225. 女子旅 11 (カフェにて)
ナンパ男だと思っていたのは イシルだった。
何でここにいるんですか、とか、その格好はどうしたんですか、とか、いつからいたんですか、とか聞きたいことは山ほどあるのに、なんか、胸がいっぱいで出てきた言葉は――
「あう///」
知らない土地で、いないはずの人に会うって、こんなに胸にグッとくるものなの?
イシルがそんなサクラを見て「ん?」という顔をする。
その顔やめてー!!めっっちゃトキメくんですけどぉ!?
1日ぶりだから??
心臓爆発しますよ、爆死ですよ!
イシルがサクラに絡めた指を深め、手を引いて歩きだす。
「じゃあ、行きましょうか」
「いや、あの、皆が、、」
うまく喋れない。
イシルに引かれるまま人混みをぬって歩く。
「いいんです。話はついてるので」
誰と?
「もしかして、リズは……」
「はい、知ってます。取引きしましたから」
なんの?
「この服を着たら サクラさんを連れだしてくれると」
イシルがサクラの疑問を先に口にする。
その服もリズが作ったのか!
じゃあやっぱりさっき市場ですれ違ったのはイシルだったんだ。
リズに来たことを知らせるために わざと前から歩いて来た。なんて大胆な……
「それで、その格好なんですね。髪型も指定ですか?」
「これは 自分で。変装ですよ」
「変装って、、普通は目立たないようにしません?相手に気づかれないように、1つに結ぶとか、帽子かぶるとか……」
「誰も、気づかなかったでしょう?」
「いや、まさかイシルさんがそんな格好するなんて思いませんし」
「それなら変装成功ですよ」
やられた。
「でも……」
イシルがはにかむ。
「振り返ってくれましたよね、サクラさんだけ」
気づいてたんか!!
「……イシルさん、後ろに目がついてるんですか?」
「サクラさんのことは目をつぶっててもわかりますよ」
ぐっ、とサクラの手を引き片手でサクラの背中を掬い上げ、自分の胸に引き寄せる。
肩を抱き、庇うように片手でサクラを抱きしめた。
「ぶつかります」
大きなガゴを背負い、両手いっぱいに荷物をもった男が サクラの側を通りすぎる。
あ、あ、甘――――い!!!
ベタだけど、実際やられるとキュンとする。
片手なのに力強い。顔も近い。声も甘い。
わああ!こんなに密着したらドキドキが伝わってしまうよ!!
サクラは ありがとうございます と 慌て離れた。
「あの、イシルさん、やっぱり私だけ別行動する訳には……」
「大丈夫です」
イシルが再びサクラの手を引く。
「サクラさんがいたらアイリーンは狩りができません」
狩りってなんだ?あ、合コンか!
「何で私がいるとできないんですか」
「僕が邪魔しますから」
イシルがいたずらっぽく笑う。
「今頃リズリアがアイリーンに耳打ちしてますよ」
やられた。
旅に出る前から仕組まれていたようだ。
ここは 嫌味のひとつも言ってやらないと負け負け、このままイシルのペースに落ちてしまう。
巻き返しを計らねば……
「異世界でもナンパする時『お茶しませんか』って誘うんですね。イシルさん、百戦錬磨でしょう」
「そうですね。百戦錬磨です」
うわ、肯定したよ。嫌味にならない。
「『ナンパ』は シズエから教わって 今日初めてやりましたから」
「え?」
「一回中一回成功、百戦錬磨です」
くそぅ、、巻き返せないじゃないか。
「言ったでしょ、自分から誘ったことはないって」
ドキドキするものですね、と 楽しそうだ。
「シズエも今の奥さんとはナンパで知り合ったそうです」
シズエ殿、、あの顔で!?
「シズエも初め嫌がられて粘ったって言ってましたが、まさか、サクラさんもあんな嫌そうな顔をするなんて……」
イシルがクスクスと笑う。
「『あんたねぇ』って……」
思い出し笑いヤメテー!
「あ~、もう忘れてくださいよ///」
恥ずかしいな、おい。
「何でですか、嬉しかったのに」
「何で嫌な顔されて喜ぶんですか」
もしやイシルさんM男ですか?
カール様と同属ですか?
「サクラさんは僕だと思わなかったんでしょう?」
「ええ」
「僕の予約席、他の男に渡さずに守ってくれてるって事ですよね?」
″異世界で恋愛したくなったら 僕と――″
あ、あ、甘――――い!!!(二回目)
「あの、イシルさんどこへ行くんですか?」
気がつけばいつの間にかパステル通りまで戻ってきていた。
「あそこです」
イシルが示すのは 二階テラス席みえる緑に囲まれた可愛らしい
カフェだった。
『お茶しませんか?』って、単なる切っ掛けセリフかと思ってたら ホントにお茶するんですね、イシルさん。
しかも、、こんなファンシーなカフェで?
「『デート』ってこういうところでするものでしょう?」
それもシズエ殿の入れ知恵ですか?
いい歳をした男二人でそんな話をしてたんですか、一年間。
イシルが店に入ると 席に座る全員が息をのむ。
見事に女の子ばかりだ。
黄色い悲鳴とため息の漏れる中、サクラはイシルと共に店員に案内され 席に着くが、いたたまれない。
ヒソヒソと声も聞こえる。
わかってますよ、釣り合わないことくらい。
イシルはまるで気にせず サクラに何を飲むか聞いてきた。
「ここはフレッシュハーブティーがウリみたいですね、サクラさんはコーヒーが好きですよね、コーヒーもありますがどうしますか?」
「いえ、ハーブティーで」
イシルがフレッシュハーブティを二つ注文する。
ガラスのティーポットに生のままのハーブの緑が目に美しい。
フレッシュペパーミント、レモンバーム、レモングラス、ローズマリーがガラスのティーポットの中で生きており、カップに注ぐと爽やかな香りがたった。
「コクッ」
ペパーミントのスッキリした爽やかさの中にレモンの香り。
少しスパイシーさを感じる。
森林の中にいるような清涼感。
サクラはハーブティーを一口飲むと周りの視線を集めているイシルをちろりと見た。
イシルも一口。
その一挙手一投足にまわりからため息が聞こえる。
明らかに目を引く美麗な姿。
「こんなに目立つのに前からイシルさんが来た時に気づかなかったなんて」
自分に呆れながらサクラが呟いた。
「楽しそうでしたからね、サクラさん。僕のこと忘れるくらい」
ちくりとイシルに嫌味を言われた。
「忘れてたワケデハ……」
弁解を口に出すが、旅行が楽しくて気づかなかったのは事実なので口ごもる。
「冗談ですよ、サクラさんが気づくのは無理です」
「なんでですか」
「気配、消してましたから」
「はぁ?」
「昔、間諜やってたんです。どんな派手な格好してても気づかれませんよ」
間諜……スパイだ。
「ザガンさんと特殊部隊にいたころですか?」
「ザガンに聞いたんですか?」
「いえ、ヨーコ様に聞きました」
「ヨーコ様?誰ですか?」
「オーガの村の」
「オーガの村にそんな人いましたか?」
うわ、憶えてないんだ……
「竹林焼き払ったって……」
「うーん……」
「クラーケンの『海の壺』あげませんでした?」
イシルは『海の壺』で 思い出したようで『ああ』と声を出した。
「あの狐ですか」
狐って、、
あんな美人を……
「そういえば『海の壺』の情報を教えてもらいにオーガの村に行きましたね。ザガンと冒険がしたかったので。旨い魚も食べられて あれはいい旅でした」
なんか、ごめんなさい、ヨーコ様。
イシルが『ふむ』と思いつきを口にする。
「『海の壺』があれば珍しい魚をサクラさんに食べさせてあげられますね、取り返しに行きますか?」
「……いりません」
サクラはハーブティーを飲んだ。
『彼女かな』
『違うでしょ、似合わないもの』
『声掛けてみる?』
『あれなら私のほうがマシ』
さっきから聞こえてますよ、お嬢様方
まあ、わかりますよ、ワタクシもそう思います。
サクラはイシルから少し距離をとるかのように 身を後ろに引いた。
そしてティーソーサーに添えてあるクッキーを手にとると 口にふくむ。
イシルはそれを見て 上体を乗り出し、クッキーを持つサクラの手を掴み――
「?」
クッキーから手を離させ――
「??」
顔を近づけ、サクラが咥えているクッキーの反対側に噛みついた。
″あむっ″
イシルの顔が目の前に見え、『きゃあ///』と 周りから悲鳴があがる。
″サクッ″
クッキーを通してイシルの加えた振動が伝わる。
イシルがクッキーを食べたのだ。
イシルはサクラの口からクッキーを半分噛み折ると、クッキーを咀嚼した。
「食べ過ぎなので 半分です」
イシルが微笑みながらサクラを見つめている。
何が起こった?
サクラはフリーズしてしまい、サクラの口から 半分残ったクッキーが ポロリと落ちた。
「おっと」
イシルは落ちるクッキーを途中でキャッチすると ぽかんと半開きのまま開いたサクラの口にクッキーを入れた。
イシルの指先が サクラの唇に触れる。
あちこちから『ああっ!』と悔しそうな声が聞こえる。
「今日はジェラートも食べたでしょう?」
あ、あ、甘――――い!!!(三回目)
「でっ、出ましょう、イシルさん///」
サクラはハーブティーをがぶ飲みすると イシルの手を引き店を出た。
「何て事するんですか、人前で」
「デートですから」
「だからって、、」
「見せつけたかったんです。外野が五月蝿かったので」
わざとかぁ――――!!!
「気配を消せるなら 騒がれないよう気配を消して入るとかしてみたらいいじゃないですか」
もう、ヤケクソだ。
ちょっと八つ当たりで言ってみる。
「それはできませんよ、ナンパした意味がなくなります」
「?」
「サクラさんを落とす気でいるのに」
「うっ///」
「全力で口説かないと」
うわあぁぁ!ゲロ甘だぁ――――!!!




