219. 女子旅 5 (アザミ野入り) ★
挿し絵挿入しました(10/31)
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「サクラ、近う寄れ」
ヨーコはサクラを呼ぶと 勾玉を渡してきた。
珍しい金色の瑪瑙の勾玉。
金色の中に複雑にオレンジや黄色が層を成している。
「魔物避けのかわりじゃ」
「いや、こんな高価なものもらえませんよ」
見るからに高そうだ。
「ニョッキのために術を解いてしまったのじゃ、受け取ってたもれ」
ヨーコがサクラの手に勾玉を握らせた。
「それは握りしめて願えば 一度だけここに戻ることが出来る。危険にさらされた時に使うが良い」
「……」
「どうしたのじゃ?」
「戻るのは私だけですか?」
ヨーコはふふっ、と笑う。
「ほんに其方は、、案ずるな、其方と繋がっておれば 皆一緒に戻れる。ここに入った時そうであったろう?」
そうだ。竹に引き込まれた時 サクラは掴んでいたシャナに引き込まれ、アイリーンを引き込んだんだ。
荷物も一緒に。
「ありがとうございます」
竹を選んでいたシャナが2ニョッキを抱っこして帰って来るのが見えた。
その後ろを1ニョッキの手を引きながらアイリーンが歩く。
「アイリーン」
「なによ」
「テンコじゃ」
「何がよ」
「我の名前」
ふーん、と アイリーンが生返事をする。
「覚えておいて欲しいのじゃ」
「いいけど、従魔はもういるわよ」
「従魔ではない」
テンコがアイリーンを見上げる。
「考えてくれると言うたではないか」
テンコの懇願の瞳。
切なそうな純粋な眼差しでアイリーンに訴えてきた。
「イイオトコになるから……」
アイリーンはクスリと笑う。
「アタシは待たないわよ。早く結婚したいの、あきらめて」
「うっ、、」
「ま、名前は覚えておいてあげるわ、テンコ」
テンコは嬉しそうに大きなフサしっぽを振った。
テンコの魔力が膨らみ――
「アイリーン///」
テンコが大人化してアイリーンに抱きつく。
「ちょっと///やめて、テンコ」
アイリーンはテンコを引き剥がそうとするが、ちびっこの時と違って力が強い。
「嫌じゃ、アイリーンの匂いを憶えておくのじゃ!」
テンコはアイリーンの首筋に顔をうずめると スンスンと匂いを嗅ぐ。
「やめなさい///っ」
「はぁ///アイリーンの匂い……」
テンコがアイリーンの頭を掻き抱き身悶える。
「~~っ///やめんかこの変態!!!」
アイリーンのムチが炸裂!!
テンコはキャイ~ンとアイリーンから離れた。
「なんで……なんでこんな変態ばっか寄ってくんのよ!!」
◇◆◇◆◇
外に出るとヒナとリズとスノーが待っていた。
サクラ達がいた竹林の中は時間の流れが違うのか、サクラ達がいなくなってからさほど時間はたっていないようだった。
「心配しましたよ~」
「無事でよかったですぅ~」
「すみません、うちの狐達が……」
「いいんじゃない、竹ももらえたし、案外面白かったわよ、ねぇ」
アイリーンがう~ん、と 背伸びをしてシャナに話を振る。
「そうですね、旅にアクシデントはつきものだし」
シャナが答えながら眩しそうに木漏れ日を見上げる。
今回のことで シャナが少し打ち解けたように見えた。
「わ!ヒナ可愛いね、巫女服」
アザミ野に出発するため 荷馬車に戻りながら サクラが巫女服姿のヒナを褒める。
「そうなんですよ、可愛いですよね!創作意欲が増します!」
え?何だって、リズ
「着たいですねぇ~」
嫌な予感しかしないよ、スノー、、
サクラは先手を打つことにする。
「言っとくけど、バーガーウルフの制服には向かないよ?」
「「え″ー!!」」
「何で?何で駄目なの、サクラ」
「こんなに可愛いのにぃ!?」
やっぱり考えてたか
「いや、袖、邪魔でしょ?」
「短くすればいい?」
「結んじゃう、とかぁ??」
「……着ないよ、私」
「「え″ー!!」」
「個人的に着ればいいじゃない」
「「……」」
あれ?
「もしかしてさ、その今日着てるチャイナ服も制服にしようとか思ってないよね」
「「……」」
する気だったな
「絶っっ対着ないから」
「「サクラ~」」
どうしたいんだ、あの店を、、
「制服っていうのはさ、ただ皆が同じものを着てればいいってもんじゃないの。機能面でも大切だけど、制服はその店の人であることの証なのよ」
「……うん」
「わかりましたぁ……」
納得してないな、この返事は
わかりにくいかな?
「警備隊の人が毎日違う制服を着ていたら、警備隊員だってわかりにくいよね?」
「「うん」」
「警備隊員だって一目でわかったほうが安心しない?」
「「する」」
「お願いもしやすいでしょ?」
「「うん」」
「そういうことだよ。制服も店の一部。一目見てバーガーウルフの店員さんだってわかれば、安心するし、食べたいな、今日は買おうかなって宣伝にもなるのよ。毎日違う可愛い服が着たいなら他のお店みたいに制服なんていらないでしょう?」
リズとスノーはわかってくれたようだがしょんぼりしてしまった。
仕方ないな……
「だから、やるならイベントの時だけにしてね」
「「イベント?」」
「あるでしょ、お祭りとか」
リズとスノーがパッと顔をあげる。
「サクラぁ~」
「ありがとー!!」
「私は着ないけどね」
「「もーっ!!」」
双子の暴走を止めるのは大変だわ。
女子会御一行は 荷馬車に乗り込み、オーガの村からアザミ野を目指す。
「箸とメンマの分の竹は 普通の竹林から準備して用意してもらうよう手配しましたよ」
「ありがとう、ヒナ。仕事が早いね~」
荷馬車の御者席にはアイリーンにかわり リズが座わる。
荷馬車を引くのはリズの従魔 引けないものはないと言われる程力の強いロバの魔獣 バログの男爵
女にしか懐かないバログは女子旅にはもってこいだ。
リズが手綱をにぎり、ぴしっ、と 出発の合図をバロンに送ると 荷馬車が走り出す。
「それと、ヨーコ様が アザミ野まで送ってくれると」
「送る?」
「はい」
オーガの村の門をバログが通過し、少しスピードが乗ってきたところで、目の前に魔方陣が現れ、金色の光が馬車を飲み込む。
「「!!?」」
送るって、転送ですかぁ!?
眩しい金の光の粒に目が眩み、ふわっと浮遊感。
すぐに地に足がつき、光を抜けたかと思うと、次に飛び込んできたのは ピンクの草原だった。
「「うわぁ~」」
一面のピンク。
桃色の小さな花が一面に咲いていて、野原を埋め尽くしている。
アザミだ。
春はピンク、夏はオレンジ、秋は紫、冬は青。
この前アザミ野町に来た時は一面青だった。
二月の終わり、三月になろうかというアザミ野には、一足早い春が訪れていた。
「キレイね……」
シャナがぽつりと呟く。
「ほんと、いつ見てもキレイ」
アイリーンもご満悦だ。
ヨーコ様も粋なことをなさる。
アザミ野入り口ではなく、この草原手前に送ってくれるなんて。
「こんなの、初めて……」
リズも御者席でこの光景に浸っている。
バログの引く荷馬車は ピンクのアザミの中をカタカタと進む。
「皆に見せてあげたいなぁ~」
「リベラさんにも……」
スノーとヒナも うっとり景色を見つめる。
サクラも思う。
イシルにも、見せてあげたい。
一緒に、見たいなと。
(今頃、何してるのかな、イシルさん)
↑巫女服のヒナ




