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163. ラルゴの実演販売

おまたせしました(?)

ラルゴの特訓の成果です。




″カラ~ン、カラッ、カラ~ン″


福引きの鐘のような音と共に 道行く人の注目を集めると、ラルゴは前口上を延べ始めた。


「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!御用とお急ぎでない方は ゆっくりと聞いておいで!」


昼にアジサイ町に入町したラルゴとハルは、商人ギルドでの取引を終え、市場の一角に場所を借り陣取っていた。

ランチ時を終えた市場は、夜の買い出しに来た主婦や料理人、観光客で賑わいをみせている。


「よかったら見ていってよ」


露店の前では警備としてついてきたハルが かわいい八重歯をのぞかせながら天使の笑顔をふりまき、そのまわりにきゃいきゃいと女の子があつまる。


その人だかりを見て、なんだ、なにかしらと 集まる人々の目の前には、ジャガイモやサツマイモ類の根野菜、キュウイやリンゴといった果物、そして 油の鍋。


「ちょいと奥さん、聴いていかないと損するよ?お嬢さん、見ていかないと乗り遅れるよ?ダンナ!先物買のチャンスだよー!!」


ラルゴは おいでおいでと 人を集め、また鐘を鳴らす。

集客は上々、そろそろやるか。


″空気は読むものなじゃない、作るもの″


サクラの言葉を胸に、ラルゴは集まった人々の前にピューラーを掲げた。


「さてお立ち合い!ここに取りいだしたるは 熟練に熟練を重ねた匠の技術の集大成、その名も″ピューラー″なり!皆様、みたことおありかね?」


「なんだ、あれは」

「武器か?随分小さいな」

「髭剃りか?」


見たこともない形の″ピューラー″に 見物客が口々に予想をたてる。


「このピューラー、実に機能的!手にしっくり馴染むこの曲線!しなる持ち手は 程よく力加減を分散し、長時間、誰が使っても、疲れはしない」


客をじらす。


「だから、なんに使うんだよ~」


チッチッチ、と ラルゴが間を持たせる


「慌てなさんなお兄さん、これからソレを見せようってんだ、よーく見てな」


ラルゴはジャガイモを手にすると、ピューラーと共に掲げた。


「とりいだしたりますは、なんの変哲もないジャガイモ、ご家庭にあるジャガイモとおんなじもんだ。イモはいいねぇ、どんな料理にも合う。みんな大好き、男爵様だ!だが、皮を剥くのは一苦労、なかなか薄くむけずに家計に大打撃!あー、もったいない。家族分剥けば手も疲れる、料理人さんなら尚更だ。しかーし!」


ラルゴがジャガイモにピューラーを当てる。


「このピューラーを使えばこの通り!」


″シャッ、シャッ、シャッ……″


ラルゴは滑るようにしゅるしゅると縦に手を動かし、ジャガイモの皮を剥いていく。


「おぉーっ!」

「早いわ!」


そのなめらかな手さばきに集まった客たちは感嘆の声をあげる。


「面倒な芽取りも、このとおり」


″ぴん、ぴん、ぴんっ!″


「便利ね~」


早くも食いつくいい反応。


「見ての通り、力を入れずとも、このように薄く簡単に皮が剥る!この私でさえもこの通り、ほれ、ご覧あれ!」


ラルゴは剥き終わった皮をつまんで客に見せる。

無駄のない厚さ、程好い長さ。


「ほれ、ほれ!」


むいたジャガイモも見せる。


「なんて滑らかにむけてるの!?」

「こりゃいいな!仕込みが楽になる!」


料理人らしき男が目を輝かせた。


「あんなのなくてもイモくらいむけるさ」


おっ、きた、否定的ご意見ありがとう。


「イモだけだって?バカいっちゃいけないよ」


ラルゴは どんっ、と、パイナップルをとりだす。


「頑固親父みたいな硬いパイナップルの皮だって――――」


″バリバリバリバリ″


次は桃だ


「お嬢さんの柔肌のように繊細な桃だって――――」


″シュルシュルシュル″


「この通りさ!!」


「「おぉーっ!!」」


客を惹き付ける手捌き。

サクラとは別の、少し男っぽい粗い手つきが、逆に愛嬌を誘う。


「パイナップルをあんなに簡単にむくなんて!」

「あんな小さな刃で……刃こぼれしてないのか!?」

「トマト!トマトむいてみてくれ!」


あいよ、と トマトをむいてみせる。

その切れ味から刃こぼれが問題ないこともみてとれる。


ラルゴはここで見栄を切る。まるで観客を魅せる役者のように!


「これぞドワーフの技術の集約!軽くて持ちやすく疲れない、どんな野菜も自在に皮をむく、その名もモルガンピューラー!!」


……名前はちょっとダサいが。


そして、客を逃さないよう、一気に捲し立てた。


「このピューラーは、ステン鉱物で作られているため、軽くて腐食に強い、丈夫で使いやすい仕様になっております!」


「ドワーフの作品か!」

「良さそうだわ~」


「刃は回転刃だが、回りすぎず、果物や野菜のサイズ、皮の厚さに柔軟性に対応して、使用習慣に合うようにむける仕様!」


「なるほど~」

「うんうん、」


「切れ味の良い刃が斜めについているから刃がスッと入って切りはじめがスムーズな切れ口!」


「「おおー!」」


モルガンピューラーを客の目の前に出す。


「見て見て、見て!刃を良く見ると、等間隔に、小さな溝が見えるだろう?これがむいた皮と食材がくっつきにくくなっている秘密だ!」


「いいのかい?そんな秘密を教えちまって」


「なんのなんの、秘密を知ったところで、これを造れるのは匠のドワーフモルガンだけ!なんたって……」


ラルゴはサツマイモを持ち、()()()()に ピューラーを当てる


″シュッ″


野菜の皮をむくように滑らせた。

「きゃっ」「わっ!」と、悲鳴があがる。

しゅるっ、と サツマイモの皮が落ちる。


「イモはむけれど、手は切れず!!!」


当たったはずの手をだし、ずざーっ、と、腕を振って 客の目前を一周させる


「「うぉー!!」」


大喝采。

ラルゴは油に火をつけた。油が温まるまでもうひと芝居うつ。


どんっ、と半切りキャベツを取り出した。

まるごとキャベツはつかわない。

何故なら、()()()使()()ところは見せたくないからだ。

主役はピューラー!

ピューラー()()をつかうことが大事。


「ソレソレソレソレ!」


″ズバババババババ……″


キャベツの断面を横に滑らせ キャベツをバリバリ削いでいく。


「「うわー!」」


ピューラーに削られてみるみるうちにキャベツが小さくなっていき、千の風になってそよぐ。


「ふんわり千切りキャベツもあっという間さ!」


「なんてこった!」

「魔法でもないのに!」


油が温まった。

いよいよ大詰めだ。

次は何を見せてくれるのか、客の心は既にラルゴのもの。


ラルゴはジャガイモを握る。


「そして、ジャガイモを!」


むいたジャガイモにピューラーをあて――――


″シャカシャカシャカ……″


ジャガイモを薄くスライスしていく。


「あんなこともできるのか!」

「多用ね~」


それだけでは終わらない。

薄くスライスされたジャガイモは ヒラヒラと宙を舞い、雪のように 黄金色の油のなかに舞い落ちる。


″ジュワッ!!″


ダイレクトに、油の中に。

パフォーマンス重視!


「これぞ!雪降りのかたちだぁ~、お立ち合い!!」


ラルゴは、キメゼリフと共に、やりきったどや顔で ピューラーを顔の横に持ち ポーズを決めた。


「「おおお――――っ!!」」


ラルゴは急いで揚がったポテチをすくいあげると、パラリと塩を振り 見物客に差し出した。


なんとも香ばしく 魅惑的な香りがあたりに広がる。

揚げ物料理なんて 始めての客ばかりだろう。


客の一人が 代表して、おそるおそるポテチをつまむ。


″……パリッ!″


全員が見守る中、かる~い音と共に ポテチをつまんだ男の顔が綻んだ。


「うまいっ!!!なんて薄くて軽いんだ!」


男の幸せそうな顔に、我も我もと ポテチに手が伸び、あちこちで初ポテチの感想、感嘆の声が聞こえる。

ラルゴはポテチを更に揚げ、ハルが後ろの人や、見ていなかった道行く人にまでポテチをふるまっていく。


「で?それはいくらなんだい!」


客が買う気になっている。

ラルゴは客の中から料理人を探し出す。


「そこの旦那、見たところ腕の良さそうな料理人に見えるが、旦那の包丁はいくらしたんだい?」


「オレのか?オレのもドワーフにつくってもらって、35000¥はしたぜ」


″いいですか、ラルゴさん、人は1000¥と言われるより980¥と言われたほうがすごく安く感じるんです″


サクラの言葉を思い出す。


「包丁だってあの値段さ。この()のモルガンピューラー、いくらだと思うね?」


「う~ん、15000¥?」


ラルゴがニヤリと笑う。

ありがとう、料理人の旦那!


「いいとこついてる!このモルガンピューラー、今日、初お目見えということで、なんと、9800¥、9800¥!!」


「おおー!」

「あら、思ったより安いのね~」


料理人の旦那がいなければ、高いと思われたろう。


「の、ところを」


「「???」」


「販売記念の大特価!今なら2個で9800¥!」


「「ええーっ!?」」


これには全員が度肝を抜かれた。

いきなり半額だ。

迷いがあっても、今買わなくては次回は9800¥!

当然とびつく。


「さあ、どうする?2個使ってもよし、となりの奥さんとだしあって分けてもよし!()()()だよー!」


場が騒然とする。


「しかも、本日100個()()販売だ!100個で終わりだよ~」


客の温度があがる。

急いでペアを探しているようだ。


「今買うと、もれなく()()()のレシピもつけちゃうぞ~!!」


「買った!」

「オレも!!」

「私も!!」


「はいはい。はい、並んで~」


ラルゴが代金をもらい、ハルが商品とポテチのレシピを渡していく。


いや~、まさか2個で9800¥で売れるとは思わなかった。

ひとつ1980¥で売ろうと思っていたのだから。

原価はそれほどかかっていないのだから、丸儲けだ。

あの料理人のおかげだな。


ひとつ9800¥でもよかったのだが、さすがに良心が痛んだ。

あまり高く売ると逆にモルガンに怒られそうだ。

モルガンの腕に対しての技術料なんだから、もらっときゃいいと思うが、職人と商人の考え方は違うらしい。

モルガンはいいものが造れればよかったのだ。


まあ、今回は宣伝だ。これから先もあるし、打倒な値段だろう。

類似品がでれば、値下げも考えなくてはいけなくなるのだから、はじめから安く売ることはない。


だが、使ってみればわかるはず。

このモルガンピューラーは、料理人の旦那の言うように 10000¥だしたとしても、もとがとれるはずだと。


何回かに分けて実演販売するはずだったのに、この日、この一回で モルガンピューラーは完売した。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 桃までむけるとかすごーい! ヤバイ。これはほしい。 うちのは芽取りができないんだよなあ……などとすっかりのせられました。 そしてハル君が今日もふわふわ可愛い。癒しです^^
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