237. 五の道
次の日の朝――――
結局 アスは只今ミイラ男中だから誰にも会いたくないだろうとイシルが言うので、サクラは向こうからお呼びがかかるまで待つことにした。
「サクラさん、今日は以前話した五の道の奥にある家に行ってみませんか?」
イシルがそう言ってサクラを誘う。
「でもラーメン作らないと」
お仕事お仕事。
「今はシャナが麺の研究をしています。スープは渡してありますので 今日は問題ないかと」
イシルはそう言うが、サクラとしては自分がお願いしたこともあり、付き合いたい。
「それでもシャナさん一人に押し付けるの、悪いですよ」
見ているだけにしても、片付けとか手伝えることがあるだろう。
「今はオーガの村から貰ってきた竹で 竹打ちの勘を取り戻したいそうです。集中したいようなので行くとかえって迷惑かと。オーガの村からも手習いに人が来てますから 手伝いも足りてますよ」
「そうですか」
だからといって遊んでいいわけじゃない。
女子旅から帰って来たばかりなんだし、、
「……じゃあバーガーウルフの手伝いに行きますよ、ラーメンのためにお休みしてるんだし」
「バーガーウルフは昨日から新しい人が入ってます」
「え!?」
現世に行っている間になんだか浦島太郎!?
「男性もいたほうがいいだろうということで、急遽雇ったようです」
しかも男!?
女子旅の間に女性客掴んじゃったからな……
でもあれは、ハルくんのお陰であり、イシルさんも、ランも、イケメンリベラさんもいたからであって 誰でも女性客を呼べるって訳じゃないよね?
「どんな人ですか」
イケメン?
「アイリーンに御執心の方ですよ。サクラさんも知ってるんじゃないですかね」
私が知ってて、アイリーンにご執心?
……カール様?
いや、まさかね、、
「どうしますか?五の道、行ってみますか?」
これだけ材料が揃ってるなら、いい、かな?
本音を言えばイシルさんが住んでた家なんて、行きたいに決まってる。
「行きたい、です」
「決まりですね」
イシルは誘いが通って嬉しそうだ。
早速サクラを伴って 魔方陣の部屋からドワーフ村へ。
秘密の地下室から階段を上り 玄関にもなっている組合会館入り口の大テーブルの置かれた部家へと行くと、執事服を着ている男が座っているのが見えた。
(執事服って、もしかしてバーガーウルフの男性番制服なんじゃ……)
リズならやりかねない。
そうか、バーガーウルフの新人さんは男性だから ギルロス、ラルゴと一緒に組合会館の空き部屋に住むんだね。
てことは、ドワーフの村の人じゃないんだ。
ラルゴみたいに商人か、はたまた冒険者か……
なるほど、シルエットは中々のイケメンですな。
スラリとした肢体に銀の長髪が美しい。
どれどれ、挨拶を、、
サクラは男に近づく。
あれ?
「テンコ?」
「おっ、サクラ!奇遇じゃな!」
銀髪男は 耳と尻尾を隠し、大人の男姿に姿を変えた如鬼、テンコだった。
「いや、奇遇じゃないよね?追っかけてきたんでしょ、アイリーンを」
「追っかけてきてなどおらぬ!|たまたま寝ていた所がアイリーンの鞄の中で、たまたま我がそこに入れるサイズだっただけで、たまたまドワーフの村に来てしまっただけじゃ!奇遇じゃろう」
フンっ、と テンコが小威張ってサクラを見下ろす。
要はオーガの村に寄ったとき、帰り際にアイリーンの荷物に忍び込んだということだ。
アイリーンはびっくりだ。
荷物の中に見たこともないキツネの襟巻きが入っていると思ったら動きだしたのだから。
帰れいうのにガンとしてひかず、次の日バーガーウルフにまでついてきた。
これが女性陣をひきつけ、サンミと相談の結果、臨時バイトとして働くことに。
「テンコ、計算苦手なんじゃないの?」
サクラが心配してテンコに聞く。
料理も出来なさそう、計算も苦手、偉そうなこの態度……
とても接客業に向いているとは思えない。
単なる客寄せでいいのか?
「大丈夫じゃ!アイリーンが『みっちり仕込んであげるからね』というてくれたからのぉ」
「アイリーンが?」
「きっと、これから素敵な笑顔で、手取り足取り腰とり///ムフフ」
不敵な笑顔でみっちりしごくと……
「そう……頑張ってね」
きっとテンコが思っているような甘い展開にはならない。
逃げ出したくならないことを祈るよ。
◇◆◇◆◇
イシルは 組合会館を出ると 出口門とは逆へ向かう。
「あれ?イシルさん、どこ行くんですか?」
「五の道の奥ですからね、歩いて行くには少し遠いので 乗り物をとってきます。ちょっと待っててください」
乗り物?馬かな?
サクラが入り口で待っていると、イシルが乗り物を引いてやってくる。
″カラカラカラ……″
イシルが倉庫から持ってきた乗り物、それは、、
『自転車』だった。




