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147. ラルゴの特訓 5 (フルーツポンチ)




特訓二日目の朝が来た。


ラルゴは 昨日サクラとイシルが作ってくれた肉じゃがで 一人朝ご飯を食べる。


ギルロスとラン(結局泊まった)は 深酒していたから、まだ寝ているようだ。


厚めに切られた牛肉とほっくりジャガイモ。

甘辛く煮付けられた肉じゃがは 酒にも合ったが 麦飯にも合う。


肉じゃが、ジャガイモのきんぴら、卵たっぷりポテトサラダ、ジャガイモのチーズ焼き、ジャガイモのニョッキクリーム風味……

ジャガイモって、あんなにバリエーションがあり、美味しいものだったんだなと思った。

勿論、ジャガイモ以外の料理もおいしかったけど。


″あむっ、もぐむぐ″


(ドワーフ村のジャガイモは美味しい)


ラルゴはさらにジャガイモを頬張る。


(これが、オレの売る商品だ)


ドワーフの村人が丹精込めて作ったジャガイモ。

村人と触れあっている分、愛着がわく。

開発に携わったからこそわかるモルガンのピューラー。

それだけじゃない。

この村で 武器や防具を作っている人達。

ラルゴはその人達の代表なんだ。


旅商人の時とは違う意識が ラルゴの中に芽生え始めていた。


「ごちそうさんでした」


ラルゴは今日も 銀狼亭へ ジャガイモの皮を剥きに行く。


()()()の良さは オレが良くわかっているはず」


相棒の モルガンピューラーを片手に――――




◇◆◇◆◇




「ラルゴさん、あの、優しくお願いします」


「うん」


「力を抜いて……」


「こう?」


「もっと、優しくさわって……」


ランは 組合会館の大テーブルに肘をつき、サクラとラルゴのやり取りをじーっと見ていた。

ラルゴは 銀狼亭で午前中ジャガイモの皮剥きをして、サクラのお墨付きをもらったので、午後は果物を剥く練習をしている。


「モルガンさんのピューラーは力をいれなくても良く切れます。だから、撫でるように動かせばいいだけです」


「おう」


「ジャガイモと違って果物は柔らかいですから、潰さないように、そっと持って」


ラルゴはキュウイを手に皮をむく。

が、朝から固いジャガイモをガシガシ剥いていたので、つい握りしめてしまう。


「柔らかいものをあつかったことありますか?思い出してみてください」


「柔らかいもの……」


ラルゴの目線がサクラの胸元に降りる。


″ピンッ″


「いてっ!!」


ラルゴのデコに衝撃が走り、ラルゴは思わず額を押さえてしゃがみこんだ。


「どこ見てんだよ」


ランの据わった目がラルゴに向けられる。

ラルゴのヨコシマな気配を察して 剥き落ちたキュウイの皮を ランが弾いたようだ。

キュウイの皮で この衝撃って、おかしいだろ!

まるで石つぶてでも弾かれたような痛さだ。


「じゃあ、もう少し固めの果物からいきましょうか」


サクラはリンゴをとりだした。


「こんにちはー!」


組合会館に爽やかな声が響く。

赤い騎士隊の制服を着た人物が入ってきた。


「やっぱりここにいた、ですね!ラン()


入ってきたのは ハロルド、ハルだった。

大軍鶏鍋大会の時にやってきた ギルロスとランの昔の仲間。

可愛らしい顔立ちの 癒し系イケメン。

くりくりおめめ、ふわふわ天使の髪の 子犬のような男の子。

ランよりちょっと年下かな。

ギルロスがシベリアンハスキーなら、ハルはふわふわプードルといったところだ。

しかし、ラン()って……


「サクラ()こんにちは、鍋大会以来だよ……ですよね!」


ハルがニコニコとサクラに笑いかける。

眩しすぎる笑顔だが、


「ハルくん、()って、いらないから」


敬語は使えないのに無理やり使ってるのがまるわかりだ。


「だって、(きさき)になる人に 呼び捨ては失礼だし……です」


「キサキ?」


ぴんっ、と ランが また キュウイの皮をはじく。


「いたっ!やめてよ!ラン様!」


()は禁止って言ったろ」


「うっ……」


「何しに来たんだ、ハル」


余計なことは言うなと ランの目が更に凄みを増す。


「僕、ラルゴの警備で アジサイ町についていくことになったから、何か手伝えることがあればと思って、です!」


そう言ってハルはデコをさすりながら ふわっと笑う。

大丈夫だ、ハル。君はラルゴの横で笑っているだけで女子(おきゃく)を呼び込んでくれるだろうよ。


「そういえばラルゴさん、渡した台本っておぼえました?」


「いや、まだ」


「そうですか」


困ったな、流れだけでもおぼえてほしいんだけどなぁ……

何かラルゴの興味を引くようなことを書いておけばよかったかな。


″僕もいますから 頼ってください″


昨日イシルが言ってくれた言葉を思い出す。

仕方がない。ごめんなさい、イシルさん。

名前を使わせてもらいまっす!


「せっかく()()()さんが書いてくれたのに」


ラルゴはハッ、と サクラを見る。


「イシルさんが?サクラちゃんが書いたんじゃないの!?」


「はい」


「あの美しい文字はイシルさんの……」


ラルゴはだんっ、と机にピューラーを置く。


「サクラちゃん、オレに10分時間をくれ!イシルさんからの()()()()()読み直してくるっっ!!」


「……どうぞ」


この後ラルゴは部屋へ駆け込み、5分で戻ってきた。

幸せそうに、イシルの文字を 脳裏に焼きつけて……





◇◆◇◆◇





サクラはガラスのボウルに 魔法で冷水を入れる。

サクラの回りには ララやエイルをはじめ、昨日の子供達が組合会館の大テーブルにかじりつき、サクラの手元を見つめていた。

サクラは無言で料理をすすめているが、なんだがまわりの興味を引くような手つきだ。

不思議と引き込まれる()と サクラの目線。

子供達を たまに見ている。


″サラサラッ……″


白い粉と


″とろ~り″


蜂蜜


二つを冷水にいれると、溶け込むまでよく、かき混ぜる。

そこに、もうひとつの 白い粉を入れる。


″しゅわわ~~っ″


「「うわ――――っ!!」」


粉を入れたとたん、冷水が発砲した。


『クエン酸と重曹』炭酸水だ。


クエン酸と重曹を合わせると炭酸ジュースができる。

割合は1:1

駄菓子屋とかにある、水を混ぜるとシュワッとするジュースがこれだ。

甘みはないので、砂糖や蜂蜜を入れたり、フルーツ缶をシロップごと入れてもいい。

酒を割るソーダにも使える。


サクラは炭酸ジュースに、氷と、ラルゴが皮を剥いたリンゴやキュウイ、レモンにパイナップル、桃をカットし、輪切りのバナナを炭酸水に加えてかき混ぜる。


はちみつレモンフルーツポンチの出来上がりだ。


グラスによそってみんなに配る。


「しゅわしゅわする~」

「甘酸っぱくておいひぃ」

「色んな味がするな!」

「パチパチってするのー」


好評なようでなにより。


「サクラちゃん、これも実演するの?」


ラルゴがハードルが上がるのを懸念してサクラに聞く。


「いえ、これはやりませんよ」


サクラの答えに ハルがスプーンを咥えたまま 空になったグラスを見つめて 不思議そうに聞く。


「え~、なんでなの~、絶対ウケるのに、こんな珍しい食べ物」


カワイイ仕草だな、無理やり敬語はやめたんだね、もっと食べるかい?

サクラはハルにおかわりをよそいながら答える。


「主役はピューラーですからね、フルーツポンチは()()すぎるんです」


特産品の『ジャガイモ』と新商品の『ピューラー』のお披露目なのに、フルーツポンチがでしゃばったら 趣旨がブレてしまう。


「へぇ~、サクラ意外とちゃんと考えてんだな」


ランもグラスをだし、おかわりを要求する。

失礼だな!私を何だと思ってるんだ、おかわりやんねーぞ?


「バナナ多めな」


ランがちょっと恥ずかしそうに注文をつける。

バナナ好きなんだ、ラン。意外。

クールな外見にバナナってギャップ萌え~

カワイイから許そう。


サクラはバナナを見繕って多目に入れてランに渡す。

ランがにんまり笑う。


「サンキュー、はぐっ……んぐっ」


「サクラ、オレもー!」

「私も食べたいー!」


子供達が我先にと 空になったグラスを差し出す。


「まだ沢山あるから、あわてないで」


子供達にもおかわりをよそって渡す。

ランもハルも ここにいる子供達と同化してしまっているなぁ。

ハルはこんなんで警備とか大丈夫なんだろうか。


フルーツポンチを完売させると、サクラはランとハルに 子供達を送っていかせた。

ラルゴの特訓に集中したいから追い出したのだ。


ラルゴはこの二日ホントに頑張った。

台本はおぼえた、ピューラーもある程度使えるようになった、あとは、喋りながら手を動かし、説明出来るかだ。


サクラの前でラルゴが実演する


「ご覧下さい、このピューラーは、ステン鉱物で作られているため、軽くて腐食に強い、丈夫で使いやすい仕様になっております!」


ラルゴがピューラーでジャガイモを剥く。

うん、スムーズだ。


「見ての通り、力を入れずとも、このように薄く簡単に皮が剥けます。この私でさえもこの通り」


ラルゴが剥き終わった皮をつまんで見せる。

無駄のない厚さ、程好い長さ。


「面倒な芽取りも、このとおり」


″ぴん、ぴん、ぴんっ!″


ラルゴは小器用だ。一度コツを掴めば なんてことはない。

手捌きは及第点。

でも……


「そして、このピューラー、皮を剥くだけではありません、ジャガイモを……」


″シャカシャカシャカ″


「薄くスライスすることが出来るのです!」


やりきったどや顔で ピューラーを顔の横に持ち ポーズを決める。

最後のサクラのダメ出しが出る。


「基本的にはこれでいいんですが、ラルゴさんの良さが出ていません」


「俺の良さ?」


「はい」


ラルゴの良さ――――


「ラルゴさんが実演販売に向いていると言ったのは、コロッケの事があったからです。ラルゴさんがコロッケを人にすすめ、いかに美味しいかを話ながら町まで行ってくれたから、コロッケが人気がでたんだと思います」


「台本は一度忘れてください、そして、ラルゴさんの言葉で ピューラーの良さを伝えてください」


「俺の言葉で……」


「私がフルーツポンチ作るのみてどう思いました?」


さっきのサクラの手つき、言葉がなかったのに、手が説明するように話している。

そう 思えた。


「空気を読んで、相手の反応をみて、興味をひく?」


「いいえ、空気を()()()んです」


「空気をつくる……」


「客を巻き込んでください、いつもラルゴさんがやっていることですよ。ラルゴさんには、私にはないパワーがあります」


「オレの、パワー……」


「私が教えられるのはここまでです。二日間、お疲れ様でした」


サクラはふう、と、息を吐く


「サクラちゃん、ありがとう、あのさ、」


「はい」


「あのさ、験担ぎじゃないけどさ……」


ラルゴがもじもじと顔を赤くする。

何か言いにくいことか?


「ほっぺにチューしてくれる?」


「は?」


「そしたら オレ、やれる気がする!」


「私、が?」


「うん、ダメかな」


ほっぺにチュー……

それくらいならいい気もするけど……


(私のチューでそんなに頑張れる?)


「わかりました」


サクラが承諾する。

ラルゴの顔が ぱあっと明るくなる。


「さくらちゃんんっ!!」


抱きつく勢いのラルゴに サクラがストップをかける。


「100個全部売ったら、その時に」


「へ?」


「一個でも売れ残ったら、この話しはナシです」


「今じゃなくて?」


「完売したら」


「成功報酬ってこと?」


「それが報酬になるのなら」


ほっぺにチューで完売するのなら、やぶさかではない。


「約束、だよ!!」


ラルゴの闘志に火がついた。










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― 新着の感想 ―
[良い点] ハル君がとにかく尊いです。 使えない敬語をがんばる→あまえっこ全開ムーブ 落差も尊いです。 ラルゴさんもある意味わんこ系ですね。 やる気出すぎだよ!! かわいいなもう!! ほっぺにチュー…
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