?
笑顔の怖さは族長ザガンが怒った時の怖さに匹敵する!!!
(族長ザガンは笑顔はかわいい)
そう思っても誰も突っ込めない オーガの男衆であった。
「お館様がお呼びです。お迎えにあがりました」
「アスが?」
傷は治ったのかな?
サクラがイシルを見る。
「箸は試作品作っておきます。いってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
イシルに了承をもらえたのでサクラはマルクスと共に『ラ・マリエ』へと向かう。
「帰りはお送りしますので」
マルクスはイシルに一礼すると サクラの前を歩きだした。
「行ってきます」




