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116. ローズの街 6 (噴水広場)

イシルさんとお出かけです




ローズの街の一般階層は 居住区と歓楽街にわかれている。

サクラとイシルは 馬車に乗り、歓楽街に到着した。

サクラはイシルに手をとられ馬車を降りる。


「うっわぁー」


目の前に コロッセオのような広い空間が開けていた。

場所は 中央噴水広場。


噴水広場を円で囲むように大きな建物がいくつも建っており、その向かいには噴水をはさんで芝公園が広がる。

気持ち良さそうに日光浴している人もみられた。

公園の前には 屋台も並んでいる。


噴水は美しいつくりをしていた。

中央に水龍が立ち昇り 水を上にふきあげ、そのまわりには滑らかな曲線を描き遊ぶ人魚の像が5体。

彼女達の持つ水瓶からも水が流れ出て、豊かな水をたたえていた。

水しぶきがキラキラと陽に反射して 虹をうつしだす。


「あの人魚の像の中に 水瓶を持たない娘がいます」


今にも動き出しそうな美しい人魚達。

その肌は透明感のある優しい乳白色で、水に濡れて柔らかく上品な光沢をはなっている。


その内の一人は 水瓶を持たず、両手を前に差し出し、水をすくっていた。


これは、もしや……


「あの手の中にコインを入れることが出来れば 願いが叶うそうです」


はい、キター!観光地の名所デスね!


近づくと なるほど、彼女の回りにコインが散らばっている。

1¥、5¥、あ~10¥が多いな。

50¥……意外にも100¥が多い。500¥もちらほら。

どんな願いよ!?500¥も出して。

しかも手の中に入ってないし。


イシルが ″ピンッ″と コインを弾く。


″チャリン″


「さすがですね」


イシルは一発で人魚の手のひらの中にコインを入れた。


「願い事をどうぞ」


「いいんですか?じゃあ……」


サクラは両手を合わせて拝む。


(イシルさんが 幸せでありますように)


コインを入れたのはイシルだし、自分の事を願うこともなかろう。


「それと、もう1つ」


イシルは隣に立つサクラの手に自分の手を重ねると、手のひらに指を滑らせ絡める。


「何を……」


取り出したのは500¥コイン。

左手できゅっと サクラの手を握りしめると、右手でコインを弾いた。


″ピンッ″


「あ!」


″チリンッ″


イシルの弾いたコインは、さっきとは反対にいる人魚に向けられた。

その人魚は 右手に水瓶を持ち、左手を上に掲げ、手のひらを上にして、空の様子を伺うようなポーズをしていた。

位置も高い上に 面積も狭い。難易度高し!


イシルは その左手の上に コインをのせたのだ。


「すごい……あそこに乗せても願いが叶うんですか?」


「はい。あそこにコインを入れると……」


「入れると……?」


「恋人と結ばれます」


「!?」


イシルは握ったサクラの手を そのまま自分のコートのポケットに入れた。


「はうっ///」


手繋ぎポケットの二段構え!


「一度、やってみたかったんです」


シズエ殿の入れ知恵実行か!?


「さぁ、何処へいきましょうかね」


うぐ……距離を置くんだ、

距離を……


「あの、イシルさん」


「なんですか?」


サクラを見たイシルの瞳が 意外にもわくわくしている。

トラベラーズハイですか?可愛いですね。

きゅんとしちゃいます。


「あ――……」


ん?と、イシルが首を傾げる。

うぐ……きゅんきゅんしちゃいます。


「あの目の前の大きな建物は何でしょうねぇ……」


言えない。

手を離そうなんて、言えない!


明日から、

明日から 距離を置こう。

うん。折角の観光だし、ね。


「あれは劇場ですね。歌劇(オペラ)が見られます」


手つなぎなんて大したことないさ!

迷子防止だ!うん。

サクラは気を持ち直し、旅行を楽しむことにする。


「劇場の隣は 美術館です。細工品や絵画、石像、宝石等が閲覧できます」


「人気あるみたいですね」


入り口付近で ドレスを着た婦人やら 身分の高そうな紳士やらが 優雅に待っている。


「購入もできますからね」


貴族の別荘地なだけあって、格式高そうだ。


(私には敷居が高すぎる……)


サクラはくるっと見渡す。


「あそこ、ステンドグラスが見えますね、教会ですか?」


「そのようなものです。行ってみますか?」


「はい」


赤レンガ作りの ゴシック調の教会。

十字架の(たぐ)いはない。

シンボルとか、無いのかな?


ステンドグラスには薔薇の模様。

教会の扉をあける――――


縦に長く伸びた床が真っ直ぐに祭壇へと続く。

低い信徒席がその両脇に並ぶ。

高い天井、支柱の並びがつくりだす透視的な空間、

内部は薄暗く、ステンドグラスによって作られた光が 荘厳で、神秘的な空気を醸し出している。


中に人はまばらだ。

パイプオルガンの音が耳に心地よく、

しばし 美しいステンドグラスを堪能する。


両サイドの尖塔形の縦長の窓枠には 薔薇模様のステンドグラスが多い。

薔薇と乙女……あれだ、ア◯フォンス・ミュシャの絵画のようだ。


祭壇の上部には 大きな円形のバラ窓。

五芒星を中心に 万華鏡のように広がり、見る者を魅了する。

人物が描かれているようだ。


教会と言う割には ステンドグラスに宗教色っぽいものが見られない。

あえて挙げるなら 五芒星くらい?


中央の祭壇には 天使像があった。

翼を持つ美しい男の像。


ちょいっ、と、サクラがイシルの袖を引く。


「この人が神ですか?」


サクラが背伸びをして、こしょこしょと 小声でイシルに問う。


「ルキフェル像です」


ルキフェル、聞いたことあるな

ルキフェル……ルシフェル……ルシファー……

ルシファー!?


「サタン像……悪魔」


「この街に神はいませんよ」


そうだ。悪魔の作った街だった。


しかし、イケメンだな、堕天使ルシファー。

いいカラダしてますね。今にも動き出しそうだよ。

女性信徒が多いのは君のせいだな。

12枚の翼が力強く、包容力を感じさせる。


あ、よく見ると 五亡星逆さまだわ。


「ここは教会ではなく 告解部屋です」


「罪を告白する場所ですか」


「苦しい胸の内を、です。罪かどうか決める者がここにはいませんから」


神のいない街。


「あの像に祈ると 苦しい思いを食べてくれると言われています。許されるのだと」


悪魔が食べてくれるのか。


「正義、正論、真実は場合によっては残酷なものです。人はそんなに強くはありません」


イシルは 正義の戦いで全てを失った。


「神は人に試練を与え、悪魔が邪魔をし、堕落に導く。堕落と呼ぶか、許しととるかは 人それぞれです」


イシルは、″神を否定しているわけではありませんよ″と、つけくわえた。


「正面のステンドグラスの上部に描かれているのがルキフェルです」


「他の人物も悪魔ですか?」


「ええ。実は、あの中にアスがいます」


「どこに!?」


「探してみてください」


「いっぱいいますね……」


ウォー◯ーより探せなさそう


「ルキフェル以外に72柱いますからね」


え?

72柱?


「それって……」


ソロモン72柱!?

ソロモンの封印した72体の悪魔。

てことは、アスは


アス……モデウス?

アス……タロト?


どっちにしても大悪魔!!

アスも別次元から召喚されたんだ。あり得る。


「悪魔に願えば嫌な記憶をも忘れさせてくれます。抱えて生きるか、放棄するかは自由ですけどね。悪魔は……アスは弱さとうまく付き合う方法を 僕に教えてくれたんですよ」


「いい友達ですね」


サクラとイシルは教会を出る。


「少し早いですが、お昼にしましょうか」


「屋台!」


「ええ。屋台で何か買って 公園で食べましょう」






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