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第3話 修行、そして旅立ち

「ラゼル。個人情報開示(ステータスオープン)しなさい」



 ガルフ爺ちゃんに言われるままに、俺は魔法を発動させる。



「『個人情報開示(ステータスオープン)』」



ーーーーーーーーーーーーー


名前(ネーム):ラゼル

等級(レベル):1

職業(クラス):付与士

階級(ランク):無し

能力(スキル):強化魔法


ーーーーーーーーーーーーー



 これが俺の個人情報(ステータス)

 ガルフ爺ちゃんに修行をつけては貰ったけども、未だに魔物とは出会ってすらいないため俺の等級(レベル)は1のままだ。



「ラゼル。個人情報(ステータス)が隠蔽できないぞ」


「あ。忘れてた」


 ガルフ爺ちゃんに個人情報(ステータス)を見せてもらった時に気付いたことだが個人情報開示(ステータスオープン)で表示される項目は一部のみ隠蔽することが可能らしい。

 勿論、隠蔽の仕方などはガルフ爺ちゃんに教えてもらった。

 隠蔽出来る項目は職業(クラス)階級(ランク)能力(スキル)の3つだけだが、それでも隠蔽できるなら隠蔽した方がいいに決まっている。



「情報の有無は戦況を大きく変える。自分の手の内を明かすのは負けに繋がるぞ」

「分かってるって。うっかりじゃん」

「ラゼル。そのうっかりがそのまま死に繋がるのだ。お前はこの7年でそれが嫌というほど分かっただろう?」

「…まあね」


 そう。ガルフ爺ちゃんに『付与士』としての戦い方を教わり始めてから、既に7年の月日が流れた。

 俺はつい先日15歳になったばかりの成人なりたてホカホカである。

 ガルフ爺ちゃんの修行は辛く厳しいものであったが、この7年で学んだことはとても有意義だったと思う。

 

 ガルフ爺ちゃんの修行で得られたことは大まかに分けて3つである。


・膨大な体力

・詠唱破棄

・対人経験


 まず、この[膨大な体力]について解説したいと思う。

 具体的に説明すると、俺の体力はこのベーコの街で一番になった。

 …以前にも言った通り、このベーコは高齢の人が九割以上占めているため、これだけでは参考にならないだろう。

 しかし、ベーコに住んでいる高齢者は全員、元高ランク冒険者なのだ。

 歳を取ったとは言え、その体力は健在だったようで、俺がヒーヒー言いながらベーコの外周を走っている時に、暇だからという理由で満面の笑みを浮かべながら並走してきたコウさん(82歳)を俺は一生忘れられないだろう。

 そんな超人だらけの村の中での一番だ。

 勿論、あのガルフ爺ちゃんにも負けない体力を得ている。

 ……年寄りに体力でマウント取ってる自分を考えると、情けなくも感じるが。


 体力作りの副産物として得たものもある。


 俺の職業(クラス)が『付与士』だったが故に筋肉も体力も付きにくかった。だから常識を上回る筋トレをする必要があったのだ。

 その筋トレのお陰で今の俺には6つに割れた腹筋を手にしたのだ!

 この割れた腹筋を得ただけでも努力した甲斐があったというものだ。



 さて、次は[詠唱破棄]だな。

 これを得たのは本当に偶然だ。

 本来の修行の予定では[高速詠唱]を身につける予定だったのだ。

 そのための「早口言葉特訓」だったのだが……。

 ……いや分かるぞ。

 側から見たら何遊んでるんだって思うよな。俺も最初はそう思った。

 だが、この「早口言葉特訓」は遊びなんて生温いものではなかった。

 魔法を使う職業(クラス)なら呪文詠唱の精度や速度を上げるのは当然のことだし、足を止めながら詠唱して生き残れるほど高ランクの魔物は優しくないというガルフ爺ちゃんの教えにより、噛んだらガルフ爺ちゃんに本気で叩かれるし、全力で走りながら早口言葉を言ったりしなくてはならなかったため、かなり辛い修行だったのだ。

 同時に二つのことをするのが意外と難しく、こけたり噛んだりして、まず呪文が発動しないということもあった。

 そんな修行をするうちに、段々と詠唱無し魔法を唱えれたら万事解決じゃね?と思い実践してみると、なんと出来てしまったのだ。

 ガルフ爺ちゃんも詠唱を高速化することは考えていたようだが、詠唱を無くすという発想はなかったらしい。

 勿論、ガルフ爺ちゃんもこの技術をモノにしていた。



 最後に[対人経験]なのだが…。……正直これが一番キツかった。

 修行内容はとても簡単。

 ガルフ爺ちゃんと模擬戦するだけ。

 しかし、ガルフ爺ちゃんは容赦も手加減もしない。

 いざ模擬戦となると孫だとか祖父だとかの立場など一切関係なく全力で勝ちに来る。

 まずガルフ爺ちゃんに攻撃を当てれるようになるまでに4年も掛かった。

 これに関しては教えもクソもない。常に実戦形式の試行錯誤(トライアンドエラー)戦闘才能(バトルセンス)を鍛えるのが目的だったからだ。

 この修行に関しては一歩進んで二歩下がるといったこともしばしばあった。

 まあ、そのお陰で俺も『付与士』としての攻撃手段を確立できたのだが。

 俺が確立させた攻撃手段についてはまた今度説明しようと思う。


 そんなことよりも模擬戦においてのガルフ爺ちゃんは本当に大人気なかった。

 最初の模擬戦なんてガルフ爺ちゃんに「個人情報開示(ステータスオープン)してみろ」って言われてその通りにしただけでボコボコにされた。

 ガルフ爺ちゃんも元Aランク冒険者の『付与士』のため、等級(レベル)1でも使える強化魔法は熟知しているはずのため、俺の個人情報(ステータス)も大体予想出来ていただろうに、「これが情報の大事さだ」と言ってきた時は流石の俺もイマイチ納得できなかった。

 しかもガルフ爺ちゃんは「自分の等級(レベル)が上がったときの楽しみにしろ」とか言って自分の個人情報(ステータス)は7年前の見せてくれたあの一度しか見せてくれていない。確かに楽しみには出来るけど、少しくらい教えてくれても良かったんじゃない?俺の個人情報(ステータス)は見る癖に自分の個人情報(ステータス)は見せない、とか本当に大人気ないと思う。

 ガルフ爺ちゃんに勝つことは15歳になった今でも出来なかったが、俺はこの対人経験が今後の冒険者としての生活に役立つと確信している。



個人情報(ステータス)の隠蔽は基本だ。そんなことも出来ないのであれば冒険者としてやっていけないぞ」

「ガルフ爺ちゃんだから、だよ。つい油断しちゃうんだ」

「ラ、ラゼル。た、たとえ儂が相手でも油断など…し、してはならんぞ」



 このように俺に信頼されてると包み隠さず言われて照れ臭そうにする俺に甘いガルフ爺ちゃんも健在だ。



「ご、ごほん。ただでさえお前は冒険者育成学校に通っていないんだ。油断などしてはならん」

「通ってはいないけどガルフ爺ちゃんからその分、多くのことを学べたよ」



 通常、冒険者志望の人間は冒険者になるための教育機関で卒業してから冒険者になるので等級(レベル)が1ということは稀である。

 当然だ。等級(レベル)が低いと自分の職業(クラス)能力(スキル)すら使えない。

 戦闘の心得がないのも同然。

 それ故に、なす術なく死ぬからだ。



「そ、そうか。まあ今日からお前が目指すバルジには冒険者育成学校に通う生徒や卒業生やらが大勢おるはずだ。最悪の場合、お前の幼なじみである彼女にでも聞けばなんとかなるだろう」


「そういえば、もう6年も経つのか。俺のこと、覚えてくれてるといいんだけど」


 かつて、俺の他に居た同年代の友達である彼女はもう既にベーコには居らず、今から俺が向かうバルジの冒険者育成学校の生徒として学びに行ったっきりで、俺も詳しい事情は知らない。


 冒険者育成学校とは元Bランク冒険者以上の素行の良かった者が教師務めている冒険者を育てるための教育機関だ。

 冒険者として生きる上で『正しい知識を正しく使うこと』はとても重要な意味を持つ。 これを身につけることができるというだけでも優秀な施設だと言えるだろう。


 だが優秀な教育機関であるために、通う為に必要な学費も半端なく高い。ガルフ爺ちゃんに聞いた話によると1年通うだけで、一般家庭が5年間も遊んで暮らせるくらいの学費が掛かるという。


 俺が冒険者育成学校に通っていないのは、ガルフ爺ちゃんから全て学ぶことができるため、そもそも通う必要がないからだ。

 だが、俺の幼なじみである彼女は()()であったため、そのような金額を用意することができない。

 なら何故そんな学校に彼女が通えているのか?

 答えは単純だ。


 彼女の職業(クラス)が『賢者』だったからだ。


 『賢者』という職業(クラス)は【カルナラ】の長い歴史の中でも数えるほどしか発現していない。

 『賢者』の血はそれほどまでに薄れてしまっているのだ。

 何故ここまで薄れてしまったのか。

 それを説明する前に一つここで思い出してほしいことがある。


 大抵の者は自身の親の職業(クラス)に似た職業(クラス)を得るという性質だ。


 この性質は正しくもあり誤りもある。

 たとえ親の遺伝子を強く引き継いだとしても子供にその才能が()()なければ、または()()()()()があるならば、その()()()()()の方が優先されてその子供の職業(クラス)となるのだ。

 要するに、たとえ『賢者』の親を持ったとしても『賢者』の才能が無ければ『賢者』にはなれず、多少は『賢者』の才能があったとしても『剣士』の才能の方があるならば『賢者』ではなく『剣士』になってしまうのだ。

 『賢者』の血を引いた上で『賢者』の才能が最も長けていなければ芽吹かない職業(クラス)

 

 そのため、太古の時代から少しずつ『賢者』の職業(クラス)の者が減少していき、今に至ったのではないか。と言われている。

 しかし、それも明確な根拠のある発言ではないため、あくまでも憶測という域を出ない。


 話が逸れてしまったな。

 つまり、俺のように祖父の職業(クラス)から強い影響を受ける者も中にはいるが、『賢者』という歴史上の人物レベルの影響を強く受ける者など、それこそ世界に一人くらいしか現れないだろう。

 そもそも、歴史上に名を残すほどの者の血を引いているかなど、今となっては調べる術がない。引いていたとしてももはや引いていないに等しいといったほど血が薄くなっていると推測される。


 そんな中で彼女は『賢者』という職業(クラス)を得たのだ。

 そんな彼女を国が補助しないわけがなく、聞くところによると、彼女の職業が『賢者』と判明した時には既に国営の冒険者育成学校から声が掛かっていたらしく、学費も免除されることになっていたらしい。

 こんなすごい幼なじみを持っていて、両親にSランク冒険者を持つ俺って、何もしなくてもかなりすごい立場にいるなといつも思う。

 まあ、それでもSランク冒険者を目指すのは変わりないんですけど。



「あやつがラゼルを忘れている訳がないと思うがな…」

「…?ガルフ爺ちゃん、今なんか言った?」

「い、いや何も言っていない」


 ……ガルフ爺ちゃん今絶対に何か言ったと思ったんだけどな。

 まあガルフ爺ちゃんがそう言うなら気のせいか。

 さっきガルフ爺ちゃんに油断するなって言われて無意識に警戒していたのかもしれない。



「そんなことよりもちゃっちゃと行かないか!別れが惜しくなってしまうだろ!」



 おっとそうだった。

 俺ことラゼルは今日、このベーコの村を出る。

 その理由とは勿論、俺の夢であるSランク冒険者になるために必要なことだからだ。

 なんせ、ベーコには冒険者ギルドが無いからな。

 俺としてはガルフ爺ちゃんと行った方が安心だと言ったのだが、ガルフ爺ちゃんは


「いずれSランク冒険者になる男が冒険者登録に祖父同伴というのは流石に嫌だろ?」


 と、俺の印象すらも考慮した上でベーコに残ると言ってくれた。

 俺の育ったこの村を出ることやガルフ爺ちゃんと離れ離れになるのはかなり寂しいけど俺の夢であるSランク冒険者になるためには、まず冒険者ギルドに行かなくてはいけない。

 


 夢をこの手で掴むために。


 

 俺はガルフ爺ちゃんや、ベーコの皆に感謝を伝えてから、ベーコの村から旅立った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 訓練の文が詳しく書かれているのが良いですね。 [気になる点] この後の展開が気になりますね。(╹◡╹) [一言] 更新待っています。
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