第10話 アリッサ
「…ラゼル、くん?」
その声がした方向へ振り返ると、そこには見慣れない女性がいた。
見慣れてこそいないが、よく見ると所々記憶の中のアリッサと通ずる点が多く存在すること、この女性からアリッサの声がしたことなどの情報からしてこの女性は大人になったアリッサなのだろう。
「…もしかして、アリッサ?」
「やっぱり…ラゼルくん、だよね?」
「ああ、そうだ。…久しぶりだな」
「うん!久しぶりだね!ラゼルくんは全然変わらないね〜!」
声の主はやっぱりアリッサだった。俺の推理は正しかったってことだな。
とは言ったものの、こんなこと誰にでも分かることなんだけどな。
そもそもバルジに来たばかりの俺のことを知っている人は限られている。
ベーコにいた時だって俺は『ガルフのとこの子供』っていう印象で『Sランク冒険者の息子』という目では見られなかったんだから、住んだことすらないバルジに俺に関する噂が広まっている訳がない。
勿論、俺がそういう目で見られなかったのにも訳がある。
俺の両親がSランク冒険者ということから、その2人の息子である俺が世間から注目を浴びないはずがない。
俺は死んだことになっているのだ。
それ故に俺の外的特徴はそもそも広まっていない。
世間が俺に対して興味を示さないように、ガルフ爺ちゃんや父さん母さんなどといった人達が意図的にそういう方向に仕向けたっぽいけど。
そんな理由があって、バルジにおいて俺の名前を知っているのはアリッサと昨日《渡鳥の泊まり樹》にいた人くらいな訳だ。
《渡鳥の泊まり樹》にいた人たちの誰かが 魔法を使って声を真似ているだけ、という可能性はあるが、《渡鳥の泊まり樹》を出てからは誰にもつけられている気配は感じなかったし、そもそも早朝のため、俺以外に人がいたらそれだけで記憶に残るだろう。
それに第一、魔法を使ってまで俺を騙そうとする動機があるだろうか?いやない。
少々長くなったが、この状況下においてアリッサの声で俺の名前を呼べるのはアリッサ本人しかいないってことだ。
それはともかくとして、せっかくアリッサと会えたんだ。
久しぶりに会えたことで少々世間話でも、と行きたいところではあるが、例の話をしないとな。
「アリッサ。早速で悪いがーー」
「賢者様!?こいつ、本当に知り合いなんですか!?」
俺の話をぶった切りながら警備員の男がアリッサに問いかける。
「え、ええ。私の故郷であるベーコでの幼なじみですが…」
「そ、そうなんですね。………あいつがさっき言っていたことは本当だったのか」
おい。小声で言ったって聞こえてるからな。あの様子から察するにアリッサは聞こえてないみたいだが、俺には聞こえているからな。本当ならスルーしたい事ではないが、今はそんなことよりもアリッサと例の話をするのが優先だ。
「アリッサ。ちょっと話いいか?」
「うん?別にいいけど…」
「話すと長くなるんだがーー」
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俺はアリッサに俺が冒険者になるための条件を満たせていないこと、バルジに来たばかりが故に知り合いが全くいないこと、それでアリッサに声を掛けに来たこと、といったことを掻い摘んで説明した。
「なるほどねー…」
俺の説明を聞いたアリッサはうんうんと考え込んでしまった。
…やはり職業が『賢者』ということもあってアリッサは色々と忙しいのだろうから俺の要望を飲むのが厳しいのだろう。
俺の知っているアリッサはなんだかんだ言いつつも最終的には手伝ってくれるといった優しさを持つ人だったから幼なじみの俺が困っているのに協力できないということに罪悪感を覚えていてもおかしくない。
……アリッサなら無理でも協力すると言い出しても何の不自然もない。流石にそこまでしてもらうのは悪いな。
「別に無理そうなら一人でどうにかするからーー」
「い、いや、別に無理っていう訳じゃないから!むしろいい時期だし!ラゼルくんがいいなら是非!私を!仲間に入れて下さい!」
「お、おう。仲間に入ってくれるっていうなら俺としては嬉しいんだが…。…無理とかしてないか?」
「もう無理なんて本当全然全くこれっぽっちもしてないから!」
「そ、そうか」
なんだ?こんなにもテンションのアリッサなんて初めてみたぞ…?
まあアリッサが仲間になってくれるなら、こちらとしては万々歳な訳だが。
「じゃあ…よろしくな。アリッサ」
「うん、よろしくね!」
そんな訳で予想よりも呆気なくアリッサと再会できた俺は、アリッサと仲間を組むことに成功したのだった。