130. アスの事情聴取 ★
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イシル、ギルロス、アスは連れ立って警備隊駐屯所へと入ってきた。
駐屯所は 急拵えにしては大きなものだった。
木造だが ドワーフの技術が折り込まれており、強化の魔法も加わって しっかりと造られていた。
機能性重視の シンプルな建物。
入ってすぐは 大部屋になっていて、組合会館と同じように大テーブルが設えてあり、12人掛けとなっている。
奥には続いでキッチンがついていた。
大部屋正面から奥に続く廊下があり、階段が見えている。
扉がないのは 緊急時にすぐ出られるようにだろう。
一階には他に風呂、トイレ、組合会館と違うのは 武器庫があることくらいだ。
二階には 部屋が六つ。
全て二人部屋で、リベラとヒナは同室となっている。
「適当に座ってくれ」
イシルが端に座るとアスはイシルから離れず、隣にくっついて座った。
「恋人か?」
「バカな事言わないでください 離れろ、アス」
「んー、もうちょっと」
アスはイシルのイスの背もたれに手をかけ イシルの耳の辺りに顔を寄せて息を吸い、恍惚と思考を漂わせている。食事中のようだ。
ギルロスは苦笑いしながら キッチンへと入っていった。
ギルロスがキッチンに消えると アスがおもむろにイシルに問う。
「で?子ブタちゃんと何かあったの?」
「何言ってんだよ」
イシルはアスの顔に手のひらを被せると、アスをぐいっと押し戻す。
アスは 椅子に横向きに座ったまま、長い脚を組むと、テーブルに肩肘をつき、イシルの顔をじっと眺めた。
「すり抜けていくのよね~」
ジロリとイシルが目だけを動かし アスを見る。
「噛んでも口の中で スルンって、ゼリーみたいに」
悪魔は人の感情を食べる。感情がわかる。
「手に入れたと思ったのにねー」
アスに隠しても無意味だ。
「もう、僕だけが頼りだった頃とは違うみたいだ」
「子ブタちゃん?」
その言い方はどうかと思うが、サクラのことだ。
「僕の手を離したがってる」
「ふ~ん、で、離すの?」
「…………」
イシルの答えがでないまま、ギルロスが キッチンから戻ってきて、この話しは終了した。
「こんなもんですまんが」
ギルロスはイシルとアスの前に コーヒーのマグカップを置くと、イシルと角を挟んで斜向に座った。
「で、そちらさんは何者なんだ」
「今回、貴族の面倒を見てもらおうと僕が頼んだんです。驚かせてすみませんでした」
イシルがギルロスに詫びを入れる。
ギルロスがアスに喰われたのも含めて。
「確か、ローズの街に人を紹介してもらいに行ったんだよな?」
「ええ。彼は顔が広いので力を貸してもらおうかと」
「アスよ、宜しくね」
アスがギルロスに握手を求め 手を差し出すが、ギルロスはそれを拒否する。
「イシルは悪くないのよ?アタシが勝手に引っ越してきちゃったんだから」
「確認しておく……悪魔か?」
「正解~」
ギルロスは 人間らしいアスに驚く。
悪魔は感情をもっていないはずでは?
「討伐、する?」
そうギルロスを挑発するアスの顔は淫靡で 閨に誘っているようにしかみえない。薄く唇をあけ、艶めかしく濡れた舌をのぞかせると、チロッ、と動かした。
魔法を使われたわけでもないのに、頭の奥に ジーンと痺れるような感覚がわく。
ギルロスの中にある動物的欲情を刺激し、理性を誘惑している。
ギルロスは それを絶ち切り、受け流す。
「オレには力量が足りん」
「あら、潔いわね、素敵。好きよ、そういうの。それにその声……美しいわ」
「そりゃどうも」
アスは新しいオモチャを見つけた子供のようにはしゃぐ。
「タシと戦れば強くなれるわよ」
「イシルに相手してもらうさ」
「あぁ~ん、つれないのね。ゾクゾクしちゃう///」
「……イシル、大丈夫なのかコイツ」
「いい加減にしろ アス、ローズの街はどうしたんだ」
「あっちにも家はあるわよ。魔方陣で繋がってるからね、こっちは別荘ってとこかな。貴族が泊まる場所が必用でしょ?ローズに連れてくにしても、魔方陣は必用だし」
「何故来たのかはわかった。協力する気でいてくれるのも助かる。だが、悪魔は人を惑わすだろ、そんなやつを村に野放しにはできんな」
「ギルロス、アスを信用しろとは言わない、僕を信用してくれませんか」
「イシルが責任をもつ、と?」
「ええ。アスはドワーフの村には入れません」
「えーっ!」
「黙ってろ、アス。この村にお前は刺激が強すぎる」
見た目が扇情的なうえに 仕草がエロすぎて 媚薬を撒き散らしながら歩いているようなものだ。
「悪魔は魔方陣を張り巡らせて人を管理します。この村に魔方陣を描く事は僕がさせませんし、食事もこの村ではさせません。当初の予定どおり、貴族が来たらアスの館に案内する者を一人手配してもらいます。いかがですか?」
イシルがギルロスに 提案する。
ギルロスは少し考えてから
「約束できるか?」
悪魔は嘘をつけない。
嘘をつくと 死ぬまで業火に焼かれるという。
約束するなら 悪さもできないだろう。
「約束するわ。アタシはこの村には入らない。この村に魔方陣は描かない。悪魔はこの村で食事しない。ついでに、この辺りに来る旅人にも手は出さないわ」
「良いだろう、だが、決めるのはオレじゃない。あとは村長の同意を獲てくれ」
イシルは ほっと胸を撫で下ろす。
「世話をかけます」
イシルとアスは席を立つ。
去り際に アスがギルロスに握手を求めて手を差し出す。
「村には入れないけど、これから宜しくね」
ギルロスは 戸惑ったが、今度はアスの握手に応じた。
「こっちこそ宜しく頼む」
″グイッ″
「!!」
アスはギルロスの握った手を強く引き、ギルロスを自分に引き寄せると、ギルロスの耳元でささやく。
「いつでも遊びに来てね 待ってるから」
「っ///」
「いい加減にしないと、家を吹き飛ばすぞ、アス」
「やだ、恋愛は自由でしょ?約束通り食事はしてないわよ」
「屁理屈を言うな、行くぞ」
「は~い、じゃあ、またね、オオカミさん」
タレ目にツリ眉の美しい悪魔は、バチンと音がしそうな程華麗なウインクをして、イシルと共に 駐屯所を出ていった。
ギルロスは 二人を見送りながら呟く。
「……疲れた」
◇◆◇◆◇
「もうひとつ頼みたいことがある」
イシルは歩きながらアスに頼み事をする。
「何?」
「『ミケランジェリ』という人物を探してほしい」
「名前だけ?」
「今のところは」
「んー、いいけど、名前だけじゃ探せるかどうかわかんないよ?」
「また何かわかれば知らせる」
イシルとアスが駐屯所から出てくると、サクラたちも営業終了したようで、村の入り口から しきりに突如あらわれた館をながめていた。
「お城みたいですね、薔薇がすごい」
「素敵ですぅ」
「総額いくらかかってるのかしら」
リズとスノーはうっとりしてる。
最後のはアイリーン。天使バージョン中なのに発言はブラックよりですよ?
「大丈夫でしたか?」
イシルとアスが駐屯所から出てきたのに気づいたサクラが イシルに声をかけてきた。
「なんとかなりました。貴族が来たらアスが館から人を寄越してくれるので 心配いりませんよ」
「良かったです」
サクラはほっと胸を撫で下ろす。
「あら、かわいいわね!」
アスがアイリーン、リズ、スノーに目をとめ、甘いお菓子を発見したように顔をほころばせた。
「この村はなんて美味しそうな子ばかりなの!子鹿ちゃんに、ウサギちゃんに……キツネちゃんね!いつでも遊びにいらっしゃい」
サクラが 慌ててずざっ、と、アスの視線から庇うように三人の前に出た。
アスがふふん、と 笑う。
「大丈夫よ子ブタちゃん。この村で食べたりしないから。残念だけど。それより、化粧品のことなんだけど……」
「目処が立ったんですか?」
「うん、だから、これから家に来ちゃったりする?」
家、、目の前の館の事だ。
「はい、行きます」
「ちょっとまて、アス」
イシルが慌ててそれを止める。
「サクラさん、その話しは一度僕と相談しましょう」
ランが熱をだしたり、サクラが動けなかったりでバタバタしてイシルはサクラの副業の事を失念していたようだ。
サクラは説得されると思ったので あえて話題にのせなかった。
このまま押しきろう。
「大丈夫です、バーガーウルフはこの時間までですし、目の前に館は見えてるので、掛け持ちで仕事するのにもってこいですよ」
「そういうことを言ってるんじゃ……」
押せ、負けるな。
「帰りはきっとアスが送ってくれると思うし」
「いいわよ、魔方陣はローズを経由してイシルの家に繋がってるから」
「黙れアス」
イシルの言葉に圧がかかり、凄みが増す。
その場の緊張感も増す。
「どうしても行くんですか?」
「はい」
引くもんか。
「わかりました、行きましょう」
「イシルさんは帰ってください」
間髪入れないサクラの言葉に ギクリ、とイシルが停止し、場が凍りついた。
アイリーン、リズ、スノーは、帰りそびれたまま サクラの発した言葉にハラハラしている。
「イシルさんも自分の時間が必用ですよね、私、一人で大丈夫ですから、帰ってください」
(とちくるったの!?サクラ?)
(サクラさん、なんでそんな事)
(ひええええぇ)
アイリーン、リズ、スノーは 気が気じゃない。
修羅場だ……修羅場のど真ん中にいる!!
「僕は……必用ない、と?」
ゴクリ、アイリーン、リズ、スノーは息をのむ。
「はい、大丈夫です」
(((笑顔で断った!!!)))
「わかりました」
(((えっ!イシルさんが引いた)))
「僕も自分のために時間を使います」
イシルはそう言うと アイリーンに近づき ふわっ、と、アイリーンの髪に触れた。
「僕とデートして、アイリーン」
「は?」
何を言われたかわからず目をぱちくりさせるアイリーンの手をとると イシルは自分の口許にもっていき、その甲にくちびるを落とす。
(((!!?)))
「なっ///」
不意な事に アイリーンが赤面する。
イシルは甘さを声に含ませて アイリーンに告白する。
「今日、これから、僕と過ごして欲しい」
愛をささやくように。
「君の事をもっと知りたいから……」
アイリーンは口をパクパクさせているが、声にならないらしい。
全員がサクラをみる。
サクラは笑顔だった。
苦しくて 泣きそうな 心を隠した笑顔だった。
「いってらっしゃい」
イシルにそう言って アスを急かして 薔薇の館へと行ってしまった。
サクラとアスが行ってしまい、ぽつんとたたずむ四人。
「……アタシをつかったわね」
アイリーンが忌々しげにイシルに呟く。
「君ならわかってると思って……」
ふんっ、と、アイリーンが踵を返し、帰ろうとする。
――その腕を イシルが掴んだ。
「どこ行くんですか?行きますよ、デート」
「え?」




