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188. 宴の後始末




朝日が眩しくて目が覚めた。


「……?」


おかしい、朝日が、眩しい??


サクラはガバッと飛び起きる。

窓に走ると 外を見て愕然とした。


「今何時!!?」


太陽が高い。


「うわ!遅刻だ!!」


やっちまった!寝坊した!電話、電話、電話いれないと!いや、ないよ、電話。異世界で寝坊したら皆はどうしてるんだ!?どうすんだこんな時!!伝書鳩か!?


「制服!制服!」


なんで!?イシルさん、起こしてくれなかったの?イシルさんもまだ寝てるのかな?ランは?ランも寝てるの?帰ってこなかったの?いや、それより支度しないと!


「ない!?あ、下だ!」


サクラはゴスロリメイド服に着替えようとして、昨日の夜ラ・マリエから持って帰ってきて、リビングに置いたままなことに気づく。


「ヤバイヤバイヤバイ!」


サクラが寝起きのまま、バタバタとリビングに制服を取りに下に降りると、リビングではイシルがお茶を飲んでいた。


「ああ、起きましたね」


「イシルさんっ、遅刻ですぅぅ~」


「サクラさん、落ち着いて」


サクラはわたわたと制服を探す。

寝癖で髪がひよんひよん跳ねている。


「制服、、あった!すみません、イシルさん、ちょっと待ってて下さい」


「サクラさん」


「すぐ着替えてきますから」


″ガツッ!!″


「あいたっ!」


ソファーに足をぶつける。


「ううっ、情けない~」


「サクラさん」


制服をひっつかみ、リビングを出る。


「サクラ」


「はいっ!」


うぐっ///名前、呼び捨ては息が止まるっ!


「とりあえず、座って」


「……はい」


サクラはすごすごとソファーに座った。

イシルがサクラのためにお茶をいれる。


なんだ?空気が重いぞ、私、何かした?

このたっぷりとした間が怖い。

てか、早く着替えて行きたいんだけど……


サクラはソワソワしながら イシルがお茶をいれるのを見守る。


「今日は店を休んでください」


「えっ!?いや、体調不良でもないのに当日欠勤(とうけつ)は駄目ですよ!遅れてでも行かなくちゃ!」


遅刻で当欠とかありえない!


「……昨日、何をやらかしたんですか」


「昨日?店で?」


「バーガーウルフは今、貴女を一目見ようという貴族でいっぱいで、朝ギルロスが知らせに来ました」


「えっ!?」


何、私、上◯動物園のパンダ状態!?


「ラン達警備隊がついてますが、今貴女が行くとかえって迷惑です」


「……すみません」


「アスが貴女の代わりの者を手伝いに寄越したので、仕事の心配はいりません」


仕事は、大丈夫なんだ……


「しばらく店はお休みしてください」


「……はい」


迷惑かけちゃったか……

そんなに物珍しいのかな、私。

新参者だし、女性の商人はいなかったからなぁ、珍獣扱い?


サクラはイシルのいれてくれたお茶に口をつける。

部屋の空気はまだ重い。


まだ何かあるの?


サクラがお茶を一口のみ、落ち着いたところで再びイシルが口を開いた。


「で、アスの婚約者ってなんですか?」


「は?」


「ダリア商会の養女になるって本当ですか?」


「え?」


「実は何処かの国のお姫様だったんですね、知りませんでしたよ」


私も知りませんでした。お姫様!?


「何ですかそれ!誰の事ですか!?」


「貴女のことですよ」


なんだか噂がとっても一人歩きしてますよ!?

それで私、今日珍獣扱いなのか!!


「誤解ですよ!アスは仕事のパートナーとして私を紹介しただけですし」


()()()は省略してたけど。


「ダリア商会の会長は、()()()()()()と言っただけです」


膝間付いて手の甲にキスされたけど。


「最後の『お姫様』に至っては、何の事やら……」


「全て、ただの噂だと?」


「ただの噂ですっ!!」


根と葉はありますが。


「わかりました」


わかってくれた。

噂ならそのうち消えてくれる。だろう。


「じゃあ、触れたくなるような背中って何ですか?」


「え?」


「キレイな白い背中とは?」


なんだそれ!?


「いや、全然キレイなんかじゃないですよ!?広いし、丸いし、ハミ肉しててぷよんとしてたし」


「はみ///っ!!」


「あの、背中の腕の付け根のところが、どうしても、ぷよん、と……」


「説明は結構です」


ん?さらに機嫌が悪くなったぞ?


「だから、皆様が見たくなるような華奢で美しいくキレイな背中では決してありませんでしたっ!」


サクラは、小威張って言い切った。


「要は背中の開いた服は着ていたということですね?」


あれ?


「いえ、あの、!ストール撒いて隠してたんですけど、見えてしまって、皆様のお目汚しを……」


実際はレースだけど。


「そうでしたか」


イシルの手がほわん、と輝き、手元に剣が現れた。

おお、これが剣の召喚か……ごっつい剣だなぁ。

イシルさんこんな大剣振り回せるんだ。見てみたい。さぞかし格好よかろう。


サクラが見惚れていると、イシルがゆるりと立ち上がる。


何?何?


「イシルさん、どこ行くんですか?」


「ちょっとアスのところへ」


「え?その剣は何ですか?」


「これですか?」


イシルが無造作に持っていた剣を掲げる。


「デーモンキラーです」


「え?」


デーモン→悪魔

キラー→殺す


悪魔殺し(デーモンキラー)


うわー!!

悪魔を切る剣だ!!


「待って、待って、待って!!」


サクラは慌ててイシルの前に立ちはだかる。


「退いてください、サクラさん」


「いやいやいやいや、それで切ったらいくらアスでも死んじゃいますよ!?」


「ええ、そのつもりです」


何言ってんだこの人は!!


「一瞬ですよ!ほんとに、背中は一瞬見えただけで、すぐにアスが上着をかけてフォローしてくれたから、あれは、私が咄嗟にやったことで、事故みたいなもんで、アスは悪くないんです!」


()()を庇うんですか?」


なんでそうなる!?


「そんなんじゃなくて、いや、たかが背中見せたくらいで、殺生はいけませんよ!」


「たかが?」


あいたー!また言葉のチョイスを間違えた!

部屋の()が増し、気温が下がった気がする。


「もう着ません!背中を晒すような服は、もう着ませんから!!」


「本当ですか?」


「約束します!だから、剣をしまって!!」


納得したのか、イシルの手から剣が消えた。

イシルは目の前のサクラを悲しそうな瞳で見つめ、サクラの寝癖をなでつける。


「他の男に 触れたいなんて思わせないで」


寝癖を直すイシルの手の優しさを感じる。


「貴女が大事なんです」


うっ///嬉しいけど、答えられない……

イシルの気持ちに応える気はないんだし……


「僕は何をするかわかりません」


怖いな!!


「約束、守ってくださいね」


「……善処します」


サクラが政治家のような返事をする。

返事に納得がいかないのか、さらにイシルが追いこんできた。


「もし破ったら……」


「破ったら……?」


「そんな服、物理的に着られないようにします」


物理的にってことは


「服を破る、とか?」


「そんな面倒なことはしません、キリがないですし。もっと簡単です」


何だろう


「貴女の背中に僕の印(キスマーク)をつけます」


ひいぃぃ!


「消えても、またつけます」


うわあぁぁ!!


「何度でも……」


「絶対、着ません!」


イシルはちょっと考える。


「……着てもいいような気がしてきました」


「着ませんっ!」


やっと イシルがふふっ、と笑った。

激おこお父さんモードは解除されたようだ。


「イシルさんも、アスに『デーモンキラー』なんか使わないでください」


「ちょっと切ったくらいじゃ()()()は死にませんよ」


いやいや、さっきはトドメを刺す勢いでしたよ!?


()()()()()()()なる程度ですよ」


ホラーだな……


「それでも、です。友達なんですから」


サクラが知る中で、唯一イシルがため口がきける程の友達。


「……そうですね、気をつけます」


気をつける?

切らないとは言わないんだ……

うん、気をつけよう、私が。


サクラはイシルが用意してくれた 遅い朝食をとる。


「僕はアスの所に今後の事を話しに行ってきます」


「私も……」


「デーモンキラーは使いませんから、待っていてください」


午後は一緒に過ごしましょう、と、イシルは『ラ・マリエ』へ出掛けていった。












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