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162. それからそれから




「よくここがわかったわね」


朱雀庵の外に出ると アイリーンはイシルに悪態を吐く。


「わかったわけではありませんよ。ここに来る前にハーフリングの村に行って無駄足を踏みましたから。わかっていればもっと早く着けたのに」


ああ、すみません、イシルさん。探し回ったんですね。


「行き先くらい言って行ってくださいよ」


サクラを見つめた瞳が 心配しましたと言っている。

そして、少し寂しそうだ。申し訳ない。


「ごめんなさい」


無事で何よりでした、と また イシルの瞳が語る。


「サクラは悪くないわよ。何処に行くか知らなかったんだから」


「でしょうね」


イシルは見当がついていたようだ。

サクラが無理矢理アイリーンに連れ出されたことに。

アイリーンは悪びれもせずイシルに食って掛かる。


「邪魔されたくなかったから言わないで行ったのよ。わかりなさいよね」


「危ない目にあったらどうするんですか。女の子だけででかけるなんて」


「束縛しすぎよ、サクラは()()()()()()じゃないんだから」


「サクラさんのことだけを言ってるんじゃありません」


アイリーンがうぐっ、と一瞬言葉につまる。


「ほっときなさいよ、いざとなったら()()()がいるんだからっ」


反抗期の娘とお母さんですか!お二人さん!?

サクラは二人の間でおたおたしている。


「……ほう」


それまで母親の如く心配していたイシルの空気がかわった。


「反省していないようですね」


お父さん登場!?

アイリーンがちょっとたじろぐ。

が、折れる気はなく、ふんっ、と 顔を背けた。


「わかりました。今度無断でサクラさんを連れ出したら スターウルフを()()()()


アイリーンは引かない。

アンチイシル、ここに降臨!


「アタシと契約してるのに奪えるわけないじゃない」


アイリーンが不敵に嗤う。

やれるものならやってみろ、と。

アイリーンは既に スターウルフとの間に()()を築き上げているようだ。


「簡単ですよ」


「え?」


「全滅させればいいだけですから」


イシルが事も無げにいい放つ。


「なっ!?」


イシルの意外な言葉に さすがのアイリーンも口をつぐんだ。

『全滅』、、イシルならいとも簡単に出来るだろう。

いや、出来るわけない、心情的に。出来ないはず。

でももし本当にやったら……


アイリーンが動揺を見せた。

イシルはそれを見てとって アイリーンに諭すように続ける。


「出掛けるなと言っているんじゃありません。何処に行くかを言って行きなさいと言っているんです」


「くっ……」


「わかりましたか?」


アイリーンは答えない


「アイリーン」


念押しするお父さん(イシルさん)


「わかったわよ、この極道エルフ!!」


おおっと!イシルさんがドSエルフから極道エルフにランクアップしてしまった!


帰るためにアイリーンがスターウルフを呼ぶ。

サクラのために、もう一匹。


やられっぱなしで気のすまないアイリーンは それでもイシルに悪態をぶつける。


「それにしても なんなの()()()


(()()?なんだろう、何かあったかな)


「あんなあからさまに牽制しちゃって、恥ずかしいったらありゃしない」


(牽制??誰に??)


「大人げないわよ」


(イシルさんなんかした???いつものイシルさんだったよ?)


「……反省、していないんですか?」


イシルの纏う空気が揺らぎ、スターウルフが″キューン″と耳を後ろにひいて怯えた。


「ぐっ……帰るわよ、サクラ」


「う、うん」


よくわからないまま、サクラがスターウルフに乗ろうとすると イシルがサクラの腕を掴み、引き留める。


「僕と」


僕と一緒にかえりましょう、と。


「っ///」


そんな切なそうな顔しないで~~~~!!


「いや、ほら、アイリーンを1人で帰すわけにはいかないから、、」


(イシルさんと帰るということは 抱っこちゃんでしょうが!!

ムリムリムリムリ!いくら早くても それは無理!)


サクラはスターウルフに乗る。

アイリーンがイシルに向かって べっ と 舌をだした。

小学生かよ。





◇◆◇◆◇





サクラとイシルとアイリーンが出て行った後、戦士マクダフ、剣士ダン、幼馴染みで魔法使いのグランドと共に ハリスは酒を飲み直していた。


「なんか、凄かったな」


熱に浮かされたような顔で 隣に座るグランドが呟く。


「ああ」


だが、気に入らない。

ハリスは別にサクラに手を出そうとしたわけではなかった。

ただ、ちょっと気になっただけだ。

食べるところをもう一度みてみたかっただけ。

それをあそこまで牽制しなくてもいいじゃないか。


「イシルさんとサクラは夫婦なのかな」


「むぐっ!」


「わっ!なんだよハリス、大丈夫かよ!」


グランドが 肉を詰まらせそうになったハリスに水を差し出す。

ハリスの目の前で マクダフが悪魔の酒をあおりながら笑った。


「いや、ねーだろ、あんな凄いイシルさんとサクラなんて釣り合わねーよ」


そう言って ボトルから酒をグラスに注ぐ。


「お互い敬語だったしな」


ダンも肉をかぶりながら 特に気にしていないようだ。


「そうなかぁ、いい雰囲気だと思ったけど……」


グランドは腑に落ちない様子だ。

グランドの感じたことは合ってる。だけど、夫婦じゃ、ない。


「……気になる」


「ハリス?」


「いや」


ハリスはぼんやり考える。そこまでイシルが思い入れているサクラってなんだろう。

遠ざけられると 余計に気になる。

もう一度、会いたい。


そして 手にしたエールをあおる。


「ハリス、悪魔の酒飲まないの?マクダフとダンに全部飲まれちゃうよ?」


「ああ。()()は 飲まない」


「?」


いつか、自分の金で買う。

()()を飲んだら 負けたような気がするから。

クレマチスの街のダンジョンを30階まで行って、もう一度、サクラに、合おう。


ハリスは 決意を新たにした。





◇◆◇◆◇





家に帰ると、ランが拗ねていた。


「ごめんね、ラン、なんか食べた?」


ソファーに座るランがぷいっと顔を背ける。

サクラは隣に座り、ランのご機嫌とりの真っ最中。

サクラは反対にまわり、ランの顔を覗き込む。


「なんか、作ろうか?肉がいい?」


「飯はギルと食った」


ぷいっ と。

なんで拗ねてんだ……

ランの隣に座る。


「じゅ~る、食べる?」


ランの好きなおやつをちらつかせてみる。


「オレはそんなんじゃ誤魔化されない」


なんだ??


サクラに背をむけたまま、ランがぼそっと呟いた。


「サクラの浮気者」


「えっ?」


「オレ、以外の(オトコ)に乗りやがって」


オトコ?乗る?


「しかも女狐(アイリーン)(オトコ)になんて……」


「……もしかして、スターウルフのこと?」


後ろ姿のランが きゅっ と肩をすくめる。


「そんなことで……」


いや、気の毒に、私を乗せたスターウルフはだいぶへばってたよ?


「そんなこと!?」


ランが振り向き、キッ、とサクラを睨む


「サクラはわかってない、オレがどんな気持ちでサクラを乗せてるか……」


「ラン……」


そんなに主人思いだったの?

いや、ごめんよ。


サクラは申し訳なくなって うつ向いたランの頭を撫でた。


「……ごめん」


「サクラは誰だっていいんだな」


「そんなことないよ、ランがいいに決まってるよ!」


なんか、おかしなことになってきたぞ?


「オレだけじゃなかったなんて……」


「だから、ごめんってば」


痴話喧嘩みたいになってるけど、大丈夫か?コレ。


「他のオトコにサクラがまたがるなんて……」


いや、その言い方は駄目だろう!


「サクラのふとももはオレのものだ!!」


ん?、ふと……なに?


「オレが動く度に サクラのふとももにきゅっ、と力が入って、、」


え??太腿??


「オレを締めつけてはなさないんだ!」


……おい、コラ


「スベスベの肌が()()をはさんで、、」


「……ヤメロ」


「オレが激しく揺するたびに、きゅっ、と サクラが強く()()を締めつけて、擦れる度にオレは――――」


「ヤメロといっとろうがぁぁっ!!」


″すぱ――――――――――ん!!!″


「にゃああああ――――ん」


サクラの結界がランを弾く。

今日は肉を食べたからか、いつもより威力が強く、ランは階段付近まで飛ばされて、しこたま頭を打った。


「きゅうぅ……」


風呂から上がったイシルが とおりかかる。


「こんなところで寝ていて風邪引いてもしりませんよ、ランディア」


ランの屍を越えて行く。

ランは ()たせるかな、ランであった。

何てことを大声で力説するんだ!まったく。


もうランには乗れない……

乗る時はせめてズボンを履こうぞ。


心に誓った サクラであった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 出ましたね、お父さんイシルさん。 アイリーンさんのこともちゃんと心配してくれているんだー、とちょっとほんわか。 極道エルフになってしまいましたが(笑) そしてランにゃんはやっぱりランにゃ…
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