242. 五の道 6 (隠し部屋)
イシルはサクラのために屋根裏部屋に上るための梯子階段をつけてくれた。
「一階は少し大がかりに片付けますからサクラさんは上の片付けをお願い出来ますか?終わったら呼びますので」
「わかりました!」
サクラは屋根裏部屋へと上っていく。
片付けと言っても 屋根裏はほぼ物がないのだから掃除だな。
お昼ごはんも食べたので 元気もりもりお掃除しましょう!
お掃除の基本は上からです。
顔に手ぬぐいをまき、サクラは上からホコリを落としていく。
屋根裏部屋は天井が低いからサクラでも手が届く。
天窓のまわりの組んである梁のまわり、備え付けの棚、小机、ベッド、、
パタパタとホコリを払いおとす。
それが終われば床掃除だ。
床は奥から手前へ。
……どっちが奥?
まあ、いいか。
要は一度通ったところを通らなければいいんだ。
板目にそって、掃き掃除。
机の下も、ベッドの下も忘れずに。
掃き掃除が終わればモップがけだ。
これも板目に逆らわず、奥から手前にやる。
乾かないうちに踏むと足跡がつくからね!
床掃除が終わる頃、イシルが梯子を上ってきて ひょっこり顔を出した。
「サクラさん、お布団ここに置いておきますね」
「はーい、ありがとうございますー」
ベッドメイクもしろってことね!
イシルは新しい布団を置いて また一階へ戻っていった。
ベッドにマットレス、布団を引き 真っ白なシーツを広げる。
まずは頭の部分を折り込み、包み紙を折るように折り目を入れ、三角にぴしっとわきをはさみ、マットレスの下に入れ込む。シワを伸ばしながら反対側も引き、同じように折り込み、最後に下を引き、やはりシワになる空気を手で伸ばし、下に逃がしながらキレイに織り込んでシーツを張る。
「シワ、無し!!」
ピンと張られた肌触りのいい清潔なシーツ、、満足!
「……あれ?」
誰が寝るの?
「……」
深く考えるのはよそう。
きっとこの辺でイシルさんが泊まりで仕事するんだ、うん。
つぎは、、
サクラは枕を手にする。
「……」
なんで、二個?
「いやいやいやいや」
深く考えるのはよそう。
きっとイシルさんが二個使うんだ。うん。
一個は抱いて寝るんだな、きっと。
上からふっかふかの布団をかける。
あおって空気を含ませ、ふんわりと。
「完璧!」
完璧なビジュアル!見ているだけで気持ち良さそう。
この上に誰も寝せたくない。
ベッドメイクも終わったし、さて、あとは……
(拭き掃除でもするかな)
サクラは拭き掃除をはじめた。
机、、棚、、
一階でもそうだったが、この家の壁には ところどころに飾り細工がしてある。
モザイクタイルが、嵌め込んであるようだ
おまじないか何かかな?
壁も拭くか。
″ポロッ″
「あっ!」
やべえ!落ちた。
サクラが壁の細工を拭いたとき、タイルがかけてしまったようだ。
「くっつくかな……」
サクラは 剥がれたタイルの跡をさわる。
″スルッ″
サクラがさわると、剥がれたタイルの上のタイルが動いた。
「何これ……」
動かしてみると その隣のタイルも動く。
動くタイルは、外れたものもあわせると 全部で9枚。
「スライドパズル……」
これもドワーフの遊び心?
この壁の向こうは馬小屋だ。隠し部屋があってもおかしくない。
スライドパズルは 通常8パズルといわれ、1つの空白を含む 3×3 のマス上に 8 枚のパネルが配置され、空白を使ってパネルを上下左右にスライドさせ、絵柄を揃えるパズルだ。
現世では数字が書かれていて、順に並べて解くのだが、これは数字が描かれているわけでもないから正解がわからない。
じっーっとタイルを見る。
(あれ?)
サクラは 部屋にある別の細工とみくらべる。
この場所だけ色の並びが違う。
ここも他と場所と同じ色の並びにすればいいのかな?
(あんまり得意じゃないんだけど……)
サクラは再びスライドパズルに挑戦!
「こうして、こうして、、こう、かな?」
″カチッ″
タイルの並びをまわりの細工と同じ色にあわせると、鍵が外れるような音がして壁に切れ目が出来た。
「ドアだ……」
小さめのドア。
やはり隠し部屋だ。
中は薄暗いが、雑多にものが置かれているのがみえる。
(倉庫かな?)
入り口にランプ。
魔力でつくのでサクラは灯りをともした。
「うわぁ……」
中は 本の山だった。
倉庫、、いや、書庫だな。
これで床が抜けないのが凄い。
みっしりと本棚に本がつまっている。
異世界の文字は読めないが、本は好きだ。
サクラはしばしその景観にうっとりと浸る。
古本屋のようで、落ち着くわ~、ここ。
あれ?
本棚を眺めながらめぐっていると、はしのほうに本より少し大きめの板がみえた。
(キャンバス?)
引き抜いて、手に取る。
絵だった。
綺麗な植物の絵、、このへんのスケッチ?
戻して次を引き抜く。
体の透き通った人物、、これが精霊かな?
戻して、次、、
「あ!」
人物画
若かりし頃のイシルさん!!?
今より少し髪が短い。
でも、キリッとしてカッコいい
「欲しいなー、コレ」
サクラはニマニマしながら絵を眺める。
イシルさんが描いてあるってことは、イシルさんが描いたんじゃないんだよね?
ここに誰かと住んでたってこと?
「……彼女、とか」
まあね、1200年の歴史を持つ人ですからね、イシルさん。
何もないほうがおかしい。
二十人以上いたうちの誰かだろう。
絵を描く人だったのかな?
「自画像とかないのかな」
イシルの絵を戻し、他を探す。
イシルさんはどんな人が好きだったんだろうか……
気になる。
サクラはパタン、パタンと絵を倒してめくっていった。
風景画が多い。
「あ、人物画、あった」
サクラは人物画を引き抜く
「こっ、これは、、」
『サクラさーん』
下からイシルがサクラを呼ぶ声。
(うわああああ///)
サクラはイシルの声に あわてて絵を戻す。
そして、その場からはなれ、入り口へ。
灯りを消すと 秘密の扉を閉めた。
かすかに梯子の軋む音がする。
(イシルさんが上ってくる!!)
サクラは急いで 落ちた最後のパーツをはめ込む。
カチッ、と音がして 扉がしまり、壁と一体になった。
何事もなかったかのように。
「終わりましたか?」
サクラが秘密の部屋から戻ったところで 下からひょっこりイシルが顔を出した。
「はい」
「すごくキレイになりましたね」
イシルが部屋をほめながら上ってきた。
「ベッドが凄くいい、、あ、サクラさん ホコリまみれじゃないですか」
イシルがサクラについたホコリを払い落とそうと手を伸ばしてきた。
「ひゃあ///」
サクラはその手をするりと抜ける。
「あの、ここではたいたら折角掃除したのに また部屋が汚れちゃいますから……」
「そうですね、すみません、、」
イシルはサクラを覗き込む。
「どうかしましたか?」
「え///」
「顔が赤いようですが……」
イシルと目をあわせられない。
「ちょっと頑張りすぎちゃったみたいです。ホコリを外ではたいてきますね!」
サクラは逃げるように梯子をおりて外へ出た。
「サクラさん?」
び、
び、
びっくりした……
サクラは外でホコリをはたきながら息をととのえる。
隠し部屋で最後に見のは彼女の自画像とかではなく、イシルの若かりし頃の絵だった。
はじめに見た一枚と同じく、今と変わらず美しい姿だったけど、、
上半身だけだったけど、、
書きかけだったけど、、
(裸ぁ!!!)
裸体だった。




