第13話 強制
「私と勝負しなさい」
唐突に勝負を挑まれた俺は、あまりにも突然のことに困惑してしまった。
勿論その困惑も顔には一切出していない。だが内心では「何故?」やら「面倒だ」とか「どうやって断る?」などといった感情がひしめき合っているため、非常に混乱しているのだ。
しかし、エマそんな俺の都合などどうでもいいのだろう。エマはさらに続ける。
「勝負の内容は簡単よ。これから私たちとあなたは模擬戦をする。1対1を休憩を入れながら合計三回ってところかしら。勝利条件は……そうね、無難に気絶した方が負けでいいでしょう。それでいいわよね?」
……はっ!突然のことすぎて思考がフリーズしていたが、このままだと本当に模擬戦をさせられてしまう!?
そう思った俺は空かさず反論する。
「いや待てよ。なんで俺がお前と模擬戦をしないといけない流れになってるんだ?」
「なんで、ですって?そんなの決まっているでしょう?」
……知り合って間もないが、早くもなんとなくエマがどういった思考パターンをしているのか分かってきた気がするな……
「あなたがアリッサ様と親しくしたからよ」
やっぱりね!!そういうと思ったよ!!
内心ではこんな風に取り乱しているが、現実の俺は今もポーカーフェイスである。
「そんなこと言われてもな。ちなみに聞いておくと拒否権は?」
「拒否権?そんなもの、あんたにあるわけがないじゃない」
ですよね。そうですよね。そんなんじゃないかって思ってましたよ俺は。
「さあ、模擬戦をやるんだからあんたも早く準備しなさい」
だが、まだ逃げ道はあるはず。仮に俺がエマと模擬戦をするのならばら気にしなくてはならないことがあるはずだからな。
もし、それが満たされていないのなら俺は模擬戦をせずに済むはずだ。
満を辞して俺はそのことについて言及させて頂くぜ!
「待て待て、見たら分かるとは思うが俺は《グラントーレ》の生徒じゃないんだ。つまり、部外者なんだよ」
そう、俺は《グラントーレ》の関係者ではない。ここは国が誇る最高峰の《グラントーレ》だ。
そんな学校に部外者が無許可で侵入して良いわけがない。
侵入者には何かしらの罰が下るはずだが、俺はその最高峰の学校に通う生徒らに強制連行されそうになっている被害者(予定)だ。
部外者かつ被害者の俺がなにか不手際でもしなければ、何のお咎めもなくアリッサと合流できるはずだ。
流石にあのエマとやらも、この状況を理解できないほど頭は悪くないだろう。
そして俺との模擬戦を諦めるはずーー
「《グラントーレ》の生徒じゃない?良かったわねぇ?」
「……え?」
予想と異なる反応を見せたエマに思わず困惑の表情を浮かべてしまった。
驚愕で次の言葉が出てこない俺を放って、キャシーとゴルゥラが続く。
「今日、あたしらが模擬戦するはずだった相手なんすけど、昨日から連絡が取れなくなっていたっす」
「ウホッホホウ。ホホーウ。ホホッホウ。『ウホホッホホウホホ』ウッホホウ。ウホウ」
「そうなの。ゴルゥラの言った通りだから、全く持って問題ないわ。分かったなら、早く準備しなさい」
「いや、あの。連絡が取れなくなってっていう所までしか分からないだけど?」
「あ、そうっすよね。……えっと、ゴルゥラが言うには、連絡の取れなくなった模擬戦相手を街中駆け回りながら探し回っていた時に、不意にアリッサ様と親しげに話すお兄さんを見つけたっす。鬼教官の『賢者様は職業が職業だから良くない輩が寄り付いてもおかしくない。だからお前らはもしそんな輩を見かけたら、迷わず潰せ』という言葉に従って、あたしらはお兄さんを連れてきたって訳っす。消えた模擬戦相手の代わりにもなって一石二鳥ってことっすね〜」
なるほど。確かに理解はできる。こいつらが俺を怪しんだのはその鬼教官とやらの教えが元となっているということだな。
だが、その鬼教官の教えも全く駄目という訳ではない。今回はその教えのせいで俺がこんな目になっているが、アリッサを悪人から守るための教えなのは確実だからだ。
だからその鬼教官とやらに俺の無実を証明できれば、一切揉めることなく解決させれそうなのだが……。
どうやらこの近くにはその鬼教官とやらはいないらしい。俺の無実を証明しようにも、その鬼教官とやらが納得しない限り、こいつらの疑惑は払拭できないだろう。
しかし、さっきの““ウホウホ””がこんな意味になるなんて、俺にはさっぱりだ。むしろなんで分かるんだこいつらは。
「そんな訳だから、諦めて勝負するの。分かった?」
「いや、でもーー」
「分 か っ た?」
「……はい」
そんなわけで俺は半ば脅迫といった形ではあるが、アリッサをただ待つだけで暇を持て余すはず予定が、【アリッサ様親衛隊】を名乗るクセの強い三人組と模擬戦をすることになったのだった……