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117. ローズの街 7 (屋台巡り)




イシルとふたりでローズの街の観光に来ていたサクラは ちょっと早目のランチをとるため 屋台をみてまわる。

屋台が立ち並ぶ公園前は あたたかな湯気と 美味しそうな匂いに満ちていた。


「肉の焼ける匂い……」


真っ先にサクラが引き寄せられたのはハンバーガーの屋台。

ここでも敵情視察。


鉄板の上ではハンバーグがいい感じに焼けている。

肉厚のパテはみるからに荒いミンチ。

サイコロステーキを固めたみたいにゴロゴロしてる。

噛んだらさぞかし歯応えがあって旨いだろうなぁ……


あれ?なんだ、隣のプルプルは。

ハンバーグの隣でプリンとしたツヤのある薄く平たい肉が ジュウジュウと焼けている。

まさか、あれは……


フォアグラ!?

フォアグラバーガーとは!

おフランスですね、むむむ……


サクラの隣でイシルがクスリと笑う。


「サクラさんでも食べられないものがあるんですね」


「えっ?」


「顔に書いてありますよ」


「あー……」


顔にでてましたか……

そう。内臓系が苦手。

フォアグラが食べられないのだ。

ここは眺めるだけにしよう。


パンはバターと卵たっぷりブリオッシュ風。

肉汁たっぷりのゴロゴロ牛肉パテの上にフォアグラを乗せ、グリルした輪切りのオニオン・トマトをはさんでいる。

フォアグラってことは、フォンドボーとワインで仕上げたマデラソースだろう。


うん、ドワーフの村のバーガーとは土俵が違う。

ただ、お肉ゴロゴロはアリだなぁ……メモメモ。


「一つ、どうぞ」


イシルがサクラに紙袋を差し出す。


「何ですか?」


サクラは ガサガサと紙袋に手をつっこむ。

ころん としたものに手があたり、一つつまむ。


「焼き栗!」


いつの間に買ってきたんだ?

手にした焼き栗は、食べやすいよう切れ目が入り、ぱっくり割れて、中の黄金色の身が顔をだしている。結構熱い。

割れ目に指をかけると 殻が簡単に剥がれた。


「ぱくん、もくっ」


久しぶりの芋系のほくほく食感。


「ん~///」


このほくほくさ、たまりませんな!


甘くねっとりしている現世の甘栗とは違い、

甘すぎず、ほっくり、ホロホロした優しい味。


イシルが焼き栗の入った袋をサクラのコートのポケットに入れる。

ほわん、と、あたたかい。


「カイロみたい」


ホカホカ、身体が温まってくる。

いいなぁ、こういうの。

風情があるっていうかさ、昔ながらの知恵みたいなの。

おばあちゃんを思い出すよ。


ちらっとイシルをみる。

そういえば1200歳だった。

おばあちゃんの知恵袋の比じゃなかった。


冬だからか、あたたかい料理の屋台が多い。


大鍋にほわほわと湯気を煙らせているホットワイン。

鍋には赤ワインにオレンジやりんご、シナモンなどのスパイスがはいって、たあためられている。砂糖も入ってほんのり甘い。


玉ねぎの甘みとピリッとした胡椒がアクセントのオニオンスープ。

薄切りバゲットとチーズがたっぷり入って濃厚そう。

スープをたっぷり含んだバゲットをはふはふしたい!


かぼちゃのスープもある。

これにもたっぷりチーズを入れるのね!

どんな味だろう……

冬にはかぼちゃを食べて柚子湯に入る。

冬至、もう終わったっけ?


人が集まってるのはラクレットの屋台だ。

半円の大きなラクレットチーズの断面を溶かして、とろ~り……


「ごくっ」


ライブパフォーマンス的には最高!

バゲットにとろ~り。温野菜にとろ~り。

たっぷり上にかける。もう、何にかけたかわからないくらい。

強烈なチーズの匂いが食欲を呼び覚まし、とろけるチーズがそそる。

ハムをはさんでシンプルにバゲットサンドサンド!くう~っ


隣から甘い香りがする。

チーズに被せるように漂う甘い香りが。

見ると、丸い鉄板に生地をたらし、木のヘラでのばしている。


「クレープ!」


フルーツをならべ、クリームとチョコをかけ、くるっと三角にたたむ。


「うん、決めました!コレにします」


サクラとイシルは屋台でそれぞれ選んで 公園の芝の上でお昼にした。





◇◆◇◆◇





サクラが選んだのは クレープではなく、その隣にあった


『ガレット』


ガレットは、そば粉で作った甘くない料理。

クレープと見た目は似ているけど、クレープは小麦粉でしょ?

小麦粉よりはそば粉のほうが血糖値の上昇がゆるやかだから、糖質制限的にはグッジョブ!

低カロリーだし、腹持ちがいい。


「「いただきます」」


「はむっ……ん~」


ガレットのもちっと食感。

クレープより厚目に焼いてある生地は パリパリとモチモチが同居し、そばの香りが立って香ばしい。

中の具材はツナサラダ。

ツナにスライスオニオン、レタスが入っていてる。


一番人気『シンプルにハムチーズ卵(黄身)』

二番人気『ジャガイモチーズホワイトソース』

三番人気『スモークサーモンクリームチーズ』


これらをおさえてのツナサラダ。


なんでしょうね、習慣、ですかね。

無性にコンビニのサンドイッチみたいなのが食べたくなるってね。

玉子サンド、ツナサンドは現世の昼の定番でしたから。ふふふ……


イシルが食べているのは『ケバブ』

フレンチっぽくない。

そんなB級グルメ紛れ込んでたんだ!


くるくる回りながら焼かれているお肉をそぎ落として、野菜とともにガッツリと詰め込むケバブ。

パンは半円の薄いピタパン。


「一口、食べますか?」


イシルがサクラに聞く。


「いいんですか?」


イシルがサクラの目の前にケバブを差し出す。


「あむっ」


チキンケバブ


「ん~///」


スパイスの効いた薄切りチキンに 固めのピタパン。

フレッシュな生野菜がたっぷりでボリューム満点!

紫キャベツ(トレビス)の苦味がアクセントになっていて、

細切れトマトが爽やかさをプラスする。


そしてなにより、ヨーグルトと辛めのチリソースが絶妙!

ケバブはこのソースでなくちゃ!


「僕も一口いいですか?」


言われて、イシルの前にガレットを差し出す。


「はむ」


イシルがサクラの持つガレットを頬張る。

ああ、周りから見たら 食べさせっこしているバカップル……


でもここはドワーフ村じゃないし、

知っている人はいないし、

美味しかったし、

恥ずかしさ三割減だ!


旅先って、感覚マヒしますよね~


食べ終わるとイシルが芝に ゴロン、と寝転ぶ。

あら、意外。

両手を頭の上に、深呼吸し、空を眺める。


「サクラさんもどうですか?」


「いや、私は……」


食べてすぐに横になると牛になる。


イシルが意味深に サクラの側の左腕を芝の上に伸ばした。


「え?」


サクラをみつめたまま、右手で己の腕の付け根を ぽんぽんっ と叩く。


これは、もしや……


腕・枕!?


「おいで」


イヤイヤイヤイヤ、無理でしょ!?

いくら旅先で気が大きくなってるっていっても、

距離を置くのは明日からっていっても、

ハードルが高すぎる!!


「いや、あの、食べたら動けって(医者)に言われてるし、ちょっと腹ごなししてこよっかな~なんて……」


立ち上がろうとするサクラの手をイシルが掴み、目を細めてこう言った。


「この国に神はいないと言ったでしょう?」


いや、現世(サクラ)(医者)は もともとこの国にはいませんがね!


「今日くらいは、いいでしょう?」


イシルが誘惑する。だんだん悪魔にみえてきた。

うぐっ!本当は悪魔なんじゃないだろか……


“ぽふん”


イシルに引かれ、結局サクラも横になる。

こつん、と、イシルの肩に頭を乗せる。


(うぐぐ……明日からは、絶対……)


恥ずかしいですからね、真上しか見れませんよ?

お空とお見合いです。(イシル)なんか見れません!

手は腹の上でがっちり組んで微動だにしません。


冬の空は高く、冴え渡っている。

空の青さが 清々しい。


「はぁ~」


サクラも冬の冷たい空気を吸い込む。

気持ちいい。この上ない解放感!

リラックス、しちゃいました。


″ふわっ″


イシルが 腕枕している腕をまげ、手の甲をサクラに寄せる。


“フッ”


指の背で サクラの頬にふれる。


そっと


サクラ存在を 確かめるように


「///」


うぐっ……こんなの卑怯だ~!


″ツイッ″


指の背で 優しく なでる


「っ///」


明日から……


明日からは……


サクラは思う。


『明日からやる』


ダイエットを始める時も こんなこと言っていたなぁ、と……







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