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118. ローズの街 8 (メイン通り)




ランチを食べて公園でゆっくりくつろいだ後、サクラとイシルは馬車の走るメインストリートを店をのぞきながら のんびり歩く。


相変わらず手つなぎポケットで。


石畳の馬車道と遊歩道の境目には街路樹が植えられ、遊歩道のほうが一段高くなっていて馬車を気にせず店を見て回れた。


遊歩道には モザイクの様な飾りが施されている。

白く四角い石を基調にして、黒やグレー、赤茶色などの石で模様を描いた 可愛らしい石畳だ。


「魔方陣ですよ、これ」


「え?」


「この魔方陣で アスは街全体を管理してるんです」


「なるほど」


遊歩道は広く、店の前には台にのせた商品が並ぶ。

カフェの前にもパラソルがならび、テラス席では 貴族も庶民も入り交じり お茶を楽しんでいた。


路上で楽器を奏でる者もいる。

演者の前には帽子が逆さまに置いてあり、貴族達が演奏に対する称賛を金として入れている。


″タタタタ……″


一人の男が こちらにかけよってきた。

見たところ 貴族の付添人のようだ。


男は (うやうや)しく礼をすると、一枚のカードをイシルに差し出した。


「連れが居ますから」


イシルは受け取りもせず 断りを入れる。


実はコレ、何回もやってる。

公園前広場から歩いてここまでの間、今ので7回目なのだ。

イシルに何かと訪ねたら、社交界で流行っている遊びだから気にするなと言われた。

さすがにこうも頻繁に来られると 何が書いてあるのか気になる。


「何て書いてあったんですか?」


「大したことではありませんよ。まったく、アスは変なものを流行らせて……」


イシルがぶつぶつと文句を言う。

あれはアスが流行らせた遊びなんだな。


で?


「気になります。何がかいてあったんですか?」


言いにくそうにイシルが答える。


「……家まで送れと」


「ナンパか!」


思わず突っ込んでしまったよ。


「エスコートカードと言います」


『エスコートカード』は、名刺を一回り小さくした大きさで、丁度女性の手のひらでも隠れるように作られていた。

社交界のお堅い仕来たりの目をかいくぐり、ドキドキを味わう遊びで、男性から女性へ送るのがほとんどだ。


「ご自宅までおおくりしてもよろしいでしょうか」

「貴女をお守りする権利をいただきたい」

「楽しい時を求めています」

「家まで送ってくださって構いませんわ」

「今晩送っていただきたいわ」


などが売られている。

魔法がかかっていて、受け取った相手は そのカードに触れると 誰からのものかわかるようになっている。

申し込みを断る場合は、カードを送り主に返す。



パーティーやお茶会などで 直接口に出して言えない言葉を カードにして センスの内側や手袋の中に こっそり隠し持っているのだ。


アスは貴族相手に商売してるって言ってたもんね。

貴族の恋心をくすぐり、美味しくな~れ ってことですか。


「失礼ですよ。同伴者がいるのに」


「いや、同伴者に見えなかったんですよ、きっと」


恋人に見えなかったのか、サクラがチョロそうに見えたのか、随分積極的なお嬢さんですね。

いや、お嬢さんとは限らないのか。


「同伴者に見えるよう 肩でも抱いて歩きますか」


「いや、それはちょっと」


(よし、こんどは断れたぞ!この調子!)


じゃあ、と、イシルが腕を差し出す。


「腕を組んでください」


「あ!エスコート、ですね」


サクラはちょこん と イシルの肘に手をかける。

これなら形から 同伴者だとわかりやすい。


「いえ、こうです」


イシルはサクラの手を イシルの上腕へと引きあげ腕を(いだ)くようにもってきい、反対の手を添えさせた。


「ぐっ///」


これは、腕に抱きつけ、と!?


「行きましょうか」


「……はい」


かわしきれなかった……これが恋愛経験値の差か!?

見た目よりも ガッチリしてますね、腕。


(くっ、考えるな、考えるな!)


「サクラさん、何か欲しいものはないんですか?」


気を良くしたのか、イシルの声が少し弾んでいる。

周りから見たらあまりわからない程度だけど。


「サンミさん達にお土産買いたいです」


イシルは一瞬 え?という顔をすると、ふっ と表情を和らげる。


「わかりました。何がいいですかね」


良い香りのするポプリのお店には、他にも石鹸や香水、アロマキャンドルなど、色々な香りものが売られていた。


隣は扇子のお店。

羽根つきのもの、象牙で作られたもの、オペラの物語が絵画となって施されたもの。シルク、紙、レース、上質の子ヤギの皮、宝石を散りばめた豪華な扇子も。


ハンカチ屋さん、ガラス細工のお店、陶器、靴、ドレス、家具屋……


「あ!これ可愛いですね」


装飾品の店でサクラが見つけたのは薔薇のブローチだ。

楕円のクリアな樹脂の中に赤い薔薇が閉じ込められており、黒いビロードのリボンの真ん中で止められている。

ブローチ本体の周りは 極小のパールで縁取られていた。

リズが作ってくれたバーガーウルフの制服に似合いそうだ。


「いいですね」


バーガーウルフのメンバーには 薔薇のブローチを購入した。


「ん?」


装飾品の店をでると、その先のBARに ちょっとした人だかりが出来ていた。


「何でしょうね」


きゃいきゃいと、楽しそうな黄色い声がする。


「女性ばかりですね。オペラの演者でもいるんですかね」


(異世界の芸能人か~お顔拝見)


前を通りかかるとき、サクラはひょいっと覗いてみた。

大きめの襟にレースのタイを巻き、ブルーのタイピンで止めた上品なシャツを着た男がいた。


タイピンと同じ色のベストには濃い青でゴシックな紋様が描かれ 彼の体にフィットし、その美しい体のラインを見せつけている。


両側に女性を(はべ)らせ、甘い表情で何事かを語ってた。

慣れた手つきで女性の髪をさわる。

あくまでも紳士的に、淑女に対し ギリギリのスキンシップ。

周りに群がる女性達は うっとりとその男に魅入っている。

見た瞬間、サクラは思った。


(おまえかよ!?)


ランだった。


「見なかったことにしましょう」


「……そうですね」


イシルもサクラの言葉に同意すると、店の前をこっそり通過した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] すわ、新キャラか?! とおもったらラン……おまえかー! と笑いながら突っ込んでしまいました。ぶれませんね^^
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