1,売れないバンドマン、慣れない異世界で困惑する一週間。【一日目】
一体どうなっているんだここは。
東京のアパートでも、実家の自室でもない。と、いうか流石に僕の実家はこんなにボロくない。どこのド田舎なんだよ!
ベッドから起き上がった体勢のまま、僕はまだ事態を把握できずにいる。
交差点で車にはねられた瞬間以降の記憶はない…が、どう考えてもあの状態では命が助かるとは思えなかった。
それなのに、身体から痛みは感じない。
恐る恐る手と肩を動かしてみる。…軽い疲労感はあるが痛みは感じない。
そっと、ベッドから降りてみた。
足もちゃんと動く。やべ、爪が伸びているな。後で切らなくちゃ。
床に足をつけると、砂と土でザリザリする。
「なんでこんなに床汚えんだよ!鶏でも飼ってるのかよ!」
僕は毒づきながら、足元を見回してみる。ベッド下の隅に汚いヨレヨレのブーツを見つけた。
とりあえず、履いてみる。微妙にサイズがでかいのが気に入らない。あと、少し臭い。誰が履いてたんだこれ。
あーもう、スリッパすらないのかよここは!
そんな事をしていたら、喉が渇いていることに気がついた。どうやら腹も減っているようだ。僕は何か食べようと部屋を出て家の中を歩き回る。家の作りは山小屋に近い。家具も最低限しか無いようだ。
そして、あるき回った結果、重大な事に気づいた。
れ、冷蔵庫が無ぇ!
あの、見慣れた四角い箱を散々探し回ったのだが、
ど こ に も 無 い 。
なんて事だ!スト●ングゼロどころか、コーラも烏龍茶も牛乳もないという事か。何なんだこの家は。
とにかく何かないだろうか、と柱と殆ど同化している細い棚を漁ってみた。カップラーメンくらいあるだろう。
……食器しか入っていなかった。食器だけで何を食えと言うのだ。
棚の下に置いてあった木箱も探してみたが、見つかったのは萎びた人参とじゃがいもだけ。
こんな物でどうしようって言うんだ。
もう、水道水で我慢しようと、台所を探して、僕は更に衝撃を受けることになる。
水道が……無い……だと……。
蛇口らしきものが影も形も見当たらない。
じゃあ、水は何処にあるんだよ……。
その時、更に更に僕は重要なことに気がついた。
もしかして、目の前にあるそのレンガ造りのそれ、かまど……ですかね?薪とか炭とか焚べて使うアレ、ですよね。
……ガスレンジとかIHコンロとか、無いんですね……はは、これは電気も通ってないってヤツですねぇ。
ショックのあまり丁寧語になってしまいますよ。
あー、かまどの横に薪が積んでありますね。そして僕の食事も詰みました。
今日は、もう寝よう。外がまだ明るい気がするけれど、気の所為だ。もしかしたら悪い夢を見ているのかもしれない。
寝よう。
僕は部屋に戻り、ベッドに入ってシーツをかぶった。