09.クッコ、ふたりでご飯を食べる
子豚のクッコローゼは毎日ボッチ飯だ。
世界樹のミミルはいるけれど、水だけで充分で一緒に食事をしてはくれない。
「おぉ、飯を持ってきてくれたのか! クッコローゼは優しいな」
「……なんで縄が外れてるの?」
「いやなに、クッコローゼがくれた矢でちょちょいとな!」
クッコが戻ってきてみると、ガウルードは縄をほどいて固まった手足を伸ばしているところだった。
なんと、クッコが放った矢を使って、縄を切ったらしいのだ。人間というのはなかなかに器用な種族らしい。
「ぷう、後ろに下がって!」
「そんなに警戒しなくても、なんもしやしないよ」
檻から手を出すガウルードから十分距離を取りながらクッコは言う。
腹ペコの獣はイライラしていて危険なのだ。それくらい、クッコだって知っている。
「食事いらないの? 後ろに下がって!」
「へいへい、苺ちゃんは気難しいね」
ガウルードはちょっとおかしい。腹ペコのはずなのに、なんだかとっても余裕を感じる。
『苺ちゃん』なんて呼び方もむずがゆくって、クッコの方がイライラしてしまう。
「変な名前で呼ばないで!」
「じゃあ、なんて呼んだらいいんだ?」
「……クッコ」
「オーケイ、クッコ。うまそうなスープだ、ありがたく頂くよ」
檻の一番奥までガウルードが下がったのを確認して、クッコは檻の隙間からパンとスープを差し入れた。
ガウルードはクッコが下がるのを待ってから、クッコをおびえさせないように、ゆっくりとスープに近寄って、「いただきます」と言って食事を始めた。
「おぉ、こりゃうまい。こんなにうまいスープは初めてだ。パンもふかふかだな!」
ガウルードは人間だっていうけれど、オーガみたいによく食べた。
うまい、うまいと、最後の一滴までパンで拭うようにして食べたから、お代わりがいるかと聞いてみたらニカッと笑って欲しいと言う。
クッコはいつも自分の料理を、おいしいなと思って食べるのだけれど、料理を人に食べさせたのも、おいしいと言ってもらえたのも初めてで、自分でおいしいと思って食べるより、なんだか胸がいっぱいになる気がした。だから、ついつい3回もお代わりを運んで、ついでに自分のぶんも持ってきて、檻を挟んでガウルードと二人で夕食を取った。
「ふー、食った、食った。ごちそうさん。なぁ、クッコが俺を助けてくれたんだろ?」
「違うよ。森狼はガウルードが倒してたよ。ガウルードも倒れてたけど。最初はオーガだと思ったから、回収したんだよ」
「ははは、オーガか。俺はでかい方だからな。でも、やっぱりクッコが助けてくれたんじゃねーか」
「違うよう。保存食として持って帰ってきたんだよ」
「おおおい。俺を太らせて喰うつもりかよ? だったら、もう少しお代わりをもらおうかな」
クッコの保存食発言に、ガウルードはおおげさに驚いてみせる。
ちっとも怖がっているようには見えないし、さらにお代わりなんていうものだから、クッコはくすくす笑ってしまう。
「じゃあ、クッコはお代わりにガウを食べちゃう。うぷぷ、嘘だよー。ガウは人間だから。人間は食べちゃダメだから、食べないよ」
「そうか。それ、信じるぞ? 信じるからな? 食べちゃだめだぞ。
それにしても俺、結構ケガしてたと思うんだけど、クッコが治療してくれたのか? ずっと縛られてた割に、手足も大して痺れちゃいないし」
「それは、たぶん蓮の実の効果。死にそうだったから、蓮の実の粉を飲ませたの」
「蓮の実?」
「うん。すごく栄養があるの。ガウの頭の毛、魚に食べられちゃったけど、うぷう、もう、ちょっぴり生えてきてるね」
「毛? ………………アァ!? 剥げてんじゃねーか!」
「ぷぷぅ、変な頭ー」
「あー、まじかー。まぁ、生えるから、いいかー」
クッコとガウルードは二人で顔を見合わせて笑った。
クッコはいつの間にかガウルードのことを「ガウ」と縮めて呼んでいて、とっても仲良くなれた気がする。
ガウルードは悪い人間なんかじゃない。クッコはとっても鼻が利くから、そういうことは分かるのだ。ガウルードがいい人で、クッコはなんだか嬉しくなった。
「うぷぷ、うぷぷ、うふー」
「笑いすぎだぞ、クッコー」
こんなにたくさん笑ったのは初めてで、たくさん笑うとお腹が痛くなるんだと、クッコは初めて知ったのだった。
クッコのヒミツ:クッコは食いしん坊だから、お料理にはこだわりがあるんだ。