表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子豚のクッコローゼと世界樹の家  作者: のの原兎太
第1章 病気を治す、すごい蓮の実
5/27

05.クッコ、解体部屋に行く

 子豚のクッコローゼには指がある。


 足は(ひづめ)になっているから、(くつ)()いていないのだけれど、腰丈くらいのフード付きのマントの下には粗末ながらもちゃんと服を着ているし、ぷくぷくとした小さな手には人間のように5本の指が付いている。


 器用に動くその指は母親から受け継いだもので、物をつかんだり道具を使ったりするのに、とっても役に立っているのだ。


「急いで血抜きしなくちゃ」


 オーガを(おり)に入れた後、クッコは角兎と狼を放り込んだ解体部屋へと向かう。

 石化した世界樹の外周側は、洞窟(どうくつ)のように(うろ)がつながっていて、小部屋のようになっている。湖側の小部屋には深いところに穴が開いて湖の水が入り込んでいたりする。


 水()まりの大きさはまちまちで、水だけ入ってくる水溜まりもあれば、なんでも食べちゃう魚まで入ってくる水溜まりもある。こういう部屋で活躍(かつやく)するのが湖にたくさん生えた(はす)の根っこで、一方向に水を流す性質がある。世界樹ミミルの話では、本当は、空気を送る穴らしく、茎にも同じ形の穴が開いている。空気を送る穴に水が入ると息が詰まってしまうから、蓮の根っこ、蓮根(れんこん)は大急ぎで水を出そうとするのだそうだ。

 蓮たちが葉っぱから根っこまで空気を送っているおかげで、この湖には蓮と肉食魚しかいないのに、肉食魚は息が苦しくならないんだとミミルは教えてくれた。


「魚が息苦しくなるの? 水の中に住んでるじゃない。水の中では呼吸ができないんだよ?」


 ミミルの話は時々よく分からないな、と思ったけれど、チョンとはしっこを切った蓮根を水につけると、すごい勢いで水を吐き出すのは本当だ。蓮根はぐんぐん水を流すから、水穴を埋めてしまえば、水面より低い位置でも湖側に配水できるのだ。

 蓮根の穴はクッコの指が2,3本入りそうなほど太いから、多少固形物を流しても湖の方へ排水してくれる。しかも、節のところから生えた根っこさえ残しておけば、切った部分はそのままに、そこからにょきりと芽がでてくる。そうすると蓮根配管はずっと生きたままで、配水管に使った蓮根部分が腐ることはないときた。すごく便利な植物だ。


 魚とハズレの葉っぱを回避しながらの蓮根採取は、かなり面倒な仕事だけれど、水穴のある部屋を蓮根配管で工夫して、厨房や解体用の部屋、風呂やトイレまで作ってある。

 雪が降ったら採取や狩りの仕事が減るから、住み家の整備は冬の間の仕事の一つなのだ。


 獲物を運び込んだ解体部屋は、便利がいいように入り口のすぐ横に作ってある。とても広い部屋で、10匹の森狼を全部放り込むことができるし、この部屋から調理場にも、地下の食糧庫にもつながっている。


 解体部屋には大小二つの水槽があって、どちらも深くて底が見えない。

 入り口近くの水槽はとても大きい上に、底の方に大きな穴が開いていて、湖の肉食魚が入り込んでいる。間違って落ちたら大変だから、半分以上は板でぴっちりとフタをして上を歩けるようにしている。残りの場所は枝を組んだ格子のフタだ。この魚はなんでも食べてくれるから、解体で出たいらない臓物(ぞうもつ)や骨は格子の隙間から捨てればきれいに食べてくれる。食べているのか飲んでいるのか、抜いた血だとか洗い物の汚水を流しても水槽の魚がぐるぐる泳ぐとあっという間にきれいになるのだ。

 クッコがエサをやるおかげで、この水槽を縄張りにしている魚は丸々と太っていて、結構おいしい。食べ物が不足する冬の貴重なたんぱく源にもなっている。

 

 魚水槽の上に2匹ずつ狼を吊るして血抜きをしている間に、角兎の解体だ。


 もう一つの水槽には魚はいなくて、きれいな水が溜まっている。周りの地面は初めから深さの違う円形の仕切りでいくつかの層に分かれている。ミミルが教えてた言葉を借りれば、『棚田』といった感じだそうで、洗い場が幾つもある状態だ。それをちょっぴり工夫して、蓮根で組み上げた水が分かれて流れるようにして、洗い物をする場所、食料を冷やす場所など使い分けている。溜水が濁っても、蓮根から水が絶えず流れてくるから、すぐにきれいな状態に戻るし、汚い水は魚の水槽に流れて行って、魚がきれいにしてくれる。


 さくさくと角兎の皮を剥ぎ、腹を裂いて内臓を取り出す。食べられる内臓もあるけれど角兎は小さくてより分けるのが面倒だし何より今日は時間がない。内臓はまとめて格子から水溜めに落として魚の(えさ)だ。

 何匹もの魚が水から顔をだして、びちびち、みちみち、くっつきながら餌をほおばっている。

 いつ見てもいい食いっぷりだ。


「おいしそうに食べるなぁ」


 石を投げ込んでも同じ感じで食べるから、おいしいのかなと思って、クッコは石をかじったことがある。硬いばっかりで何の味もしなかったから、この魚は『味オンチ』というやつだろう。


「だめだ、お腹空いて死ぬ……。狼は、もう、後でいいや」


 魚の食べっぷりにお腹がぺこぺこになったクッコは、(さば)いた角兎の肉だけ持って、ふらふらと隣の調理場へ向かった。



クッコのヒミツ:クッコのナイフは、ゴブリンをやっつけて手に入れたんだよ。

ゴブリンの腰布も持って帰ったけど、バッチイから捨てなさいって世界樹のミミルに叱られたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ