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第16話 幕間:少年の記憶

 あの辛い事件が起きてからしばらくして、俺は母方の祖父であるガルフ爺ちゃんの家で暮らすことになった。


 父さんと母さんの仕事が忙しくなったことや、俺にランオの人たちが向けてきた蔑みの視線、イジメなど、さまざまな理由があっての引っ越しだったが、俺はランオから離れられるのであればそれでよかった。


 正直、あのままあの街で暮らしていくと考えるだけで体が震える。

 それほどまでのトラウマを俺は植え付けられてしまったのだ。





 引っ越してきた村の名前はベーコというらしい。

 まだ引っ越してきたばかりでろくに道も分からなかった俺はガルフ爺ちゃんに「村の地形でも覚えてきたらどうだ?」と言われ外に出たはいいものの、絶賛迷子中である。


 そこまで広い村ではないはずなのだが、見たような建物が並んでいて、進めば進むほど自分が今どこにいるのかが分からなくなってしまったのだ。


 しかも、例の件によって俺は知らない人間の視線が怖い。

 そのためガルフ爺ちゃんの家までの道を聞くことも出来ないというね。

 

 うん、完全に詰んでるな。これ。



 俺がどうすればいいのか、と頭を抱えていると、俺の視界の隅にある人物が入った。



「っ!?」



 俺はつい、()()()に身を近くの建物の影に隠してしまった。

 何故なら、その人物は俺が最も恐怖を覚えている『子供』だったからだ。



 おかしい。

 父さんや母さんの話ではベーコは老人ばかりの村だと聞いていた。

 そのため「友達が出来ないんじゃ?」という心配すらしていたのに、どうしてここに子供がいるんだ。


 

 呼吸が乱れる。

 普段通りの思考能力は失われ、心を恐怖が塗りつぶしていく。

 体は既に震えていた。

 今の心境を例えるならば、目の前に魔物が現れたのと同じくらいの恐怖なのではないだろうか。

 それほど、俺に染み付いたトラウマは根深かったのだろう。


 しかし、視界に入り込んだ『子供』は震えている俺など気にもせず、必死に何かを運んでいるようだ。


 俺のことが目当てじゃないと脳が理解した瞬間、俺は安堵からか身体中から力という力が脱けその場にへたり、と座り込んでしまった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、日が暮れるまでに無事に家に帰って来れた俺は昼間見かけた女の子のことをガルフ爺ちゃんに尋ねてみた。


 

 ガルフ爺ちゃん曰く、その子は3年ほど前に村の教会の近くで見つかった、所謂『捨て子』らしい。

 現在はベーコの長老であるベウという人の家で暮らしているのだとか。

 拾われてからしばらくは読書などで遊んでいたらしいが、ベウさんが彼女の出生について漏らしてしまってからというもの、彼女は昼間見たように『お手伝い』をするようになったらしい。

 


 その話を聞いた俺は『捨て子』という言葉こそは知らなかったが、それが意味することを何となく理解した。


 彼女には本当の親がいないのだと。


 俺はあんなにも辛いことがあったけれど、父さんや母さん、そしてガルフ爺ちゃんたちが支えてくれたから、こうしてまだ前を向けていられた。

 それが『当たり前』だと思っていた。

 辛い経験をした俺だからこそ、気付けた。


 彼女は本当の意味で頼れる支えがいないと考えている。

 自身が『捨て子』という境遇だったからこそ、「また捨てられるのではないか」と考えたに違いない。

 俺が彼女の立場であればそう考えてしまうからこそ、彼女が周りに自分の良いところを見せることで捨てられないようにしているのだと理解した。


 しかし、俺がガルフ爺ちゃんやベウさんの話を聞いた感じではその心配は明らかに杞憂だ。


 彼女自身、冷静ではないのだろう。

 それも無理はない気がする。

 だが、そのことで勘違いを続けるのは良くないと思った。



 彼女の勘違いを正せるのは彼女に勘違いされていない俺だけだ。



 俺は『子供』が怖いけれど……事情を知った以上、何もせずにはいられなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺はベウさんに頼み込むことで『彼女』のことを可能な限り教えて貰った。


 ベウさんから教えて貰う度に俺の中の仮説が信憑性を帯びてくる。

 そうなればなるほど、『彼女』を助けてやりたいと思うようになった。



 俺は『彼女』の『友達』という名の新たな支えになることを考えた。



 それからのことはあまり覚えていない。

 それは俺が無我夢中でいたからだろう。

 

 ただ一つ確信を持って言えることは『彼女』とはお友達になれたということだけだ。


 俺が覚えている幼い時のベーコでの話はこの話ともう一つだけ。


 そのもう一つの話は、俺と『アリッサ』で交わした約束の話だーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その話が始まったのは二人で遊んだ帰りの時だったと思う。


 

「なあ、アリッサ。大人になったら俺と一緒に冒険者になろうぜ」

「冒険者?私と?」



 ある程度アリッサと仲良くなった俺はアリッサの職業(クラス)が『賢者』という国有数の希少な職業(クラス)だとことを教えて貰っていた。



「アリッサは職業(クラス)が『賢者』だろ?なら俺よりも戦闘向きな職業(クラス)ってことだ」

「まあ、そうなるね?」



 実は前々からアリッサと仲間(パーティ)を組むということ自体は考えていた。


 アリッサと俺は幼なじみだ。

 だからこそある程度のことならば相手が何をしたいかが分かる。

 これを戦闘面でも活かせれば、かなりの連携力になるのではないかと考えていた矢先にアリッサの職業(クラス)が『賢者』だと知ったのだ。


 本当はもう少し考えてから話そうと思っていたのだが、自分のはやる気持ちを抑えきれなかった。

 

 今もこうして冷静に思考こそしているが口は止まることをしらないからな。



「だが、『賢者』ってのは魔法を扱う以上、近距離の攻撃には対処しにくいと思うんだ!」

「っ!?しょうだね!?」



 やはり、アリッサも突然このような話をされて困惑している様子だ。

 だが、それでも止まらない俺の口。

 ……後でアリッサにちゃんと謝ろうと俺は胸に誓った。



「だからこそ俺は素振りとか筋トレとかも更に頑張って近距離戦闘が出来るスゲー『付与士』になる予定なんだ!だから俺はーー」



 ん?おい俺今何言おうとーー



「ーーアリッサが欲しい!」



 って、おいいいい!!

 言っちゃったよ!!

 俺の願望しかない考えを!!


 俺はアリッサの精神的支柱になろうとしていたのに、その俺がアリッサの職業(クラス)を利用しようとしてるとか思われたら全てがオシャカだぞ!?


 などといって心配をしている俺に対してアリッサは声を少し震わせながらこう言った。



「へ、へぇ〜、ラゼルくんは私が欲しいんだ?」



 突然のこと過ぎてアリッサも困っていそうではあるが、俺の懸念することは微塵も考えていない様子。


 俺と交流を深めていったことで、流石に利用しようとしているなどといったことを俺が考えないと信用してくれているのかもしれない。

 アリッサに信頼されているのであれば、もう俺の口から出てしまったことだしこの話をしない理由が無くなった。

 アリッサの言い方には少し()()()な所があったが、きっとそれは彼女が混乱しているからだろう。

 あまりにも突然にこの話をしたのだから、それも仕方のないことだろう。



「うん?……まあそうだな。俺はアリッサが欲しい!」



 『賢者』は広範囲を殲滅することが可能な職業(クラス)だからな。

 冒険者として生活するのであれば、一人くらい広範囲に攻撃ができる人が欲しくなるというもの。

 しかもその役割をこなすのが『賢者』という世界有数の職業(クラス)なのであれば、俺の夢への大きな一歩になるはずだ。

 それに、アリッサは気心が知れてるから何かと接しやすいだろうし。


 そう考えたからこその宣言だったのだが……



「ッ〜〜!?!」



 俺がそう答えた瞬間、アリッサは声にもならない謎の音を出しながら顔を真っ赤に染め上げた。





 ・・・いや、意味がわからないんだけど……





 俺の思考が止まっていることに気付いたのかは知らないが、アリッサの口が開いた。



「で、でもラゼルくんは『付与士』だからなぁ〜?私、『賢者』だし〜?ちょっとやそっとの努力じゃ認めてくれないと思うよ〜?」

「うぐっ!」


 うぐっ!


 ・・・思わず心の中でも同じ台詞をいってしまったではないか……


 だが、アリッサがその点を心配することも想定済みだ!



「だ、だが!それでもやる!!とんでもないほどの努力をしてやるさ!!俺はSランク冒険者になる!!だからアリッサが俺の仲間(パーティ)にいても恥ずかしい思いなんてさせない!!いや、むしろそのためにSランク冒険者になると言ってもいいよ!!」



 ど、どうだ!!

 流石にこんなことを言うのは恥ずかしいが、ここまで言えば俺の決意が生半可なものではないと伝わるだろう!!



「ーーーー」



 ・・・・え、無反応なのは想定外なんですけど……

 どうしていいかもわからない俺は一先ずアリッサに声をかけることにした。



「……アリッサ?」



「………きゅ」

「きゅ?」



 きゅ?「きゅ」ってどういうこと?



「アリッサ?どうしたの?さっきから少し様子がおかしいけど」

「な、なんでもないよ」



 とてもそうは見えないが、アリッサにとってそれは触れて欲しくないことなのだろうと考えてあえてスルーすることにした。



「それで、アリッサ」

「ひゃい!!」

「ひゃい?」

「い、いいの。……続けて?」

「いや、その返事というか……」



 そう。そこなんだよ。

 わーわー騒いでいたせいで肝心の返事を聞かせて貰っていない。

 さっきからそのことが気になって気になってしょうがないんだ。



「ふ、不束者ですが……よ、よろしくお願いします……」

「!!つまりはOKってことか!?」



 フツツカモノという言葉の意味は分からなかったが、この様子から察するにおそらく『合意』を意味するのだろう。



 そんなこんなで色々と突然のことではあったが、俺とアリッサは将来仲間(パーティ)を組むという()()をしたのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あの時にした『約束』のことを俺は忘れたことはない。

 だけど、アリッサが覚えているとは限らない。

 そう考えていたのだが……久しぶりにあったアリッサの反応から考えてみても、どうやらアリッサはあの『約束』のことを覚えていてくれたらしい。


 そのことが嬉しくて思わず頬が緩んでしまったからか、道ゆく街の人に不審な目で見られてしまった。

 ・・・恥ずかしい……





 まあそんなことよりも、だ。

 アリッサが来るまで一体何をして暇をつぶそう……

 あの様子からしてかなりの時間を要することは目に見えている。

 一人しりとりももう飽きたしなぁ……



 俺がそんなこと考えていると、突然見知らぬ女3人組に声を掛けられた。



「ちょっとそこのあなた?」

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