214. 麺づくり 2 ◎
料理写真挿入(2022/9/11)
恋する女の子の笑顔はいつだって素敵。
見ているとこっちまでキュンとしてしまう。
サクラが組合会館に入ると、イシルとシャナは仕上げに入っているようで キッチンにいた。
麺を茹で、盛り付けをするイシルの隣にいるシャナ。その横顔はトキメキを浮かべ 輝いている。
キレイなシャナの可愛い笑顔は恋する女の子の顔だ。
サクラはまた、あの感覚に襲われる。
地下で抱き合う二人を見た時と同じく、映画を観てているような……
イシルが入り口に立つサクラに気がつき振り向いた。
「サクラさん もうできますから」
イシルはサクラに笑顔を見せ、対照的にシャナの顔がいつもの哀しげな表情に戻った。
申し訳ない、シャナ。
サクラがいなければ純粋な片想い。
もしかしたら想いが叶っていたかもしれないのに。
「じゃあ、ラルゴさん呼んできます。アイリーンも来たんで、一緒にいいですか?」
「勿論です」
サクラは再び外へラルゴとアイリーンを呼びに戻った。
前みたいにイシルとシャナをくっつけようとは思わない。
だって、イシルが好きだと痛い程自覚したから。
触れることができるのに イシルの世界に存在しないサクラ。
イシルを思う気持ちはかわらないのに、並んだ二人を見ていると やっぱり壁を感じてしまう。
どうしたらいいのかわからない。
ヤキモチよりも自分の置かれたこの状況に腹が立つ。
(食事制限よりもキツイですぞ、神よ)
ラーメンのいい匂いがする。
異世界?並行世界?仮想現実?
なんでもいいけど、この非現実はリアリティーがありすぎる……
◇◆◇◆◇
「ふはぁ///美味しい」
サクラはラーメンを一口すすってため息をついた。
イシルの作ったラーメンスープは薄めの豚骨スープだった。
開発初日からこのクオリティーは凄いな。
もうこのまま出せるんじゃない?
「シズエと作ったときはこんにゃく麺でしたから、もっと濃い目に作っていましたが、ラーメンは麺の味も楽しみたいので少し変えてみました」
豚骨独特のくさみを抑えた、食べやすく万人にウケる味。
イシルのスープの説明にシャナも食べた感想を述べる。
「これならもう少し麺は細めの方が合うんじゃないでしょうか。スープがもっと絡まるように」
「私もとんこつはストレート細麺が好きだな~」
サクラが同意してズズッ、と麺をすする。
そんなサクラにシャナが質問する。
「サクラさんが持ってきた麺はもっとくるくるしてましたよね?」
ちぢれ麺のことを言っているようだ。
「それはどうやって作るんですか?波形に形で押し切る、とか?」
シャナは麺の事になると食いつきがいい。
ちゃんと考えてくれてるんだとサクラは嬉しくなる。
シャナにお願いしてよかった。
「ちぢれ麺は『カンスイ』の量を増やして切った後揉むんです」
「揉むだけでああなるんですか。真っ直ぐな麺よりちぢれ麺の方がスープが絡まりそうじゃないですか?」
シャナが更に質問する。
うん、そう思うよね。
「実はストレートの方が麺と麺の隙間が少なくて スープが下に落ちにくく、スープを麺で挟み込んで吸い上げることができるんです」
「そうなんですか!?」
そうなんです。
ネット知識ですが、ちぢれ麺は隙間があるからスープが滴りやすいのだ。
「でも、縮れ麺は食べごたえがあります。すすった時の快感ていうか、空気を含んでずるずるって食べるの美味しくて、、太い縮れ麺は濃い目のスープだとガツンときますよ~」
「それも試してみたいですね」
シャナがサクラの説明に感心する。
サクラの説明は聞いててシャナをワクワクさせる。
「ガテン系、、体力つかう修行者の多いオーガの村ならその方がウケるかもしれませんしね」
ガテン系じゃ異世界じゃわからない。
「じゃあ明日は濃い目に作って太麺にしてみましょうか」
イシルの同意で明日の予定も決まった。
「あの、どうですか?お二人は」
シャナが発言のないラルゴとアイリーンに感想を聞く。
二人は夢中でラーメンをすすっていた。
「美味しいけど、食べにくいわね」
ラルゴはフォークですくってずるずると食べ、アイリーンはスプーンとフォークでスープパスタを食べるようにくるくるまいて食べている。
「う~ん……」
サクラは頭を捻る。
滑りにくいように木製のスプーンとフォークだが、ラーメンはやはりすすって食べないと魅力が半減する気がする。
「箸、作りますかね。定着するかはわかりませんが、箸、スプーン、フォークと用意してみては?」
サクラの懸念顔を見てイシルが箸作りを提案してきた。
「そうですね、オーガの村には竹もありますし」
「竹が、生えてるんですか?」
意外にもサクラの『竹』発言にシャナがくいついた。
竹って、珍しいの?
シャナが続ける。
「私の知っている麺製法は『竹打ち』なんです。片方を固定して、しなる力で打っていくんです。竹があればもっと麺を鍛えられるかも」
おお!それはいい!
「じゃあ、オーガの村に竹をもらいに行きましょうよ。どんな竹がいいのかシャナさんじゃないとわからないから、一緒に」
「いいんですか?」
シャナの顔がぱっと明るくなる。
「いいと思いますよ、ね、イシルさん」
「そうですね。『竹』を使うのはオーガの村の色が出せていいと思います。作り方を披露することで見応えも出て名所になるかもしれませんね。箸のこともありますし、ザガンに話してみましょう」
「じゃあ、決まりですね」
サクラが『よしっ』と、手打ちをする。
「シャナさんも女子旅参加ということで!」
「は?」
サクラの不穏な発言に イシルがピクリと眉根を寄せた。
「……何ですか、女子旅って」
「そのまんま、女の子だけの旅ですよ?」
「言葉の意味を聞いてるんじゃありませんよ」
「アイリーンがアザミ野帰る時にサクラちゃん一緒についていくんだってー」
サクラの代わりにラルゴが答える。
イシルはまだ意味がわからない。
「何故それがオーガの村に竹をもらいに行く事と関係があるんですか?」
「え?だって、アザミ野町行く時、オーガの村通るじゃないですか」
「ええ」
「一石二鳥、ですよ?」
サクラが『ですが、何か?』みたいな顔をしている。
サクラの中では道理が通っているのだろう。
「却下」
「え、今イシルさん 賛成してくれたじゃないですか」
イシルの目が点になる。
「……そういう話でしたか?」
「……そういう話でしたよね?」
話が噛み合わない。
アイリーンが笑いを噛み殺し、殺しきれずくくくと笑った。
「許可はとったんだからいいでしょ、イシルさん」
アイリーンが勝ち誇ったように口の端をあげ嗤う。
口調は天使だが顔がブラックですよ、アイリーン、前にオーガの村で合コン乱入された時の事を根に持ってますね?
イシルがはぁ~っとため息を吐く。
「行くんですか、シャナ」
「……行きたいです」
イシルが更にため息を吐く。
「いいでしょう、僕も行きます」
「駄目ですよ、女子旅なんですから」
「そうですよ、イシルさん、オレも断られたんですから」
「ラルゴくんは黙って」
「……はい」
ラルゴはイライラしてきたイシルに冷たくあしらわれ、話に入ってすぐに退散した。
(これではシャナを見張る者がいないじゃないか、、女性でないと駄目だというなら……)
「では、リズリアとスノートラも連れていって下さい」
「え?」
アイリーンが驚く。
「いいんですか?」
サクラも驚く。
「あの二人には獣魔もついていますし、戦闘訓練もしています。魔法ではなく力で戦えますから、魔法が効かない魔物が来ても頼りになりますよ。これなら女子旅でも危険は少ないでしょう」
イシルがチラリとシャナを見る。
これは牽制だ。
アイリーンのスターウルフ、リズのバログ、スノーのフェルスがいて、全員戦える。
いざとなればサクラはランを呼ぶだろう。
女子というだけでいいのならサンミに付いていって欲しいくらいだが、そうは行くまい。
「でも、バーガーウルフが……」
「心配いりません、2、3日ならなんとでもなります」
サクラが嬉しそうに顔を輝かせる。
「ありがとうございます!」
結局イシルはサクラに甘い。
サクラのこの笑顔に弱い……




