209. 粉なしお好み焼き ★◎
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「今日もヨーグルトだけですか」
ランの夕飯のラーメンを茹でながらイシルが心配顔でサクラを見る。
「はい、薬のせいか、まだ食欲がなくて」
本当は、おなかは減っている。
実は少し前から食べたくはなっているのだ。
だけど、、
【食べたら体重が増えてしまうのではないか?】
少し不安なのだ。
今のところ糖質制限を初めてから 着実に二週間に500gずつ減っている。
体重が落ちていくのが面白い。
そして、このまま夜食べないでいれば、もっと減るかもしれないというちょっとした期待。
今食べる量を増やせば、体重が元に戻ってしまうんじゃないかという不安。
怖くて食べなくなる魔のサイクル。
お腹は空いているが食べないでいたい。
「神は、なんと?」
「……薬のせいじゃないかと」
嘘だ。
神には相談しなかった。
イシルが疑いの目をサクラに向ける。
「あ、でも、朝と昼はしっかり食べているなら大丈夫でしょうって……」
「本当に神がそんなこと言ったんですか?」
イシルの探るような目がイタイ。
「……はい」
イシルは麺を茹であげると一旦引き上げ、胡麻油を絡め、真顔でサクラに対峙する。
「サクラさん、最近夜中に起きてお茶を飲んでごまかしてますよね」
うっ、バレてる。
「本当は無理に食べないでいるんじゃないですか?」
鋭いな。
「そんなことは……」
「じゃあ、僕も サクラさんと一緒に、夜はヨーグルトにします」
いやいや、成人男性しっかり食ってくれ!
イシルさんは動く量が違うデショ!?
カロリーだいぶ消費しますよね?
「イシルさんはちゃんと食べてくださいよ」
「朝と昼はしっかり食べているので大丈夫です」
サクラがした言い訳と同じ言葉でイシルに返された。
「サクラさんと一緒に、食事がしたいんです。サクラさん 最近忙しく動いているのに、夜ちゃんと眠れてないのも心配なんです」
サクラが夜中に起きてたことに気づいているということは イシルも起きたということだ。
心配、かけたのか。
「軽いものを作るので、一緒に食べませんか?」
「いや、あの……」
そんな切ない顔で見つめないで下さいよイシルさん!
「お願いです……」
その悲しそうな瞳は卑怯ですよイシルさん!
そんな顔でお願いされたら、、
あーっ、もうっ///
「……食べます」
サクラが頷いたので、イシルはホッとしたように笑った。
いそいそと食事の準備にかかる。
「何を作るんですか、イシルさん」
「お好み焼きですよ」
お好み焼き?軽いとは思えないんですけど??
「粉は使いませんから」
「粉なしお好み焼き?」
「はい」
イシルは長芋を取り出すとすりおろし、卵を加えて顆粒だしで風味を加えかき混ぜる。
そこにネギとキャベツを投入し混ぜ合わせた。
分量は長芋150g、キャベツ一袋、卵一個、ネギはお好みで。
これで二枚焼ける。
「これだけです。野菜なら食べられるでしょう?」
「はい」
長芋と卵だけで焼けるの?
「お肉も入れますか?」
「じゃあ、少し」
「味が出ますからね」
イシルはフライパンに胡麻油をひき、温まったら中火にして お好み焼きのタネを流し込んだ。
「柔らかいですから、あまり大きくするとひっくり返せません」
12、3cm程の大きさに丸く形を整え、上に豚バラスライスを並べ、アルミで蓋をする。
「生地の濃度が薄くて、キャベツが焦げやすいので弱火がいいでしょう」
弱火で四分。
豚肉以外は全て生でも食べられるものだから、目安としては 不通のお好み焼きのように 底が焼けてひっくり返せる固さになればOK。
その頃には豚肉も熱で白く膜がはってくる。
そしたら裏返して弱火でまた4分。
じゅうっ、と 肉の油の焼ける音。
表面がかりっとしたらもう一度裏返し、逃げた肉の旨味を染み込ませる。
「出来ました」
「うわぁ……」
見た目はそのままお好み焼きだ。
美味しそう!
「今日は麺か」
ソファーのクラゲクッションで寝ていたランが イシルの『できました』を聞きつけたのか タイミング良くキッチンに入ってきた。
「ランは熱いと食べられないので、汁なしにしましたよ」
「ギトギトだけど、旨いの?コレ」
「僕がロータスで食べた時は美味しかったですよ」
ランに出されたのは『焼きそば』だ。
お好み焼きソースで作った甘めの焼きそば。
豚肉たっぷりだが、キャベツ、人参、たまねぎと野菜もたっぷり。
そして目玉焼きが乗っている。
生麺で焼きそばを作るときは一度麺を硬めに茹でてごま油に絡めておき、肉、野菜を炒め、麺を投入する。
最後にお好み焼きソースをかけて仕上げる。
「「いただきます」」
「サクラさんは糖質を気にしているので ソースはかけませんでした」
「ありがとうございます」
粉なしお好み焼きには ソースが別添えだ。
至れり尽くせり、イシルさんの優しさが心に染みる。
『お好み焼きソース』『マヨネーズ』もうひとつは……
「出汁、ですか?」
「はい」
サクラは粉なしお好み焼きに箸を入れる。
″ふわっ″
「うわ、ふわふわ!」
先ずは普通にソースから。
「はぐっ、、」
見た目どおりふわっふわ!
粉が入ってないのにお好み焼きだ!!
なんて、優しいんだろう……
「美味しい///」
これは、あれだ、お好み焼きと明石焼きの間のようだ。
これ、絶対ダシで食べても美味しいハズ!
次はダシにつけてもう一口
「はぐんっ、、」
ああ、優しい味……
ダシをふくんで口のなかでふるふる広がる。
「くふふっ///」
「やっぱり、サクラは食ってるときが一番可愛いな」
「んぐっ!?」
ランが突然変なこと言うのでサクラはむせてしまった。
「なんだよ」
「食べてる時に変なこと言わないでよ///」
「おっ、照れた」
「うるさい///」
「サクラか~わい~い」
ランがクスクス笑う。
この天然好色プレイボーイめ!
「ラン、口の回りにソースつけて口説いても絞まりませんよ」
ランへイシルからの不意打ち口撃
確かに、口の回りベッタリソースでキメ顔しても……
それはそれでギャップ萌え?
「子供みたいでかわいいですね~ラン、僕がふいてあげましょうか?」
「うるせぇ///」
ランがぐいっ、と 手でふく。
「ああっ、ラン、袖で拭いたら、、もうっ!ベタベタじゃない!着替えてよ~」
「こんなの魔法ですぐ落ちるし」
「自分ではやらないくせに!!誰が洗濯すると思ってるのよ~」
「イシルがクリーニングの魔法かければ済む話だろ」
「ラン、そろそろ自分でクリーナー魔法覚えて下さい、便利ですよ?」
「掃除キライだから覚えたくない」
騒がしい夕食。
やっぱり食卓は 皆で囲むのがあったかい……
◇◆◇◆◇
″ガガガ、、ザザッ……″
『……ジェリ、……ケラ、、リ……』
機械音にまざり、ミケランジェリを呼ぶ声がする。
ミケランジェリは懐から水晶を取り出した。
見ると 水晶は緑に輝き、シャナからの連絡を知らせている。
「しばらくぶりだな、何か動きがあったのか?」
『サクラと一緒に仕事をすることになったわ』
「ほう、よくやった」
ミケランジェリはほくそ笑む。
『ただ、ドワーフの村にはエルフの結界がかかっていて、手が出せないの』
「そうか、、」
さて、どうしたものか……
思考を巡らせていると 水晶の向こうから声がかかる。
『私にもう少し時間をくれませんか?』
「何か策があるのか?」
『ええ、先ずはサクラの信用を得て、村の外に連れ出します』
シャナが自ら提案するなど珍しいことだ。
やっとやる気になったのか?
「どうやって信用を得る」
『……ラーメン作りを、成功させるわ』
ラーメン??
『ラーメンはロータスにある料理で、あの村で麺を作れる者は私しかいないの』
「ほう、、」
成る程、自分の能力を見せつけて信頼を得るということだな?
少し時間はかかるだろうが良い作戦だ。
『サクラの作った『ラーメン』は、私が食べたどのラーメンより美味しかった……』
珍しくシャナの言葉に力がある。
『あんなの///初めて』
熱っぽいシャナの声。
『私は、あの『ラーメン』を越えてみせる……』
シャナの言葉に熱意がある。
『あの、もっちりと、コシのあるハリと弾力、硬めでかみごたえがあり、少し縮れてスープに良く絡み、喉を通る喉越しまでもが計算されているあの麺……ああ///』
シャナの艶っぽい吐息にミケランジェリが戸惑い、ゴクリと息をのむ。
「シ、シャナ?」
『イシルさんの作るスープに 見事に絡んでみせるわ!!』
シャナが 燃えている。
『ミケランジェリっ!!』
「は、はい」
『マーキスのこと、頼みましたよ?私がラーメンを完成させるまで!!!』
えらい熱の入りようだが……
「……サクラの、信用を得るため、だよな?」
『勿論よ!!』
「そうか、うむ、ならばよいのだ、励め」
『はいっ!』
こうしてシャナとの通信を終えた。
「……ラーメン???」
どんな料理だ???




