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毒舌うたのおにいさん  作者: 響ぴあの
6/9

毒舌おにいさんと海

 この時期は人が誰もいない。それはまるで、私たちだけのために海が待っていてくれたかのように錯覚してしまう。そんなはずはないことは承知だけれど。だれもいない海は、天気はいいけれど、少し肌寒かった。潮の香りが漂う海の風はしょっぱくてきもちがいい。髪の毛が風で揺れる。


「なんで、海に来たの?」

「疲れたら、海だろ」

「なによ、その理屈」

「俺の場合は、広い海が癒されるんだよ。おまえも仕事に疲れが出る時期だろ。海に癒してもらえ」


 もしかして、この人なりのねぎらいの行動なのかな?

 たしかに、新人は特に疲れが出やすい時期だ。五月病という言葉があるくらい、少し慣れてきたこの時期がどっと疲れが出るのだ。意外と、気配り上手な上司みたいで、純粋にうれしい。


「叫びたい事があれば、海に向かって叫ぶと、わりとすっきりするけどな」

「ナル兄は絶対ストレスたまらなそうな気がするけれど……」

「俺は、繊細な音楽家だ。ストレスだらけだけど、最高のパフォーマンスを見せるために、最年長でもがんばっているんだっつーの」


 そうか、そうなのか。この人の魅力は、いつも全力で仕事に立ち向かっているから視聴者に愛されているのかもしれない。プロとしての取り組みがお茶の間まで伝わっているからこんなに人気者になったのだろう。


 長年おにいさんをやっていたら、疲れるときもあるし、いらいらするときも、体調の悪い時もきっとあると思う。それでも、毎日笑顔を作っている影には努力と苦労がきっとあるのだと私は横顔を見て悟ってしまった。

長年ファンをやっているのに、ナル兄のこと、何もわかっていなかったのは私なのかもしれない。


「今日は、たっぷり海と私に癒されてちょうだいね」

 茶目っ気たっぷりに言ってみる。


「いや、おまえに癒しは求めていないがな」

 真面目な顔で、否定された。

 本当に素直じゃないんだから、ナル兄は。

 

 私たちのつかの間の休日は滞りなくあっという間に過ぎ去った。

 そして、また、明日から嫌でもこの人と顔を突き合わせて真剣にお仕事だ。のどのケアを怠らないようにしないと。私は、帰宅すると加湿器のスイッチをオンにした。

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