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毒舌うたのおにいさん  作者: 響ぴあの
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うたのおにいさんは毒舌でした


「歌おう~♪ 歌おう~♪」

オープニングの収録だ。憧れのうたのおねえさんに合格して、

憧れていたおにいさんとうたっている。幸せな瞬間、のはずだが――


「のどか、ちゃんと音合わせろ、きいているのか?」


 私、のどかと申します。この度ようやく夢のお仕事、念願のうたのおねえさんになりました。しかしながら、憧れだったうたのおにいさんが相当な毒持ち男で、夢破れながらもなんとか生きています。


みんなの憧れうたのおにいさん、というのは品行方正で、いつも模範的で笑顔で正義の味方というイメージが先行していますが、このお兄さんは、テレビの中だととても素敵なのですが、実際は……。


 毒舌、子供嫌い、女と酒が好きで意地悪なとんでもないおにいさんなのです。でも、この事実を知っているのは、スタッフ、関係者だけで、視聴者は知らない事実なのです。


 今日もおにいさんとのお仕事がはじまりますが、憧れ百パーセントから幻滅百パーセントになるという悲しい現実。


 私は、キッズソングという伝統ある幼児番組の大ファン(オタク)です。

 マニアぶりはいまだに健在で、毎日欠かさず録画しているのはもちろんのこと、グッズは必ず購入しているし、ポスターやカレンダーも小さい時から今まで欠かさず購入していました。


 そんなマニアックな私はストーカーのごとく、うたのおねえさんのオーディションがないかと履歴書を送り、ファンレターという名の感想文を送り……。


 とにかくうたのおねえさんになるべく最大限の努力をしたのです。その結果、オーディションをするというしらせを受け取ることができ、無事合格したのです。きっと熱い想いが伝わったからだと自負していました。おにいさんも私の番組愛をわかってくれていると思っていたのです。目的達成のためにはストーカーのごとく、しつこくアピールするしかなかったのです。


 ところが、おにいさんの第一声が――

「マニアックでウザイ視聴者が、おねえさんに合格したってマジかよ?」

 私は大変失望しました。何故こんなセリフを浴びせられるのか? 

 正直悲しい気持ちしかありませんでした。


 歴代のおにいさん、おねえさんも大好きなのですが。現在のナルおにいさんが一番素敵という評判はネット上でも評判なのです。ナルおにいさんは、子育て中のおかあさんから一般の女性までファンがいるという幅広い支持を得ているのです。


 すごい人気ぶりの理由としては複数挙げられるのですが、アイドル顔負けの顔立ち、歌唱力、トークセンス、ファッションセンスも女子の心をわしづかみするという幸福な王子様なのです。そんな王子様に近づける(仕事が一緒にできる)という幸せの切符を手に入れたにも関わらず、私は奈落の底に突き落とされたのです。


 社会人になるということは厳しい現実が待っているとは聞いていましたが、

マニアックと思われていたのは仕方ないかもしれません。

 マニアック=情熱だと私は思っていますから。ちょっと変な人くらいがちょうどいいと思っていますから。


「芸能人とかタレント目指している人?」

 おにいさんに話しかけられたのは二回目でした。


「私は、この番組が好きでおねえさんになっただけで、タレント志望ではありません。うたと子供と番組が好きなのです」



「あんた変わっているな。子供って番組進行邪魔するし、結構面倒だぞ」

 なに? このセリフ。

 「子供は嫌いですか? 子供に毎日笑顔をふりまいているのは、お仕事だから?」


「テレビの仕事だからに決まっているだろ」

 なんとも夢のない発言です。現実とはそのようなものなのです。

 うたのおにいさんが子供を嫌いって……結構致命傷。

 悲しい……。


 しかも、休憩時間は仕事終わりの遊びの話しかしてないし――

 女の子と遊びに行きたいとか、仕事しないで寝ていたいとか、覚える量が多すぎて給料が割に合わないとか。プラス要素がゼロ。神様も王子様も存在しない悲しい現実。


 元うたのおねえさんも引継ぎの時に、 

「この番組で歌っていれば 数年後のキャリアアップにつながるから、頑張ってね。私、タレントになるの。これからは固定給じゃないから、給料も上がるし、知名度をもっとあげて芸能界で活躍するわ」


 なんとも楽しそう、自由の身になれたという鳥のごとく、おねえさんは卒業した。神がかった美しいおねえさんで、歌も上手だった。

 その容姿は萌え文化の発祥の地――とでも言っておこうか。

 父親のファンもたくさんいて、子供好きで優しい美人という印象だったのに。印象って怖い。現実とイメージはだいぶギャップがある。


 とにもかくにも、この二人のおにいさんおねえさんのおかげで、少子化にも関わらず、視聴率は歴代最高で、番組の人気は絶好調の右肩上がりだったのです。二人は理想のカップルであり、私は密かに応援すらしていたのです。


「おまえさ、素人感満載で売っていくしかないな。女子力低い分、個性出して視聴率キープしてくれよな」


 これって、セクハラ? パワハラかもしれない。

 女子を馬鹿にしている。

 絶対世の中の女性を敵にするタイプだ。

 世の中のお母様方の敵がここにいますよ~。

 宣伝したい気持ちだ。


 数日前までナル兄に会える! ってかなり興奮していた私。

 あの人間離れした透き通った肌に触れられるかもしれない。

 あの美声を近くで聞くことができるかもしれない。

 あのきれいな顔を近くで見て、話すことができるのだ。

 ファン心理が凄すぎて脳内お花畑になっていた。


 スタジオ観覧は乳幼児の親子連れのみ、という高いハードルだった。

 ファンだとしても大人一人で行くわけにはいかなかった。

 参加することすらかなわなかったスタジオ観覧。

 なぜだめなの? と何度もテレビ局に訴えた甲斐があった。

 私はとうとう夢の切符を手に入れたのだ。


 しかしながら、憧れの人の毛穴を見てしまったような、とても残念な気持ちになっていた。

 よりによって、大好きで憧れたおにいさんがこんなに性格悪いの? 

 もう少し普通の人であってほしかった。


 神の領域を見てしまった私は、もう現実を直視することが怖くなっていた。


 社会人一年目、何かと大変だけど夢見ていた職業に就けたのだから、これからかんばるぞ!! 

 子供たちのために私は歌うのだ!!


 ナル兄はカメラがまわると別人のようだ。プロだ。

 笑顔でスターオーラが半端ない。

 これで何人の女性が恋に落ちたのだろう。

 究極の詐欺師だと思った。

 間近でみるおにいさんは、やっぱりかっこいい。

 歌、踊りが完璧で妥協がない。

 この人、文句を言うけど、仕事に対してはプロだ。

 自分にも他人にも厳しい。

 歌を合わせるときは、鬼の形相で指導される。

 まさに鬼監督。


 うたのおねえさんという仕事。

 派手な職業に思われがちだが、地味な作業の繰り返しだ。


 曲、歌詞を覚えたり、振り付けを覚えたり、

 プライベートな時間がとれない。

 ナル兄は遊んでいる暇があるのだろうか?


 休日は家でひきこもる私。疲れて休んで覚えて仕事に行く毎日。全くゆっくりできない。

 番組のファンとして素晴らしい番組作りのために手を抜かない。

 このために、声楽を勉強したわけだし。せっかくの休みは撮りだめしていた「キッズソング」でも観よう。やっぱり、私の趣味はキッズソングしかないようだ。


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