04.クッコとハーピィ・ジェットスキー
「ハチミツダマァー、ハチミツダマァー」
「ハチミツダマ」「アマァイノ」「ハチミツゥ」「アタシモ」「ハチミツダマァー」「欲シィノー」「頂戴イイイィィィ」
洞窟の入り口付近では、アルルと7匹のハーピィたちが口々に蜂蜜玉をおねだりしながら飛び回っていた。
「ぷぅ、コワイ」
アルルの狂喜乱舞ぶりに他のハーピィたちも蜂蜜玉の味を思い出したのだろう。
みんな興奮状態でギャアギャア、バサバサと入り口前を飛び交っていて、物凄くおっかない。
「一個づつあげるから、落ち着いてー。ちゃんと並んでー」
「ハチミツダマアァァァ!」
ぽいぽいと、ハーピィたちに蜂蜜玉を投げていくクッコ。
そして、蜂蜜玉を口に入れるなり、狂喜のアクロバット飛行を繰り広げるハーピィたち。
「お口閉じないと落っことすよー」
「アアァ、落トシタァ!」「アアァ、拾ッタァ」「返シテ!」「嫌ア!」
クッコが注意したはしから蜂蜜玉を落っことし、別のハーピィに奪われて喧嘩が始まったりもする。
大騒ぎだ。
「アルル、クッコを上まで乗せてほしいの。あとね、おうちまで運んでくれたら、残りの蜂蜜玉全部あげるよ」
「ハチミツダマ! 全部!?」
蜂蜜玉を貰えると聞いて、ひゃっほいと宙がえりを始めるアルルたち。
蜂蜜玉はあと十個くらいしか残っていないから、一つずつしか当たらないけれど、アルルたちは大喜びだ。
「まずは、クッコを乗せて崖の上まで連れてって。そうっと飛んでね、クッコと一緒に蜂蜜玉が落ちちゃうよ」
「ハチミツダマ!」「落チル!」「落トス!」「拾ウ!」「食ベル」「オイシイ!」「一人ジメ!」
「一人ジメハ、許サナイノーヨ!」
口々に自分勝手なことを言うハーピィたちをたしなめるアルル。流石は女王だ。
「ハチミツダマハ、アタシノーヨ!」
「ズルイ」「ヒドイ」「オウボウ」「イケズ」「ショウワル」「トリアタマ」「デブドリ……ギャア!」
いや、アルルもたいがい自分勝手な鳥だった。口々にアルルを非難するハーピィたちのなか、なぜか最後の鳥だけが翼ではたかれていた。
「ぷぅ、日が暮れちゃうよ~」
どうにかアルルたちを落ち着かせて、崖の上まで乗せてもらった後は、川を湖までさかのぼらなくてはいけない。クッコ一人でも帰れなくはないのだけれど、途中の森には危険な魔物がたくさんいるから川を上る方が安全なのだ。
「アルル、このひもを引っ張って川をさかのぼってくれる?」
「サカノボル? サカナトル?」
「魚は取らないよー。川にそってあっちの方に飛んでほしいの」
「ワカッタ!」
クッコは乗ってきた蓮の葉っぱを川に浮かべて、葉っぱに結んだロープの端をアルルに渡す。
アルルに乗せてもらったら、間違いなく途中でクッコは振り落とされる。蓮の船を引っ張ってもらうのが確実だ。それでも時々正反対の方向、滝の方へと進もうとするから、帰りはずっと気が抜けないのだ。
「ハチミツダマァ-」「アタシモォ」「引ッ張ル」「手伝ウ」「遊ブゥ」「歌ウノ」「ハチミツゥ」
アルルの周りを飛んでいるハーピィたちが、手伝っているのか邪魔をしているのか、ちょっかいを掛けてきたりもする。
「アルル、一番早イー!」
「きゃー、ぷぷぷぷぷ! 早い、早いー」
水しぶきを上げながら、クッコを乗せた蓮の船が川の上を滑っていく。
ものすごいスピードで、滑っていった後ろには水が吹き上がり、魚たちもびっくりだ。
「楽しー! クッコ、飛んでるみたいー」
「あるるモ楽シー! あるる飛ンデルー」
クッコもアルルもハーピィたちも、きゃあきゃあと大騒ぎだ。
嵐の日よりうるさくて、嵐の日みたいにたいへんだ。
スピードを出して競争したり、頭上をぐるぐる飛び回るハーピィたちに、クッコのおめめもぐるぐるだ。
楽しい時間はあっという間で、森の切れ間が見えてきた。もうすぐクッコの住み家に着くのだ。
「もうすぐ着くよ。アルル、湖にはコワイお魚が……」
あの湖には、肉食で蓮以外はなんでも食べちゃう魚がいる。
そのことを湖に着く直前に、アルルに注意しようとしたのだけれど。
「キレイナ湖ィー」
「キャア」「水浴ビ」「毛ヅクロイ」「バシャバシャ」「蓮ノ実」「オ花モ」「イイニオオイ」
蓮の花が咲く湖をみて、水浴び好きのハーピィたちは大喜びで、蜂蜜玉のことさえ忘れたように、湖へと飛び込んでしまった。そして……。
「ギャアアァ! 魚ガァ、カジルゥ!」
「ギャア!」「魚!」「ガブッテ!」「尾羽ガァ!」「カジラレル!」「食ベラレル!」「コワイィ!」
「だから言ったのにー。でもまぁ、今年もちょっとかじられただけで済んでよかったよ」
バサバサフラフラしながらも飛び立っていくハーピィを見て、クッコはほっと息をつく。
魚にちょっぴりカジラレルのも、これまた毎度のことなのだ。
「アルル―、蜂蜜玉わすれてるよー」
「ハチミツダマァ!」
クッコが残りの蜂蜜玉が入った袋をぽいと空に放り投げると、アルルは空中でくるりと回って袋をキャッチして、元来た空を帰って行った。
「ちゃんと、分けっこするんだよー。またねー」
ちゃんと分けっこ出来るだろうか。
蜂蜜玉を取り合って、バサバサ、ギャアギャア飛び去っているアルルたちにクッコは大きく手を振る。
「うぷぅ、たくさん採れたよー」
クッコの背負い籠にはキノコがひしゃげるほどぎゅうぎゅうに入っているし、隙間にはハーピィたちが落とした羽も入れてある。ハーピィの羽で作った矢は狙った場所までびゅんと飛んでくれるのだ。
キノコの半分は食べられないものだけれど、いろんな効果がある珍しいものらしい。
ガウルードにあげたらよろこんでくれるかもしれない。
「ガウ、早く来ないかなー」
冬の前に、遊びに来ると言っていた。その時は、キノコ爺やハーピィたちと川の上を飛ぶように滑った話をしよう。
早く来てくれるといいな、クッコはそう思いながら、住み家へと走っていった。
クッコのひみつ:巣に帰ったハーピィたちは、蜂蜜玉に夢中になって、クッコのことは忘れてしまうよ。
次回はまた、そのうちに~。




