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第9話 不審者?

 バルジには来たばかりだったため、道に迷うことを前提とした計画だったのだが、俺は一切迷うことなく《グラントーレ》に辿り着いてしまった。



 ちなみに、現在時刻は朝の6時である。



 ……言い訳をさせてもらうと、修行をしてた頃は朝の5時起床が当たり前の生活だったんだ。

 まだ修行が終わってからそこまで日も経っていないから、体に染み付いた生活習慣で今日も目がされてしまい、早く起きたのであれば、道に迷う可能性も考慮した結果、この始末となった訳である。

 

 バルジに来たことのない俺が迷わずに《グラントーレ》に着けたことには当然理由がある。

 バルジには【カルナラ王国】の国王であるルドルフ王の実寸代の銅像が置かれている広場が存在するのだ。

 その広場のルドルフ王の銅像の正面にある大通りをずっと真っ直ぐに進めば国最高峰の《グラントーレ》があるというのは有名な話だ。

 このように分かりやすい位置に《グラントーレ》がある理由は、地方から来るアリッサのような者が道に迷ったり、犯罪の被害にあうことのないように配慮されているからなのだと。

 

 そんな訳でバルジ初心者の俺でも、《グラントーレ》への行き方自体は知っていたのだ。

 それでも万が一の場合を想定して早めに出たのだが、今回はそれが完全に裏目に出てしまったな。


 この時間だと教師すら来ていないのではないか?


 あまりにも早く着き過ぎてしまった俺は《グラントーレ》の門の近くで暇を潰すことにした。


 勿論、暇を潰すと言っても俺は最低限の荷物しか持ってきていないし、何か遊ぶための物を買うほど金銭に余裕もない。

 そのため、同じところをぐるぐると回るという謎の遊びや、一人しりとりをして暇を潰していたのだが、

 ………ここでふと思う。



 

(…これ、下手したら不審者じゃね?)




 俺がその考えに至ったのとほぼ同時、何者かに俺の肩を叩かれた。

 



「そこのお前、少し話をしようか」



 

 俺の肩を叩き、そう告げたその何者かは、どこからどう見ても警備を生業にしている人間だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ーーという訳でして、決して怪しい者ではないんですよ」



 《グラントーレ》の警備員の男に捕まってしまった俺はその場で素直に自分がアリッサの幼なじみであること、困ったことがあるからアリッサに協力を頼みたいことなど、俺の事情という事情を明かした。



「なるほど、確かにありそうな話ではあるが…」

「でしょう?……それで、聞きたいのですが、今も《グラントーレ》にアリッサは通ってますかね…?」

「…お前の話が本当かどうか分からない以上、それを()()()わけには、行かない」



 流石は天下のグラントーレというべきか、生徒の個人情報は簡単に教えてはくれないらしい。

 だが、この程度で諦める俺ではない。

 アリッサは俺の中にある唯一の(という訳ではないが)希望なのだ。

 


「そこをなんとかお願いしますよ」

「駄目だ。そもそも私はアリッサという者など知らない。もう卒業してしまっているのではないか?」

「それはそうかもしれないですけど、ちゃんと確認してから行動したいんですよね」

「仮に居たとしたらどうするつもりなんだ?」

()()()()と会って話すだけでも良いんで!」

「それは無理な話だな。()()()は面会を好まないからな」

「…へぇ、それは残念だ」



 ……この警備員、もしかしなくても馬鹿だな?

 さっき()()()って言ったから少しつついてみただけだというのに、こうもあっさりとアリッサの職業(クラス)が『賢者』だという情報をゲロったぞ。


 アリッサが世界有数の『賢者』とは言え、そのことを知る者は少ない。

 アリッサが『賢者』ということが広まってしまえば、良からぬことを考える輩が必ず現れるからだ。

 そういった事情から、アリッサ=賢者ということを知っている人物は限られてくるのだ。

 この警備員はアリッサが『賢者』であることを知っている。そして、警備員が面会を好まないと言ったことから、面会をすること自体は可能だということ。つまり、現在もアリッサが《グラントーレ》に居ることが分かる。


 しかし…《グラントーレ》の警備員がこんな奴で大丈夫なのか…?

 だが、こんな奴が警備員だったおかげで大事なことが分かったという点ではラッキーだったな。

 この情報のお陰で、アリッサを仲間(パーティ)に出来る可能性がかなり高まったのだから。


 しかし、俺の身の上話でかなりの時間を使ったため、既に人通りも多くなってきている。

 その中には《グラントーレ》の生徒らしき人の姿もちらほらとあるのだが、グラントーレの生徒たちは警備員に捕まっている俺が珍しいのか好奇に満ちた目で見てくる。

 恥ずかしいったらありゃしねえ。


 …と、とにかくアリッサがこの学校にいることが分かった以上、アリッサと話をしたい。

 仲間(パーティ)のことを承諾してくれるとは限らないが、アリッサにこの話をしないと言う選択肢はない。

 そんなことから、俺はまだこの警備員から更にアリッサに関する情報を引き出しておきたい。


「アリッサが《グラントーレ》に通いに行ったのは6年前だから…もう、卒業してますかね…」

「…お前、しつこいな。……第一、賢者様のカリキュラムが他の生徒と同じわけがーー」



 この警備員の言葉は、俺に話しかけてきた人物によって遮られ、最後まで聞き取ることが出来なかった。

 だが、俺はそれでも良かった。

 何故ならば、



「…ラゼル、くん?」



 その警備員の言葉を遮るように俺に話しかけてきたのは、俺の幼なじみであり『賢者』の職業(クラス)を持つ、アリッサ本人の声だったから。

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