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208. ラーメン試食会




アスの館からドワーフの村にやってきたサクラとイシルは組合会館でラーメンの準備に取りかかる。


サクラはラルゴに現世で買った『お好み焼きソース』を渡し、サンミのところでソースの修行中のオズに持っていってもらった。

頑張ってこの味に近づけてくれたまえ!


さて、ラーメンの準備だ。

麺をゆでるために鍋にお湯を張る。

ラーメンスープは粉末を溶かして暖めておく。


「イシルさんは野菜炒めを作ってもらえますか?」


「わかりました」


サクラとイシルがトッピングを準備していると、ラルゴがオーガの村の族長ザガンとリベラ、ヒナを連れて帰って来た。


「サクラちゃん、ただいま~」


「あ、ラルゴさん、お疲れ様です」


ラーメンはオーガの村の目玉商品にするのだから、先ずは住んでいる人達が美味しいと思わなければ始まらない。

だからドワーフの村にいるオーガ三人を ラルゴに連れて来てもらったのだ。


「じゃあ、見てもらっていいですか?」


サクラは三人をキッチンに招き入れ、用意した具材を披露してみせた。

キッチンはそんなに広くないので、ザガンが入ると余計に狭い。


「ヒナ、おいで」


調理場の具材が見えるように ザガンがヒナを抱えた。

サクラが目をぱちくりさせると、イシルが横からこっそり耳打ちする。


(親子なんです)


うそ!見えん!

イカツイ族長から こんな可愛い()が産まれるなんて!!

奥さんはさぞかし美人であろう!!

ヒナの旦那さんになる人はこの強者を陥落しなければならないのか、、大変だな。

おっと、失礼。

サクラは気を取り直して説明に入る。


「説明しますね、これが、麺、そして、スープ、トッピング具材です」


野菜炒め、ネギ、温泉卵、ピリ辛メンマ、青ネギ、塩チャーシュー、牛のほぐし肉、、


「具材は上に乗せるだけなので、今日試食して好みに代えてください。見たことないのはメンマくらいだと思いますが、オーガの村には竹があったので、メンマも作れると思います。では、麺を茹でますね」


サクラは麺を鍋で茹でる。

生麺だから三分程、いや、二分半。


麺を茹でている間に スープをラーメンどんぶりにそそぎ、ゆだった麺をパスタトングで取り出してスープに入れた。


「トッピングしていきます」


塩ラーメンは野菜炒めを乗せてタンメンに。

とんこつラーメンにはあっさり塩チャーシューにたっぷり青ネギ、メンマを添えて。

コムタンラーメンには牛のほぐし肉と白髪ネギ、温玉を乗せる。


「サクラちゃん連れてきたよ~」


「もう出来るので座って待っててください」


ラルゴがまた一人連れてきた。


(誰だ?この気配は、、シャナ?)


イシルはキッチンからちらりと表を確認するが、ザガンが壁になっていて見えなかった。


「じゃあ、運びましょう」


それぞれ二杯ずつ作って席へと運んだ。


やはり、大テーブルにはラルゴとシャナが座っている。

イシルは訝しむ。


(何故シャナを?サクラさんは何を考えているんだ)


イシルの心配をよそに、サクラは皆にラーメンをすすめた。


「どうぞ、召し上がってみてください」


「「いただきます」」


イシルとヒナが塩タンメンを

ザガンとラルゴがとんこつを

リベラとシャナがコムタンを食べる。


″フー、フーッ、、ズズズッ、、″


「うまい!」

「何だ、これ」

「美味しい~」


イシル以外は箸ではなく木製フォークというのが締まらないが。


「シャナさん、箸、使いますか?」


サクラの言葉に イシルが驚く。


(シャナは箸を使える?しかし、何故サクラさんがそれを知っているんだ……)


言われたシャナも驚いているようだ。


「はい、お願いします」


サクラはキッチンに戻り、箸を一膳と薬味をもって戻ってきた。

ザガン、リベラ、ヒナは三人で交換しながらラーメンを味わっていた。


「薬味の胡椒やゴマ、紅ショウガやニンニクをラーメンに足しても美味しいですよ」


サクラはシャナに箸を渡し、皆に薬味もすすめる。


「味が締まった気がする」


交換してコムタンを食べていた強面(こわもて)ザガンが胡椒をかけ、顔を輝かせる。


「また違いますね、すっきりとした味に変わりました!」


とんこつに紅ショウガを入れたヒナも満足そうだ。


「先程も言いましたけど、上に乗せるものは考えてかえてください。コーンやもやし、ほうれん草とかも美味しいです。ゆで卵もいいですね~」


皆返事どころではない。

ザガンの顔が別人のように柔らかい

正に『鬼も笑顔』!


「「ごっくん、、ぷはぁ~」」


その後は最後の一滴を飲みきるまで 全員が無言だった。

特にシャナは 頬が上気し、恍惚の表情を浮かべている。

色っぺええぇ!!


「いやー、旨かった!!コレなら間違いないね!」


リベラも大層気に入ったようだ。


「随分簡単に作ったみたいですが、上に乗せるだけですか?」


ヒナがサクラに聞く。


「提供するのは簡単ですが、その前に麺とスープを作り、準備しなければなりません。美味しい麺やスープを作るのは簡単ではありません。勿論、お手伝いはしますよ」


「それはありがたい、これですすめたいのだが」


族長ザガンのOKが出た。


「スープはイシルさんが教えてくれるんですが、麺は……」


サクラはシャナを見る。


「シャナさんにお願いしたいんです」


(何だって!?)


サクラのこの発言に一番驚いたのはイシルだった。


「私、ですか?」


「はい、シャナさんは 麺のある国の……ロータスの出身ですよね?」


「ええ、何故それを……」


「え?あ――……」


猫になって聞いたとも言えないし、え~と、え~と、、


「服装?」


古龍ラプラスに千里眼で()()()もらった時、皆シャナと同じようにチャイナ服を着ていた。


「そう、服装です。旅(夢)の途中で寄ったことがあって、、シャナさんお箸が使えたから、そうかな、と」


イシルが何か言いたげにこっちを見てるのがわかったが、サクラは無視して続ける。


「無理にとは言いませんが、良ければ協力してもらえませんか?」


(シャナが断るはずがないだろう!シャナはサクラさんと二人になる機会を伺っているのだから、、サクラさんは何でまた……)


「サクラさんと一緒に、ですか?」


「はい」


「……私で良ければ」


「ありがとうございます!!」


イシルは心の中でため息をついた。


「あの、サクラさん」


「何ですか、シャナさん」


「……ありがとう、とても、美味しかったです。ご馳走さまでした」


「いえ、御粗末様でした」





◇◆◇◆◇





サクラとイシルは皆が帰ったあと後片付けをする。


「何故シャナなんですか」


「駄目ですか?」


「駄目ではありませんが……」


イシルは返答につまった。

サクラはシャナに狙われているのだ。

一緒に何かをさせるわけにはいかない。

だが、それをサクラに言うわけにもいかない。


「どうしても シャナじゃないとダメですか?」


「……他にいませんし」


「麺も僕がなんとかしますよ、あれが『ラーメン』というのなら、僕もロータスで似たようなものを食べたことがあります。」


「いえ、あの、イシルさんにはスープをお願いしていますし、、シャナさんとやりたいんです」


サクラは何故かシャナにこだわっている。


「サクラさん、シャナと話したこともないですよね、仲がいいわけでもないし、シャナがロータスの出身だと何故知ってたんですか?」


シャナは自分の事をあまり話さない。

一緒に住んでいるメイもメリーも 自ら聞いたりしないから、誰もシャナのことは知らないのだ。


「白猫になった時にシャナさんが話してくれました」


「ああ、あの時に。ロータスに()があることもシャナから聞いたんですか?服装や箸のことも?」


「いえ、それはエンシェントドラゴンに()()()もらいました」


イシルは呆れてしまった。


(サクラさんは何故こうも簡単に人の懐に入ってしまうんだ、

古龍がなつくなんて……)


イシルがげんなりと黙ってしまったので サクラは続ける。


「元気が出ると思うんですよね、自分の国の食べ物って」


「……」


「シャナさんって、いつもどこか寂しそうじゃないですか」


サクラが黙ってしまったイシルを説得にかかる。


「シャナさんは一緒に旅をしていた家族のような()()とはぐれてしまったそうです」


シャナは()のサクラにそんな身の上話までしたのか。

まったくサクラは、猫になっても()()()()だ。


はぐれた仲間、多分それが人質の『マーキス』


「イシルさん、私に初めて振る舞ってくれた料理、何だか覚えてますか?」


覚えている。

サクラが何とも言えない驚いた顔をしていたから。


「『ミルフィーユ鍋』ですね、懐かしい」


暖まるし、サクラと同じシズエの世界の料理だから、サクラも食べられるだろうと思って出したのだ。


「私、凄くほっとしたんです。全く知らない世界に来たのに、自分の国の料理が出て来て」


サクラははにかみながら、懐かしそうに語る。


「お出汁の香りも、豆腐の舌触りも、豚肉と白菜、舞茸の味わいも、そして、もてなしてくれたイシルさんの気持ちにも」


サクラはイシルが思っていたより、何倍も大きくイシルのもてなしの思いを受け取ってくれたようだ。


あの鍋にサクラがそんなに癒されたなんて……


イシルは嬉しいような、申し訳ないような不思議な気持ちになる。

あんな簡単な鍋じゃなく、もっといいものを出してあげれば良かったなと。


「今も不安じゃないのは、イシルさんがいてくれるから……」


(!!)


「イシルさんと一緒に 自分の国の料理を作っているからだと思います」


(なんだ///やっぱり料理か)


「だから、シャナさんもラーメン食をべたら、自分の国のものに触れていたら、きっと不安も寂しさも軽くなるし、元気も出ると思うんですよね」


イシルも見た。

シャナがサクラに『ご馳走さま』と言うのを。

その時のシャナの()の顔を。


「駄目、ですかね」


イシルの負けだ。

こうなってしまったサクラを止めることは出来ない。

人に添い、走り出してしまったサクラを。

イシルが惹かれたサクラの魅力を。


「わかりました。そのかわり、僕も一緒にやります。シャナと二人きりにならないで」


「ありがとうございます!」


(仕方がない、か。危険だが、うまく行けば『ミケランジェリ』に たどり着けるかもしれない、()()()をつかめるといいのだが……)







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