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215. 女子旅 ★




″タタタタ……″

″パタパタ……″


『『ぱふんっ』』


「キャッ!」


突然腕をとられ、腰に軽い衝撃を受けて シャナは小さな悲鳴をあげる。


目線を下げると小さな影。

腰に暖かい温もりを感じたかと思うと、腕をグイグイと引っ張られた。


「シャナさん!こっちです!」

「楽しみにしてたんですよぉ~」


同じ顔をしたドワーフの少女達がウキウキとシャナを引っ張っていく。





挿絵(By みてみん)





「えと、、リズリア、さん?」


「はいっ///リズです!」


「スノートラ、さん?」


「はいぃ///スノーって呼んでくださいぃ」


「リズ、スノー……」


「「はいっ///」」


「その格好は?」


二人はお揃いのチャイナ服を着ている。

チャイナの下は可愛らしくひらひらとしたレースのスカート姿だ。


「これですか?旅行なんて初めてだから、お洒落したくて作りました!」

「シャナさん素敵だからぁ、シャナさんみたいになりたくてぇ、リズがつくったんですよぉ~」


キャー、言っちゃった!と、リズとスノーが顔を赤くする。


「ずっとお話ししたかったんですけど、シャナさん薬草園で忙しそうだし、中々会う機会もなくてウズウズしてたんです!」

「でもぉ、今回の女子旅でシャナさんも楽しみにしてるってぇ、、イシルさんから聞いたから 嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて――――」


ねーっ、と 大はしゃぎである。

何回嬉しいを連呼したんだ……


スノーがシャナの荷物をもち、リズが有無を言わさずシャナを馬車へと連れて行った。


そう、今日は女子旅当日。

イシルが折れて許可を出してから三日後のことだ。


サクラがドワーフの村の門前に着いた時には既に全員が馬車に乗り込んだ後だった。


「……これで、行くの?」


幌のない馬車。

リズとスノーが準備すると言うからおまかせしたのだが、、


「景色が見えたほうが良いかと思って」


リズが意気揚々と答える。

それは、いい。


だが、これは、何だ?


「座り心地抜群ですよぅ」


スノーが得意気に答える。

()の中には座り心地が良いように クッションやら、ストールやらが用意されている。

それも、いい。


だが、、


「何故に、ぬいぐるみ?」


クッションに紛れてぬいぐるみの数々、そして馬車の周りをレースと花とリボンで華やかにデコレーション。


「何故って、、」

「女子旅だからぁ、、」


「「可愛くしときました」」


ハネムーンカーかよ!!?

シャナが恥ずかしそうに縫いぐるを抱きしめて顔を隠していた。


そしてもう一人、ヒナだ。

ヒナはニコニコ座っている。

今回オーガの村はヒナが案内してくれるらしい。


御者席にはアイリーン。

アイリーンの前には このお姫様使用の荷馬車に似つかわしくない凶悪な顔をしたスターウルフが六頭、最早犬ソリ。

六頭も要らないだろう!?

走りたくてウズウズしているのか、前肢でガツガツ地面を蹴り息巻いている。


「……なんじゃこりゃ」


この女子旅、波乱の予感しかしない……


「くれぐれも気をつけて」


「はい、行ってきます」


イシルはサクラに荷物を渡すと、肩を掴みおでこにキスを――


「わっ!イシルさん、何を!?」


サクラが避ける。


(ひひひ人前ぞ!?)


「何って、魔物避けですよ」


「いりません、いりません、みんないますから!!」


リズとスノーのニヤニヤが背中に刺さる。

ヒナは相変わらずニコニコ。

アイリーンの冷ややかな目。

シャナは……見てないことを祈ろう。


「仕方ありませんね」


イシルはサクラの額に手をかざすと、するっ、と頭を撫でた。


「?」


「魔物避けです」


キスしなくても出来るんかよ!!

くっ、騙されてた、、


「……行ってきます」


「行ってらっしゃい」


サクラは馬車に乗り込む。


「行くわよ」


アイリーンがミスリルのムチを喚び出す。


「しっかりつかまってて」


「は?」


″ヒュン……パシッ″


アイリーンのムチがしなり、地を叩くと六頭のスターウルフが一斉に砲口をあげた。

耳を抑えたサクラの目の端に 物陰からうっとりとアイリーンを見つめる男が見える。


(カール様いつからそこに!?)


()くのよ!!」


アイリーン、字が違うよ。

スターウルフが地を蹴ると、ぐんっ、と身体が後ろに仰け反った。

飾りのリボンやレースがはためく。

荷馬車、浮いてるよ!?


「あ、あ、あ、アイリーン、、、」


「喋ると舌噛むわよ!」


ひいぃぃ!!!

アイリーンの嗤った顔はスターウルフより凶悪だ。

アイリーンはスピード狂!?


サクラは荷馬車にしがみつく。

デコレーションの花が舞い、ドワーフ村がどんどんはなれていく。

花吹雪舞う中、心配顔で見送るイシルが小さくなっていく……


(イシルさん――)


なんだかイシルが滲んで見える


(イシルさん――)


今別れたばかりなのに


(助けてえぇぇ!!!)





◇◆◇◆◇





アスの舗装した道を抜けるとアイリーンは馬車の速度を落としてくれた。

いや、道が悪いので落とさざるを得なかっただけだ。

あんな速度で石を噛んだら荷台がひっくり返ってしまう。

可愛い(?)デコ車は装飾が吹き飛び、目出度く普通の馬車仕様に戻ってくれた。


「旅のしおりのはじめのページを開いてください」


サクラは異世界の文字は読めないが、リズに渡された『旅のしおり』を開く。

スノーが書いたのか、デフォルメした女子旅メンバーの似顔絵が入っていた。

所々に可愛いイラストつき。


(しおりまで作るなんて、よっぽど楽しみだったんだな、、可愛い)


レイヤーリズがチャイナ服を作り、絵師のスノーがしおりを作る。

旅の楽しみ、満喫してるね!!


「旅の心得その1、乗り物に弱い人は薬を飲んでおきましょう」


それ、乗る前に言ってよ、リズ。

文字見てると酔いそうですよ?


「その2、服装は動きやすいほうが好ましいです」


ヒラヒラチャイナ服のキミタチがそれ言っちゃう?


「その3、バナナはおやつにはいりません」


「何故なのかしら?」


シャナがリズに質問する。


「主食だから、デス!」


何か違うよ、リズ。

今となってはもうネタでしかないよね、()()

一体何を参考に作ったんだそのしおり。

遠足のかな?突っ込むところしかありませんよ。


「その4、オーガの村についたらヒナの指示に従いましょう」


おっ、やっとまともになってきた。

しおりにはオーガの村の地図らしきものが大雑把に書いてある。


「オーガの村の所わぁ、ヒナに手伝ってもらって書いたんですよぉ~」


字が読めないので詳しくはわからないが、オーガの村の特色がわかるようになっているらしい。

イラストでわかるのは、オススメ料理、名物、名産等だ。

イケメン剣士も描かれている。

スノーの画力凄いな、好みです。


「うふふ、リズとスノーのお家にお泊まりしたんです」


ねーっ、と リズ、スノー、ヒナの三人が顔を見合わせて声を合わせた。

何だこの可愛い生き物達は、、


旅は計画を立てるところからはじまる。

リズとスノーとヒナの三人はワクワクしながら女子旅に想いを馳せてこのしおりを作ったんだろうな。

みんなにも楽しく旅をしてほしくて、しおりを作り、馬車をデコレートし、快適に……


シャナもそう思ったのか、微笑ましく三人を見ている。

凄く、優しい目をしてしおりの説明を聞いている。


「私、初めてです。旅のしおりなんて。楽しいですね。いい記念になります」


シャナは獣魔のマーキスと二人で旅をしていたんだもんね。


「そぉなんですよぉ~、ここにメモもあって、旅の出来事書けるしぃ、お土産の買い忘れも防げますよぉ~地図に印をつけておけば はぐれた時も大丈夫なんですぅ」


「後で見直す楽しい思い出のしおりになりますね」


スノーに続いてヒナも同意する。

今日のヒナはいつもよりおしゃべりだ。


「ドワーフの村もぉ、こうやって紹介したいなぁ……」


スノーが呟く。


(ん?)


「村の人しか知らない穴場とかもあるしね~」


リズが返す。


(んんっ?それって、観光案内!!)


「いいんじゃない、ソレ」


アイリーンが御者席から話しかけて来た。


「地図一枚に書き込むだけでも行ってみようって思うわよ、きっと。駐屯所に置いてもらえばいいじゃない」


「そっか、帰ったら村長さんに相談してみよう!」

「ワクワクするなぁ~」


アイリーンがニヤリと嗤う。


「バーガーウルフも大々的にのっけてよね」


まだ稼ぐ気ですか、アイリーン……


「見えてきました!」


ヒナが前方を指差した。

半日かかるはずのオーガの村に昼前に到着してしまった。





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