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子豚のクッコローゼと世界樹の家  作者: のの原兎太
附章.クッコローゼときのこ狩り
25/27

02.クッコ、アルルに蜂蜜玉をあげる

「アルル、自分の名前は忘れちゃだめだよ」


 クッコは頭上近くを飛ぶハーピィのアルルに言う。


「忘レナイヨー、ある、るるる、あるー、るる? ルルルルー!」


 早速(さっそく)怪しい感じになるアルル。


「アルル!」


「あるる!」


「ぷぅ、名前忘れちゃったら、呼んでも来てくれなくなっちゃうよ」


 こうして会話が成立する魔物は数が少ないのだ。それに、キノコの洞窟(どうくつ)に下りるには、アルルの助けが必要だ。


「ダイジョブーヨ? (サワ)ガシカッタラ、クルヨー」


駄目(だめ)なの! 名前がなくなると、もっとおバカになっちゃうんだから」


「ソウナノ?」


「そうなの! クッコ、アルルとお話しできなくなるの、やだよ」


 そうなのだ。名前があるから(かしこ)いのか、賢いから名前があるのかは分からないけれど、会話が成立する魔物はたいてい名前を持っている。しかも、群れで一番強くて賢い。けれど名前を忘れてしまったら、他の個体と見分けがつかない、話の出来ない魔物に戻ってしまう。


「あるるモ、くっこトオシャベリ、楽シイーヨ」


「クッコもだよ。名前、忘れないでね。アルル」


「あるる!」


 群れで一番賢くても、ハーピィのアルルは物忘れが(はげ)しい。頭に記憶が詰まっていると、重くて飛べなくなるのかもしれない。

 去年も同じ話をしたな、と思い出しながら、クッコは目的のキノコの洞窟に行くために、持ってきたお土産の袋から黄金色の粒を取り出した。


「ハチミツダマ!」


 クッコの取り出した黄金色の粒を見たアルルがひときわ大きな鳴き声を上げる。


「名前は忘れるのに、蜂蜜玉は覚えてるんだ……」


 クッコの名前<自分の名前<<越えられない壁<<蜂蜜玉。

 驚きの優先順位だ。


「ハチミツダマ! ハチミツダマ!」


 クッコの取り出したのは、飛び切り貴重な蜂蜜を丸めて固めた飴玉だ。

 森の蜂はクッコのお手々より大きくて凶暴だから、蜂蜜を分けてもらうのは大変なのだ。あたり一面に眠りの草を()きながら、蜂をしっかり眠らせないと襲われてしまう。眠りの草は群生していないから集めるのにも時間がかかるし、万一刺されてもいいように、クッコは全身に分厚く泥を塗りたくって、土人形みたいにならないといけない。だからお風呂がどろどろになってしまって、後片付けも大変なのだ。

 だから蜂蜜はとっても貴重で、クッコだって滅多(めった)に食べることができない。


「アルル、蜂蜜玉をあげるから、キノコの洞窟までクッコを下ろしてくれる?」


「ハチミツダマ!」


 アルルは蜂蜜玉をもらおうと、ぶわっさと飛び掛かってくるけれど、これも毎度のことなので、クッコはひらりと交わしてアルルの背中に飛び乗る。


「ハチミツダマァー」


「キノコの洞窟に下ろすのが先だよ」


「ハチミツダマァー、ハチミツダマァー」


 へんな鳴き声みたいに「ハチミツダマァー」と連呼するアルルは、首をこちらにかしげながら、クッコを乗せて断崖絶壁(だんがいぜっぺき)を降りていく。


「ハチミツダマァー」


「ぷうぅっ、ちゃんと前見て、落っこちちゃうよー」


 アルルがクッコ、ではなくクッコの手にある蜂蜜玉を思いっきり見るものだから、アルルの体は傾いて、クッコは落ちそうになってしまう。アルルの羽を(つか)んでいるけれど、何本か抜けてしまってとってもこわい。羽を抜かれたアルルはというと、羽を抜かれた痛みより、蜂蜜玉が気になるようだ。


「ツイタ、ツイタヨ、ハチミツダマァー」


「はい、どうぞ。ありがとうね、アルル。帰りも……」


「アマアアアァァァイ!!!」


 滝の横、断崖絶壁を少しだけ下ったところに開いた横穴が、キノコの洞窟だ。

 何とかキノコの洞窟に到着したクッコが、アルルのお口に蜂蜜玉を投げ込むと、アルルはクッコの話も聞かないでブワササッと渓谷を急降下した。

 蜂蜜玉の甘さに我を忘れるどころか飛ぶのを忘れて落下しているのだろう。


「アルル!?」


「アアアァブナアアァァイイイィ」


 ぐりんと、軌道(きどう)を立て直し急上昇するアルル。その後も甘いだの危ないだのと叫びながら、断崖絶壁の渓谷でアクロバット飛行を繰り返していた。


「……ぷぅ。蜂蜜玉、口から落とさなきゃいいけど。さて、今のうちにキノコを採ってしまおう」


 口の蜂蜜玉がなくなるまで、アルルの飛行乱舞は終わらない。

 うっかり最初にあげてしまうと、アルルが蜂蜜玉を食べ終わるまで待たなければいけないから、蜂蜜玉をあげるのは乗せてもらった後なのだ。


「今日は鳥めがそうぞうしいのぅ」


 アルルの奇声と滝の音が響く洞窟の奥から、しわがれ声が聞こえてくる。


「あ、キノコ(じい)! こんにちは、クッコだよ!」


 薄暗いキノコの洞窟の奥から現れたのは、クッコとよく似たフード付きマントを来た二足歩行するキノコだった。このキノコの魔物こそ、キノコの洞窟の主。その名は。


「おうおう。よく来たの。わしは、キノコノコノコ・ド・コノココノコ・キノコヘルシーノ・ンカロリーノじゃよー」


「ぷぅ、前となんか名前違うよ? キノコ爺でいいじゃない」


 毎回キノコから始まる長い名前を名乗りたがる、通称キノコ爺だった。



クッコのひみつ:毎年クッコは、キノコはあきらめて蜂蜜玉を食べようかすごく悩むよ。

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