231. 女子旅 17 (朝市)
「起きて!起きて!起きなさいっ!!」
ばさっ、ばさっと布団を剥がされサクラはブルッと身ぶるいをする。
「さぶっ」
こんな起こされ方をしたのは何十年ぶりだろう、小中学生の頃だから かれこれ……
「ほら、起きるのよサクラ」
アイリーンは皆を叩き起こしながらてきぱきと帰り支度をする。
「アイリーン、まだ暗いよ」
「ねむいですぅ~」
リズもスノーもまだウトウトしている。
「何いってんの、美味しい朝御飯食べ逃すわよ」
「「朝御飯!!」」
サクラとリズとスノーはすぐさま目が覚めた。
「……なんて扱いやすいの、アンタ達」
シャナとヒナが苦笑いして見ている。
荷物をまとめて部屋をでる。
枕投げで弾けてしまった枕を弁償し、宿を出て市場へ。
アイリーンの目的は『朝市』だ。
アザミ野は円形の街の形をしていて、反対側にも出口がある。
昨日アイリーン達が合コンしたガーベラ街のほうだ。
そちらがわの道は綺麗に整備されていて、もっと安全で歩きやすく、賑わっているみたいだ。
だからガーベラとアザミ野の間にある村から 毎朝早くに新鮮な食材が運ばれてくる。
アイリーンが目当てなのは この食材ではなく、市場で働く人のために開いてる屋台なのだ。
賄い料理に近い、安くて美味しい 慣れ親しんだ 飾らない庶民の味。
市場は朝の開店前で大忙し。
観光、買付の客はおらず、荷物を乗せた荷台が行き交っていて、女子旅一行は 邪魔にならないようにアイリーンについていった。
まずは穀物屋。
アイリーンは店先で荷降ろしをしている男に声をかける。
「アイリーン久しぶりじゃないか、なんだ、ダンを呼ぶか?」
ダンは孤児院の今のリーダー的存在で、この店に働きに来ている。
「ううん、手伝いを連れて来たのよ」
「手伝い?」
アイリーンは主人の前にスノーを押した。
「あはは、可愛い手伝いだな、ありがたいがおじょうちゃん達には……」
スノーが片手でひょいっ、と、穀物俵を両手に一個ずつ掴み、持ち上げる。
「奥に運べばいいですかぁ?」
「お、おう、助かるよ」
アイリーンはクスリと笑い、一時間後に迎えに来ると主人に告げる。
リズはミルク屋、ヒナは花屋、シャナは薬屋、サクラは八百屋
に、ぽいっと。
これらはすべて孤児院の子が働きに来ている所で、アイリーンはこれからもよろしくお願いしますと頭を下げ、挨拶にまわっていた。
「あんた、アイリーンの友達かい?」
八百屋の商品を一緒に並べながらおかみさんがサクラに聞く。
「誤解されやすい娘だけどさ、よろしくね」
「はい」
サクラはちょっと胸があったかくなった。
◇◆◇◆◇
働いた後の御飯は美味しい。
サクラ達は手伝いを終え、屋台へ。
荷運びの 向こう村の人たちにまざって立ち食いだ。
わいわい、ガヤガヤとしたこの雰囲気がなんとも心地よい。
この場の空気も最高の調味料だ。
サクラの手の中には とろっとろに煮込まれた白いスープ。
朝の寒さにほわんと湯気がたっている。
ふんわりとしたミルクの香りが漂い、すくうと麦が入っていた。
「ミルク粥?」
口にふくむと 強すぎないチーズの香り。
「ん~///」
リゾットだ。
スープが多めだから、リゾットではないが、洋風雑炊。
溶けた肉と野菜の旨味が存分に麦に染み込んでいる。
チキンって、こんなにホロホロになるの!?
骨付き鶏肉が入っていたが、骨からするりととれた。
味は優しいのに なんてワイルドぶっこみ料理!
アイリーンが食べているのは干し鱈とジャガイモの煮込み。
「アタシはここに来るといつもコレが食べたくなるのよ」
一口もらう。ジャガイモとレンズ豆でとろみがでて、ブラウンのスープに、干し鱈の塩気とレーズンとオリーブから出る複雑な美味しさがたまらない!
「ヒナは何食べてるの?」
「これです」
野菜とベーコンのトマト煮込み?
白いぷにっとした団子が浮かんでる。これは?
「ジャガイモをお団子にしたものだそうです。もっちりしてて美味しいんですよ」
ジャガイモのニョッキ!
ああ、そういえば、ニョッキたちにもお土産あげに行かなくちゃ
「ねぇ、今からヨーコ様にも熱々の朝御飯届けに行こうよ」
「え?どうやって熱々を?」
「時間停止魔法なんて使えないわよ」
「亜空間ボックス買うんですか?」
シャナ、アイリーン、ヒナの言葉にふふふとサクラが笑う。
「コレがあるから」
「……あんたねぇ」
サクラが取り出したものを見てアイリーンが呆れる。
「ソレピンチの時に使えって言われなかった?どんだけ凄いものかわかってる!?」
サクラの手には ヨーコからもらった勾玉が乗せられていた。
握って願えば全員をヨーコの竹林へと運んでくれる勾玉だ。
襲われた時に使えとヨーコがくれたもの。
「もともとヨーコ様のものだもの、ヨーコ様のためにつかうのがいいかなって」
「あんたは、まったく……」
あー、うん、魔物避けはかけてもらったし。
宅配ピザのお届けは30分以内がよいでしょう!!
「ヒナ、何がいいかな?」
ヒナならヨーコやニョッキが何を好んで食べるかわかるだろう。
「沢山必要ですよ、いいんですか?」
「勿論!」
「ありがとう!サクラさん!!」
ヒナのすっごいいい笑顔。
これを見れただけでも儲けもんですよ!




