第18話 冒険者組合
冒険者組合には多種多様な人がいる。
冒険者組合に属するのは、まだ誰にも解き明かされていない未知を求める者やただひたすらに己の力を試したい者、人の為に尽くしたいと考える者、職業の性質上で冒険者にならざるをえらかった者、ただ単純に楽に金が稼げるからといった理由で冒険者になる者など、あまり統一性が感じられないように思われるが、多様な人間達の振る舞いを制御する機関である冒険者組合は国民にとっても冒険者にとっても必要不可欠な存在なのだ。
そして、俺にとっては夢への第一歩を記念する施設となる予定なのだ。
瞬間的に気付けなかった俺を殴りたい。
もしかして、気付けなかったのは夢を見てるからじゃないか?
そう思ってたら自分の頬を抓ってみると、じわ〜っとした痛みがした。
夢じゃない……。
「おーい、ラゼルくーん!聞いてるー?」
俺が冒険者組合の存在を即座に理解出来なかったことに落ち込んでいたからか、不覚にも女神であるアリッサの掛け声に気付いていなかったようだ。
今日の俺、本当に最悪だな……。
「っと、悪い。少し自分に絶望しててな……」
「ぜ、絶望?」
「こっちの話だ。それでなんの話だ?」
「冒険者の登録方法の話だよ。どの条件で冒険者になる気なの?仲間だってラゼルくんと私の二人だし…」
ああ、なんだ。そんな話か。
「勿論、作戦はあるぞ」
「作戦?どんな?」
バルジに来てから俺が考えてた作戦。
それはーー
「俺の考えてる作戦は単純明快だ。『アリッサと二人でギルド職員に実力を示す』だな。いくらギルド職員だとしても相手は人間なんだから2対1なら勝てるだろ」
ーーーゴリ押しだ。
「なるほどね〜。確かに数的有利はあるから……って、えええええええ!!!???」
「!?ビックリしたぁ……」
記憶に残る彼女からは想像できないような大きな声で驚かれたものだから心臓が口から飛び出すかと思ったぜ。
「ごっごめんっ!で、でも流石にそれは難しくないかな!?」
難しい……?何がだ……?
……あ!
「悪い。この作戦だとアリッサも戦うことになっちゃうな」
俺にとっては実力を示すことは必要不可欠なことだが、アリッサはグラントーレ卒業生だからそんなことをせずとも冒険者になれる。
いくら同じ仲間になるからといって俺と合わせる必要なんてないもんな……。
くそっ!俺はなんでこんなにも簡単なことに気づけなかったんだ!
「いや、それは別に良いんだよ?むしろ頼られて嬉しいし」
アリッサは本当に女神だ。これはもう覆ることのない事実としか思えないね。
しかし、だとすると……
「じゃあ何が難しいんだ?」
「そんなキョトンとするとこかな!?だってギルド職員だよ!?等級をあげる方が無難だよ!」
「え?決してそんなことはないと思うけどな。まぁ取り敢えず中に入ろうぜ」
俺は「無理だ」というアリッサの手を無理やり引きながら、冒険者組合の扉を開けた。
扉を開けた先に広がっていた光景は、ガルフ爺ちゃんから聞いていた通りのものだった。
まず目に入るのは冒険者への依頼がいくつも貼られた大きな掲示板だ。
薬草の採取からドラゴンの討伐まで本当に幅広い依頼が貼られている。
この掲示板に貼られた依頼は冒険者であれば誰が受けてもいいことになっているのだが、蛮勇は身を滅ぼす上に、依頼に失敗した場合は違約金を払わなくてはならないため、大抵の冒険者は身の丈にあった依頼を受ける。
低ランクの冒険者は簡単だが安価な依頼を、高ランクの冒険者は危険だが高価な依頼を、といったように自分の実力に応じた依頼を受けれるようになっているのが特徴だ。
依頼掲示板のすぐ側には、依頼を受注するための接客窓口が並んでいる。
ここで冒険者の登録をすることができるらしい。接客窓口で接客をするのは多くは女性で、ギルドの接客窓口で働く女性のことをギルド嬢という。
接客窓口では、冒険者登録や依頼の受注の他にも、依頼者による冒険者指定の依頼や階級アップ試験の手続き、魔物やダンジョンに眠るお宝の買取など、様々なことに対応しなくてはならない為、それらを全て処理するギルド嬢へとなるのはAランク冒険者になることよりも難しいと言われているとかなんとか。
そして、奥にあるのは冒険者組合が有する食事処だ。
ちなみに名前がバルジなのはここがバルジ支店だからだ。食事処と言っても、冒険者組合というイメージの通り、ここでは多くの冒険者たちがその日の依頼達成を祝し、酒を酌み交わす場所なのでとても騒がしい。
何故そのような所が、最高とまで言われるか。
その理由は『味』以外に他ならない。
どの支店においても味がいいことには変わらず、しかも低コストで提供される為、低ランクの冒険者にも優しい値段設定で味が非常に良いということもあり、常に客が絶えないらしい。しかし冒険者として活動をしなければ利用できない為、他の飲食店とも住み分けができているのだ。
まだまだギルドには様々な設備があり、色々と見て回りたい気持ちもあるのだが今はそんなことよりも一刻も早く冒険者登録がしたい。
時間帯が良かったのか、並んでいる冒険者は一人もいない接客窓口があった。
俺達はその接客窓口に一直線に向かう。接客窓口の向かい側にいるギルド嬢は何やら書類の処理をしていた様子だったが、すぐに俺たちに気付いた後に
「いらっしゃいませ、用件の方は何でしょうか?」
という実にギルド嬢らしい台詞を言う。
用件?
そんなもの決まっている。
「俺たちの冒険者登録をお願いする」