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119. ローズの街 9 (丘の上にて)

そろそろ旅の終わりですかね~




その後も サクラとイシルはお土産を買いながらメインストリートを散策した。


サンミには 狩りの時に使えるよう、革のグローブを 旦那さんの分とお揃いで購入。


ギルロスやモルガン、ラルゴにも買おうとしたら アスから貰った酒があるからそれにしよう と、イシルに提案された。


銀狼亭のローニさん達主婦層には ショコラティエで 薔薇の形をしたチョコの詰め合わせを。


赤いバラは ルビーチョコレート 香り豊かに仕上がったガナッシュ


白いバラは ヴァニラ風味のガナッシュをホワイトチョコレートでコーティングしたもの


黒いバラは コーヒー風味のガナッシュをビターチョコレートでコーティング


ああ、食べたい……


カフェでお茶をしたあと、イシルは馬車を手配した。


「帰るんですか?」


「あと、もう一ヶ所だけつきあってください」


馬車に乗り込む。

メインストリートを中程まで進むと 十字路に出た。

真っ直ぐ進むと入街門へ続いている。

右に折れると、初めて街へ入って来たほうへ、左に折れると 丘へと続く道となっている。


馬車は左へと向かう。

このあたりは細工師や硝子、家具職人の工房が集まっている。

近くに川が流れており、上流の森で切った材木や、採掘した石を小船を使って運び込みやすいからだ。


石橋を渡ると居住区になっていて、生活に必要な八百屋や肉屋、パン屋などがある。

メインストリートと違い、服屋も雑貨屋も馴染みのあるものが多くみられた。


やっぱり、こういう風景のほうが落ち着くわ~。

丁度夕飯の買い物時なのかな?

居住区は生活感あふれる賑わいをみせている。


馬車はそんな中、ゆるい坂道をのぼってゆく。

家がまばらになり、放牧風景が見られ始めたころ、馬車が停止した。


「この先は階段になります」


サクラは馬車をおりて階段を見上げる。


丘の上へと続く、幅が広くて長い緩やかな階段坂。

両側には細かい彫刻が施されていて、そこいらの美術館にまけないくらい見ごたえがありそうだ。


が、


「何段あるんだ……」


質問ではなく独り言。

それでもイシルが答えてくれた


「666段です」


悪魔め(オーメン)……」


東京タワーですら600段だというのにね。


「僕が抱えていきますから、大丈夫ですよ」


イシルが当然のように告げる。

これ以上密着してたまるか!!


「いえ、運動がてら、昇りますよ!」


サクラは階段に足をかけた。

段差は低く、普通の階段の半分ほどの高さでそんなに疲れなさそうだ。これならイケる。


階段の両サイドに 等間隔に置かれた柱。

サクラはそこに刻まれた彫刻を見ながら ゆっくり昇り、後ろからイシルがついて歩く。


柱の彫刻は 不思議なものばかりで、見ていて飽きなかった。


ワニに乗った老人、ロバの頭をした獅子、蛇の尾をもつ狼、ラクダに乗った王様、五本足を生やしたライオンの頭……


あれ?これ知ってる。

たしか、五本足を生やし、車輪のように転がる悪魔がいたはず。


「この彫刻は もしかして72の悪魔が刻まれてるんですか?」


「ええ、そうです」


「アスは……」


何番めだったっけな?


「見つけられませんよ」


むっ、なんだとー!


「見つけますよ!」


イシルはムキになったサクラが微笑ましくて、つい煽ってしまう。


「無理です。かけてもいい」


「いいですよ!何をかけますか?」


イシルの挑発をサクラが買う。

こうなると サクラは引かない。

いつもそれで失敗してると思うのだが。


「いいんですか?僕がそう言いきる根拠を聞かなくても」


「大丈夫です!」


柱の彫刻は ステンドグラスと違って 間近で見れる。

左右同じ彫刻だから、片方見れば良い。

72個確認してやる!


「じゃあ……」


イシルがちょっと言いにくそうにする。


「キスを……」


「へ?」


「僕が勝ったら サクラさんからキスをください」


「私から、その……()()んですか?」


イシルが笑顔で肯定する。

またそんな無体(むたい)なことを……


「やめますか?」


「うー……」


イシルが余裕綽々なのが癪にさわる。


「ここまでの柱にアスはいませんでしたよね?」


「はい」


もう10個以上は通りすぎてる。よし。


「かけます」


サクラは再び歩き出す。

そろそろ日が傾きはじめている。


ゆっくり階段をのぼっているので、そんなに息もきれていない。

ちょっとだけど、毎日運動してるしね!


はずだったのに……


「はぁ、はぁ……」


流石に200段を過ぎたあたりから、足が重くなり、息が切れだした。

小休止。


「やめてもかまいませんよ?」


イシルの言葉にサクラがブンブンと首を横にふり、『ノー』と示す。


「変なとこ負けず嫌いなんですね」


「よく言われます」


こだわるところが違う、と。

再開。


「はぁ、っはぁ、アス、いませんねぇ……」


「半分の333段までのぼると 広い場所に到着します。とりあえずそこまで行きましょうか」


「あい」


もうちょいで半分だ。

おかしいな、観光に来たんだけどな……


「ふあ……はあ、はあ、333段到着っ!」


サクラが階段の333段目に到着したころ

西の空は赤く染そまりはじめていた。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


イシルが渡してくれた水を遠慮なくのむ。


「んぐっ、んぐっ、んぐっ……ふはぁ~」


「サクラさんは水も美味しそうに飲みますね」


イシルが眩しそうにサクラを見る。


「いや、美味しかったですもん!生き返りましたよ。それにしても綺麗ですね~」


サクラは街のほうを眺めながら 感嘆の声をあげた。

夕日が山にかかり、眼下にひろがる街が(あけ)にそまっている。


「上に行けばもっと綺麗です」


もしかしてイシルは それを見せたいのかな。


「このあたりでやめますか?」


「いいえ、行きますよ」


こうなったら意地でも上りきってやる!


333段目は、広い踊り場になっていて、柱ではなく5柱の悪魔が刻まれた石板が置かれていた。

サクラは順番に確認する。


稲妻降り注ぐ嵐の中怒り狂う炎を宿した牡鹿、

天を拝むグリフォンの翼と蛇の尾を持つ狼、

天体に囲まれ、宇宙を操る瞳を持つ足の長いフクロウ、

炎から生まれでる不死鳥フェニックス、

最後は……鳩?


やはりアスはいなさそうだ。

サクラは先に進む。


次は、カラスだった。


その次もカラス……

カラスが宝石集めてる。

このあたり、手抜きした?


「アス、いませんねぇ……」


「それが答えでいいですか?」


「え?」


アスはいなかったよ、ね?


「いました?」


「はい、通りすぎました」


なんですって!?


「だから、この先は 昇るだけでいいですよ」


「え!確認しに……」


「おりますか?」


(それは、イヤだなぁ)


「……のぼります」


人生とは引き返せないもの。若気の至り『黒歴史』は葬れないもの。

サクラはひたすら上る。


「くっ、ふう……」


20段程のぼっては休みながら。


「ゼー、ゼー」


抱えますと言うイシルを断りながら。

600段についた頃には 日が沈んでしまっていた。


イシルが魔法で足元を照らしてくれる。


「あとちょっとです」


目の前に頂上が見える。

汗、だっくだくです。


あと十段……

イシルは後ろから来てくれてる


あと五段……

後ろに倒れないように見てくれてるんだ


三段……

甘えてばっかりだな


二段……

ああ、意地なんてはらなきゃよかった


一段……

死にそう


到・着!


「お疲れさまです」


「はぁ、はぁ、はぁ……」


昇りきると目に入ったのは広大な広場に幾何学模様のデザインの敷石と真ん中に逆五芒星。

建物の類いは なにもない。


汗だくのサクラにイシルがクリーニングの魔法を施し、そよ風を送ってくれる。

あー、トリミングされてる気分。


「大丈夫ですか?」


「はい、はぁ、疲れました……」


「本当に上るなんて」


ええ、修行僧かと思いましたよ、自分でも。


「観光も、大変ですね……貴族も、来るんですか?」


「はい。馬で」


「……え?」


「馬車は上れませんが、馬なら上れますから」


「え″――――――っ!!?」


情けない顔をして叫ぶサクラ。

その顔を見て イシルがクスッ と笑う。


「馬で上れるなら言ってよ――!!」


思わずタメ口で突っ込んだ。


「あははっ!」


イシルが破顔する。声をあげて笑う。

可笑しいというより、嬉しそうに。

サクラのタメ(くち)に、嬉しそうに。


「あはははっ、サクラさん、なんて顔――――」


サクラも嬉しくなった。

だって、イシルが ホントに楽しそうに笑っているのだから。

歯をみせて笑ってる!


(可愛い……)


今日のイシルはいつもより幼くみえて、愛しさが 込み上げる。


サクラはイシルに手をのばすと、腕を掴み、ぐいっ と 引いた。


「わっ!」


イシルが不意をつかれ ガクンと 傾く。

サクラはイシルの腕をつかんだまま背伸びをして――――


″チュ……″


イシルがブリーズした。

何が起きたかわからず停止したようだ。


「イシルさんが///勝ったので」


そう言って サクラはイシルの腕を離した。

イシルは そんなサクラを逃がさず その腕を捕らえると、引き寄せ 顔を覗き込む。


「頬、ですか?」


イシルが拗ねたように抗議の言葉を吐いた。

どこか嬉しそう。


「どこにとは言われませんでしたから」


迫るイシルに顔をそむけるサクラ。

イシルの両手がサクラの首もとをすべり、髪を掻き分けながら 後ろにまわされる。


「っ///」


「じっとして」


首の後ろでなにやら結んでいる?


″シャラッ″


「僕から 旅の思い出です」


涙形の青みがかった透明なグリーンの石が胸元で揺れている。

ペンダントだ。


「サクラさんは 自分のものを買おうとしないので」


「あ……」


″サクラさんは 何か欲しいものはないんですか?″


あのときの……


「ありがとうございます」


イシルの瞳と同じ 透きとおった翡翠(ひすい)色のティアドロップの中には小さな白い薔薇を一輪閉じ込めてあった。


あたりはすっかり暗闇に包まれている。


「それと……」


イシルはサクラの肩に手を置くと、くるりと 階段のほうを向かせた。

イシルがサクラに見せたかったもの……


「うわあ!」


サクラが感動の声をあげた。

感動の一言ではすまないか。驚き、興奮、羨望、魅了……


サクラが見たものは、まさに宝石箱をひっくり返したようなものだったからだ。


絶景


これが ローズの街。

美しいものが好きな アスが作った夜景。


住宅街から なだらかな斜面を流れるように あたたかな黄色い光が職人街になだれ込み、職人街の強く白い光は川にも反射し、キラキラと輝きを放っている。

その先はメインストリートに繋がり、繁華街の色とりどりの光の渦。噴水のライトアップ。

段々に階層を重ねていく上階層の豪邸の光はバースデーケーキのように華やかだ。上階層の入街門もライトアップされている。

その華やかな光を受け継ぐように空の星々へと光が続き 広がっていた。

丘から川にもぐり空へとひろがる波打つ夜景は、現世の100万$の夜景にも劣るまい。


「ところで、私がアスを見つけられないと言い切った根拠はなんですか?」


サクラが隣のイシルに問う。


「僕は一応断りはいれましたからね、怒らないで下さい」


「はい」


随分な念押しですね、イシルさん。


「アスは 昔とは 外見(いれもの)が違うんです」


「は?」


サクラは言われた意味がよくわからなくて聞き返す。


()()アスしか知らないサクラさんには見つけられません」


なっ!?


「絶対無理じゃん!!」


イシルがクスリと笑う。


「だから言ったじゃないですか」


「イ~シ~ルぅ~」


サクラが悔しそうにイシルをギリギリと睨む。


「あっははは!」


頬を膨らますサクラをイシルが捕まえてささやく。


「そんなに怒るなよ サクラ」


甘い 甘い声で……











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― 新着の感想 ―
[良い点] 夜景の描写がとても素敵です。 きらきらとして、澄んだ冬の空気まで感じられるようでした! そういえばサクラさんはいつもみんなのお土産を優先して買っていますよね。優しい*^^*
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