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221. 女子旅 7 (孤児院にて)




クルクルまわる風車


走り回る子供達


笑顔溢れる孤児院の前庭で シャナは手に持っていた風車を窓辺に差し込むと 扇を取り出し あおぐ。


「わぁ!」


シャナの扇で優しい風がおこり、風車が勢いよくまわり、歓声がおこった。


「お姉ちゃん凄い!」

「もっと、もっと~」


木の枝に針金を刺し、色紙で作られたサクラお手製の風車が一斉にまわる。

子供達の手の中で、シャナのおこした風によって 命を吹き込まれたように。


サクラが持ってきた色紙は『千代紙』というらしい。

千代は千年。

千年という長い年月を祝う色紙。

鮮やかな色紙に色とりどりの柄が入る千代紙でつくられた風車は 夕日に照らされて少し赤く染まり 幻想的に見えた。


女子旅御一行は アザミ野に入ると アイリーンの育った孤児院にやって来た。

今日はここに泊り、子供達と一緒に過ごすのだ。


力の強いリズは アイリーンの育ての親で この孤児院の院長ハンナさんを手伝って片付けや物の移動の手伝いをし、サクラ、アイリーン、ヒナが年長の子達と夕飯の支度、そしてシャナとスノーが子守りをしているというわけだ。


″ピクッ″


門前で伏せていたアイリーンの獣魔 ナイツが耳を立てる。

しばらくすると こちらに歩いてくる不穏な4っつの人影。


「へぇ、ホントにいたよ、スターウルフが」


″グルルル……″


門前でナイツが唸りをあげる。

やって来たのは チンピラ風の男二人と 雇われ冒険者が二人。

一人が戦士、もう一人はムチを持っているところを見ると魔物使いか。


シャナは子供達を集め、自分の後ろに下がらせた。


「ここでさぁ、親分、最近金回りが良さそうなのは。どういったわけか ここの婆さん、借金返済した上に 小屋の補強までしてやがる。きっとまだたんまり金を持ってやすぜ」


親分と呼ばれた男が シャナに下卑た眼差しを向け 舌舐めずりをする。


「へぇ、いい女もいるじゃないか」


「あの狼さえいなけりゃ失敗なんかしやせんて」


どうやら来たのは二度目のようだ。

一度目はスターウルフに痛い目をみたらしい。

それで冒険者を連れてきたのか。


「中に入ってなさい」


シャナはスノーに言って子供達を家へ入れる。

子供達は家に入ると窓にかぶりつきでシャナとスターウルフのナイツを見つめる。


「なんだ、ねーちゃん 戦う気かよ」


戦士が剣を取り出し、シャナは扇を構えた。


「来い、モデナ」


魔物使いが名前を呼ぶと 赤い光の中から魔物が現れた。

召喚獣、ファイヤーバートだ。

スピードがあり身のこなしが軽い風属性のスターウルフは Cランクの魔物。対するファイヤーバードも同じくCランクの魔物。

スピードはそこそこだが制空権がある。

降りてこなければスターウルフは攻撃などできない。

おまけに火属性で 風属性のスターウルフの攻撃は半減してしまう。

風は火に弱い。効きにくいのだ。

それを見込んでの人選なのだろう。


「行け!モデナ!」


魔物使いがムチを振り、ぴしゃりと地を打つ。

それを合図にファイヤーバードが火を吐くがナイツはひらりと避けた。

あの速度ではスターウルフには当たらない。

スピードで負けてるからだ。

お互いの攻撃が当たらないのに、何がしたいというのだ、単なる 足止めか?


門前をナイツが退いたので戦士が走り込んできてシャナに斬りかかってきた。

シャナは閉じた右の扇で剣を受け、力を受け流すように自ら剣士の懐に身を預けた。

(いだ)かれるように背を向け入り込む。


「なっ///」


甘い白檀の香りが戦士の脳をくすぐり誘う。


シャナは デレる戦士を尻目に 左の扇をぱらり開くと、くるっと舞うように戦士に向き、下から上へと 斜めに扇を滑らせた。

戦士が危険を感じ身を引く。


″シャキ……ン″


戦士の(はがね)の胸当てを扇がかすめ、金属音が響いた。


「鉄扇か」


戦士はシャナから距離をとる。


「モデナ、そっちじゃない」


戦士の後方で魔獣使いが指示をすると、ファイヤーバードは向きをかえ、孤児に向かって大きめの火の玉を吐いた。


「!!」


シャナは扇を両手に、大風を巻き起こし孤児院にぶつかる前に火の玉を消し飛ばす。


「結構やるな、あれを吹き飛ばせるとは」


「女子供相手に卑怯ね」


ファイヤーバードは次々と火の玉をスターウルフと孤児院に向かって放ち、シャナは戦士の相手をしながら火の玉を消していく。


「くっ、、」


「へへっ、いい格好だなぁ、ねーちゃん、そろそろ疲れてきただろ?」


戦士はシャナを弄ぶかのように斬りつける。

これ以上下がったら突破されてしまう。


シャナが建物に気をとられたその隙に戦士がシャナに斬りかかった。


「もらったぁ!!」


「「おねーちゃん、あぶないっ!!」」


窓辺で子供達が息を飲む。


″ガツッッ!!″


「!?」


「なんだ!?このガキ」


「ガキじゃないですぅ~」


まったりとしたこの喋り方は……


「スノー!」


シャナの目の前には 子供達と家に入ったはずのスノーが 大槌を手に 戦士の剣を受けていた。


「むんっ!」


ぶんっ、とスノーが大鎚を振り、戦士が後ろに下がる。


「テメー、ドワーフか」


「あたりぃ~」


孤児院の扉の前はスノーの従魔のデュークが岩のように塞いでいるので心配いらなそうだ。


「ここ、お願いね」


「ラジャ!!」


スノーの返事を聞くと、シャナは ファイヤーバードと戦闘中のスターウルフ、ナイツの元へと走った。

ナイツはファイヤーバードの炎とムチをかわしながら 2対1で懸命に戦っている。


シャナは走りながら、ファイヤーバードに飛びかかったナイツに向かって風を送った。


″ダシュッ、、″


飛び上がったナイツはシャナの送った風を受け、その風を足場にして風を踏み、もう一段飛び上がる。


″バグッ″

″キエーーッ″


ファイヤーバードは足に噛みつかれ、ナイツに向かって火を吐き、ナイツがそれをよけて地に飛び降りた。


「乗せてくれる?」


シャナはナイツに乗り込む。

ナイツは自分の従魔ではないが、シャナとは風属性同士なので 相性がいい。

ひらり、ひらり、とナイツが炎をかわしながら進み、シャナが炎を消し飛ばし、ファイヤーバードの魔物使いへと近づいていく。

主を叩いたほうが早そうだ。


「くっ、フレイムバースト!!」


魔物使いが叫ぶと、ファイヤーバードはシャナとスターウルフに向かって一際大きい炎の渦を吐き出した。


「はははは!焼き尽くせ!そいつらごと、後ろヤツまでな!」


魔物使いの高笑いが響く。


「酷い人ね、仲間まで焼き尽くす気なの?」


「は?」


魔物使いは目を疑った。

女が涼しい顔をして炎を受け止めていたのだ。


「炎を、、吸い込んでる?」


どういうわけか シャナの手のひらの中に炎が吸い込まれるように消えている。

魔力を、吸収しているのだ。

皮肉にもシャナの手の中には ミケランジェリの作った『吸魔装置』が握られていた。


スターウルフが角に魔力をこめる。


「お返しするわ」


シャナは手のひらの『吸魔装置』に溜め込んだファイヤーバードの『魔力』を スターウルフの 『かまいたち』に 上乗せした。


″ザシュッ″


スターウルフのかまいたちが力を増し ファイヤーバードを切り裂いた。

ファイヤーバードは雄叫びをあげる間もなく真っ二つになり地に落ちる。


「ひいいっ!!」


それを見て魔物使いが逃げ出す。


「逃がすわけないでしょ」


シャナは懐から()を一握り取り出すと 扇であおいだ。

粉はさらさらと風に吹かれて舞い、魔物使いとチンピラ二人を包みこんだ。


「な、、んだ、これは……」

「力が……」


痺れ薬なのか、三人は()を吸い込むと その場にヘナヘナと座り込んでしまった。

後ろからスノーがくったりした戦士を肩に抱えてやってきて、ぽいっ、と三人の前に放り投げた。

戦士はコブだらけである。

シャナは戦士にも()を吸わせる。


「何、者、、」


「ただの薬師よ。あら、蜂が……」


″ブーン″と 虫の羽音がする。


「いてっ、」

「うわっ」

「なんだ!」

「ううっ、、蜂!?」


四人はチクリと首筋に痛みを感じた。


()()()は 2回刺されると 刺された者は確実に死ぬわ」


「なんだ、それは、そんな馬鹿な話があるか」


シャナは いきがる()()の首筋に トンっ、と扇子を当てる


「一度目の毒は微弱だけれども体の中に入りこみ徐々に浸透し消えることはない。だけど……」


シャナは親分の首に当てた扇子をつうっ、と 首筋から腕に降ろす。

シャナの扇子の軌跡がゾワゾワと虫の這うような感覚を男に覚えさせる。

シャナは体をめぐるように扇子を滑らせ 親分の体を扇子で撫でると、胸に トン と到達させ、こう言った。


「二度目は 同じ毒によってショック死するのよ」


「ひっ!」

「なんだと、、」

「やめろ!」

「あっちいけ!!」


四人はブンブンと手を振り回し 蜂を払う。


「死にたくなければ この辺りには二度と近づかないことね。()がいるから」


「うわああっ!」

「逃げろ!!」

「ううっ、、」

「バケモノめ~」


四人は地べたを這うようにして逃げ出した。


「バケモノだなんて、心外だわ」


「蜂なんていましたかぁ?」


スノーがシャナに聞く。


「さあ、幻覚でも見たんじゃないかしら」


シャナが涼しい顔で答えた。


シャナは薬師だ。

シャナが四人に嗅がせたのは幻覚を誘発させる粉。

薬師には薬師の戦い方がある。

あの四人はもうここへは来ないだろう。

()にもう一度刺されると死ぬという()()をシャナにかけられたのだから。


くるくる くるくる シャナが窓辺にに差した風車がまわる。

ここの子供達が千代の時を平和で過ごせるようにと 願いをこめて。





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