03.クッコ、籠いっぱいのキノコをもらう
キノコ爺は丸っこくてポフポフしている。
並んだクッコも丸っこくてプニプニしている。
フォルムが似ているせいなのか、クッコはキノコの洞窟にもキノコ爺にもすぐ馴染む。
「おぅおぅ、久しぶりだのぅ、子豚っこ」
「ぷぅ、クッコはクッコだよー」
ふぉふぉふぉと笑うキノコの背丈は、クッコよりほんのちょっぴり小さくて、横幅はクッコよりもほんのちょっぴり太っちょだ。
「背が伸びたかのー、子豚っこ」
「うん、クッコ、ちょっぴり大人になった」
えへん! と丸いお腹を突き出して威張って見せるクッコ。
「ふぉふぉ、子豚っこは子豚のままじゃよ~」
真ん丸さが強調されたクッコを、おいでおいでと手招いて、キノコ爺は洞窟の奥へと歩いていった。
好々爺然としたキノコのフォルムは、傘のある太めのキノコなのだけれど、その表面には老人のような顔があり、両手両足も生えていて、よちよちと体を左右に揺らしながらゆっくりと進んでいく。キノコ爺が羽織っているマントは、クッコのマントとそっくりな編み目の粗い草のマントだけれど、青々としたクッコのマントと違ってキノコ爺のマントは枯草の色をしていて、表面にはぽこぽこと小さなキノコが生えている。
「キノコ爺のマント、キノコたくさん生えてきたねぇ」
「ふぉふぉふぉ。フェアリーグラスはごちそうじゃでのう」
キノコ爺が着ているマントは、クッコが去年着ていたマントだ。クッコと共に森の空気をたくさん吸ったフェアリーグラスのマントは特別らしく、キノコ爺が一番欲しがるものだ。
作りたてのマントはきれいすぎて、キノコが生えてこないらしい。だからクッコは毎年新しいマントを作って、おふるをキノコ爺にプレゼントしている。
キノコの洞窟を奥に進むと、そこは様々なキノコがみっちみちに生えている、まさにキノコの楽園だった。
森でよく見るキノコは何倍も大きいサイズだし、キノコ爺がベッドや椅子の代わりにしているとても大きなキノコもある。壁や天井には赤や黄色の鮮やかなキノコが生えていて、お花畑のようににぎやかだ。あちこちに光るキノコも生えているから、暗い洞窟の中でもキノコの色も形も見える。
「今日もね、フェアリーグラスを籠にいっぱい持ってきたよ!」
「そうかい、そうかい、ありがとうよ」
クッコは背負い籠を下ろして、中にたっぷり詰め込んでいたフェアリーグラスを取り出す。この細長くて柔らかい草は、世界樹ミミルの周りに生えた下草だ。ミミルの周りには、クッコにとってはおいしいご飯になるけれど、ミミルの栄養を吸い取ってしまう草もたくさん生えてくる。そういう草は抜いたり植え替えたりしてミミルのそばから離すのだけれど、このフェアリーグラスだけは生えていてもいいらしい。
フェアリーグラスはサラサラとした柔らかい草で、上に寝そべると気持ちがいいし、クッコの樹魔法もよく聞いて、するする織られて布のようになる。フェアリーグラスで作ったマントは、雨や風からクッコを守ってくれるし、クッコの気配を森に紛れさせてくれるのだ。
それに、根っこから離れてマントにしても、ミミルのそばに置いておけば枯れずに青々している、とっても不思議な草なのだ。
刈りたてのフェアリーグラスではキノコは生えてこないけれど、キノコ爺にとってごちそうらしく、いつも籠いっぱいのキノコと交換してくれる。
「おや、今年のフェアリーグラスは出来がいいのう。そういや子豚っこ、ちょっと力が強くなったかの?」
「クッコ、わかんない。でもお鼻は溶けてなくなったんだよ!」
「花? わしに花は咲かんから、ようわからんが、今年のんはいい出来じゃ。ほれほれ、ぼさっとしとらんと、子豚っこもキノコを集めんか」
「ぷぅ。……クッコ、かわいくなったのに」
小さい声で鳴きながら、欲しいキノコを集めていくクッコ。
キノコ爺はキノコだからか、クッコの豚鼻がなくなってちょっぴり可愛くなったことは、全く気にならないらしい。
キノコ爺は、クッコが渡したフェアリーグラスを洞窟の隅に敷き詰めたあと、着ていたマントを脱いで上にかけた。
「今度こそ、お話しできるキノコが生えてくるといいね」
そういって、自分の着ていたマントを脱いでキノコ爺にかけてあげるクッコ。
「そうじゃのぅ」
キノコの洞窟に生えているのはキノコ爺が育てたキノコで、できも良いし、珍しいものがたくさんある。けれども、お話ができるキノコはキノコ爺だけなのだ。ハーピィたちはとてもおしゃべりだけれど、性格も会話もキノコ爺とはかみ合わない。ハーピィたちとお話したいとは思わないけれど、洞窟の外でハーピィたちが騒いでいると、キノコ爺はちょっぴり寂しい気持ちになる。キノコの魔物仲間が欲しいなと、キノコ爺は思っているのだ。
けれども、キノコ爺はすごく特別なキノコらしくて、簡単には増えることができない。フェアリーグラスのマントを着ていてやっと、小さなキノコが生えてくるくらいだ。
キノコ爺はようやく生えた子供キノコを、フェアリーグラスの寝床で育てているのだけれど、どれもこれも普通のキノコに育つばかりで、キノコ爺のような魔物キノコは一度も育ったためしがない。
「いつもすまんの、子豚っこ。ほれ、今日はこれも持っていくがいい」
「え? でもこれ、キノコ爺のキノコだよね?」
「それ以上は育たんよ。そいつはたぶん、凄いキノコじゃ。食べると賢くなるかもしれんぞ。何せわしから生えたんじゃからの!」
ふぉふぉふぉふぉふぉ。
キノコ爺は笑いながらも、あれも持っていけ、これも珍しいぞといろんなキノコをお勧めしてくれた。
クッコはおいしいキノコが欲しいのだけれど、すごい毒になるキノコだとか、笑っちゃったり寝ちゃったりするキノコだとかが、キノコ爺のお勧めらしくて籠の半分は食べられないキノコでいっぱいになってしまった。
「ぷぅ。おいしいキノコが欲しいのに……」
一番いらないのは、キノコ爺のキノコだろう。キノコの魔物とはいえ、知り合いから生えたキノコなんてあんまり食べたいものではない。
「なにか言ったかの?」
「ぷぅ、キノコありがとう。今度こそ、キノコ爺の仲間が生えてくるといいね」
「もう行くのかの?」
帰り支度を始めるクッコを、キノコ爺が寂しそうに引き留める。
「日が暮れる前に帰らないとね。アルルは鳥だから、夜は飛べなくなっちゃうんだよ」
「あの鳥は、鳥頭な上に鳥目じゃからのー」
「鳥さんだから、しかたないねぇ」
ふぉふぉふぉふぉ。ぷぷぷぷぷ。
何が楽しいのかはよくわからないけれど、声をだして笑い合った後、クッコはキノコ爺にさよならを言って、洞窟の入口へと戻っていった。
クッコのひみつ:「なんか紙を拾ったよ。“キノコ爺のキノコに反応した人、メッだよ!” だって、何だろう?」




