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120. ローズの街 10 (我が家へ)




アスの館に戻ると 笑顔でアスが待っていた。

わざわざ、玄関までお出迎えで。


″ニコニコ″


″ムッスー″


アスの前には見るからに機嫌良さげなイシルと、対照的に仏頂面のサクラが入ってきた。


「あら、子ブタちゃん、良い顔してるわね~面白そうな匂い」


そう言って にんまり笑う。

なんだよ、面白そうな匂いって。


アスはイシルの肩に手をまわすと、連れだって歩きだした。

イシルに顔を寄せ、すうっ、と息を吸い込み うっとりする。


「いや~ん、イシルったら、益々美味しくなっちゃってぇ、あぁん///ご馳走様♪」


再び すうっ、と息を吸い込み、イシルを味わう。


「アス、僕たちはそろそろ帰るよ。サクラさん、荷物の整理はいいですか?」


「……ダイジョブデス」


「じゃあ このまま魔方陣の部屋に行きましょうか」


「……ハイ」


サクラは楽しげに会話するイシルとアスの後ろからついていく。


いつもなら ″イシルに纏わりついてスーハーしてうっとりしているアス″なんて見たら 『変態親父か!ご馳走さまです』と 心の中で突っ込むサクラだが、今は違うものが心を占めていた。


(イカン……このままではイカン)


サクラは今日の自分の行動を思い返し 反省していた。


距離を置くはずが、何故(なにゆえ)新密度が上がったのだ?

恋人繋ぎ、手繋ぎポケット、腕枕、頬なで、腕組み……

そして、自らの心を押さえることができず、何をした?

いくら約束だからといって、自分からキ、、キ、、

うわあぁぁ///

最後はイシルのタメ(くち)の駄目押しでイシルの胸(マウンド)に沈められK.O.負け(ノックアウト)

イシルの紡ぐ甘い言葉に耳をくすぐられながら 夜景を眺め 桃源郷へと(いざな)われた。

己の恋愛経験値じゃ勝てる相手じゃない!


だめだ、このままだと 確実に自分の感情に流される。

明日から、明日からと先伸ばしにしていたダイエットのようにな!

もはや、物理的に離れるしかない。

忙しくなれば 一緒にいる時間を減らせる。

ならば、いつやる?


今でしょ!!


「……アス」


サクラはアスに呼び掛ける。

前を歩く イシルとアスが振り向く。


「私、化粧品の販売 手伝う」


振り向いたイシルは戸惑いの表情を浮かべ、アスはニヤリと嗤った。


「じゃあ、サロンでお茶でもしながらお話しする?あ、夕食もまだだよね♪」


「いや、今日のところは帰るよ」


うっきうきでサクラに寄ろうとするアスをイシルが言葉で遮る。

これは、帰ったら説得されるな。何か考えておかなくては。


「そう?残念ね。じゃあ、準備が出来たら連絡するわ。どうせドワーフ村に誰か行かせるんだし、魔方陣で繋がってるから、いつでもいらっしゃい」


「行きましょう、サクラさん」


「はい」


魔方陣の部屋の前には 扉を開けるためにマルクスが立っていた。

サクラは マルクスに近づく。


「マルクスさん、お世話になりました」


「お気をつけて」


そう言って マルクスは 口を歪めた。


「!!?」


これは、笑顔?


不格好に歪められた口からは、牙のようなものがみえている。

口角を上げるために持ち上げられた頬はひきつり、目は瞳孔が開いたままサクラを見下ろしている。


「マルクスさん……」


笑顔……


(怖っ!!!)


「あれ?子猫ちゃんはいいの?」


「あ、ラン、忘れてた」


「勝手に帰ってくるでしょう」


「んー、でも、呼んであげたほうがいいかもね」


イシルの言葉にアスが意味ありげに返す。


「外に出ちゃったからよくわからないけど、多分負傷してるわ」


「負傷!?」


アスの言葉を聞き、サクラは慌ててランを呼ぶ。


『ラン』


″ドサッ″


「ランっ!?」


呼びよせたとたん、サクラの前に現れたランは サクラに抱きついた。

――――立っていられずに。


「なんで……こんな」


ボロボロだった。

ランの着ている白いシャツはあちこち裂け目が出来ていて、血が(にじ)んでいる。

顔にも、手にも引っ掻いたような細かい傷が沢山できていた。


「ラン!何があったの?ラン!?」


覆い被さるようにサクラに抱きつくランが、ボソッと 一言だけ言った。


()()()に 会った」


そう言って、ズルズルッと崩れる。

サクラがランを支えきれず 一緒に崩れそうになるのを イシルが受け止め、腕に抱えた。


「ラン!ラン!」


「大丈夫ですサクラさん、ランディアの傷は大したことありません。魔力切れを起こしかけてるだけです」


「でも……」


「単なるかすり傷ですよ」


イシルが サクラを安心させるように、ランに回復魔法をかけると、ランの傷はスーッと、消えていった。


サクラは震える手で イシルに抱えられたランの頬に手を伸ばす。

意識はあるようで、ランは サクラの手のひらに自ら頬を押し付ける。


「ん?」


ランの顔が熱い


「ラン、熱がある」


「今部屋を用意させるから」


アスがマルクスに目配せで指示をする、が、イシルがそれを断る。


「家に帰るよ」


マルクスは 御意とばかりに、魔方陣の部屋の扉を開けた


――――おうちに帰ろう




◇◆◇◆◇




「風邪ですね」


イシルはランをランの部屋のベッドに座らせると そう診断した。


「風邪……ですか」


「こんな魔法加工もされていない薄いシャツで何時間も外にいれば風邪引いて当然です」


「……ですね」


「今薬をとってきますから」


そう言ってイシルは研究室に薬をとりに出ていった。

熱があがってきてるのか、ランの呼吸が荒い。

はぁはぁと苦しそうだ。


「大丈夫?ラン」


「サクラ……ベスト 苦しい」


「ああ!」


サクラは ランの隣に腰かけると ベストのボタンに手をかける。

BARでみた あの青いゴシックな模様の入ったベストだ。

切り刻まれて 赤黒く血のあとがついている。

体にフィットするピッチリデザイン、さぞ苦しかろう。

ぷつん、ぷつん、と ボタンを外し、ランの肩から滑らせ 腕を抜く。

ベストを脱がせると、少し楽になったのか、ランが ふう、と息を吐く。


「サクラ、シャツも……」


「ラジャ!」


ランの首もとのレースのタイを外す。

タイピンをとり、しゅるりとタイをぬき、首の第一ボタンを外す。

白いシャツが ボロボロに裂かれ、赤く滲む血……

傷が治っているとはいえ 痛々しい。


ランが コツン と サクラの首もとに倒れかかった。


「ラン!大丈夫!?」


「……ん」


ランのからだが熱い。

相変わらずはあ、はあ、と、小さく呼吸する。

ランの熱い息がサクラの首にかかる。


(う……)


サクラは第二ボタンを外し、ぎくりと手を止める。

すりっ、と、首もとにいるランがサクラに甘えたのだ。


「サクラ 冷たくてキモチイイ……」


(うぐっ……これは、看病だ!邪念は捨てよ!)


第三ボタンを外す。

ランも熱いが己の顔も熱い。


ランの均整のとれた体があらわになってくる。

ピンクに上気する 綺麗な胸板……


(///)


「……何やってるんですか」


「……あ」


ドアの前に 薬を手にしたイシルが帰って来た。






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