23.クッコと二人の竜殺し
子豚のクッコローゼはプレゼントをもらった。
病気が治った子供たちと、その親たちからの感謝のプレゼントだ。
ガウルードから話を聞いてクッコに必要そうな物を、リカルドの奥さんが選んでくれたのだそうだ。
国で一番気が利いて、国で一番賢くて、国で一番美人の奥さんだとリカルドは自慢していて、それを見たガウルードは「国で一番凶暴だけどな」とぼそりとつぶやいていた。
クッコのもらったプレゼントは、国で一番素敵なものだとクッコは思った。
クッコにぴったりなたくさんの洋服に、ふわふわのタオル。色とりどりの布地に針と糸。
金属のお鍋や切れ味のいいナイフやハサミ、魚を釣る針もあった。
金属の製品はゴブリンが持っていたナイフくらいしかなかったから、大助かりだ。
珍しい食べ物もいっぱいだ。甘いお菓子にいい匂いのするお茶。料理をおいしくするための調味料もたくさんあった。
一番びっくりしたのは、麦を粉に引く臼だ。
「この穴から麦を入れて回すと、ほれ、粉になるんだ。叩いてつぶすよりずいぶん楽だろう? これは絶対に外せないって言っておいたんだ」
そうガウルードは笑っていて、確かにものすごく便利だなと思ったけれど、運んできた護衛の人はとっても重たそうだった。
ガウルードの選んだ臼は便利だけれど、それ以外の物はどれもステキでクッコは胸がドキドキとした。
「クッコ、うれしい! 素敵なものがこんなにいっぱい!」
クッコは大喜びしたけれど、リカルドとガウルードは、「クッコのくれた蓮の実の贈り物の方が、ずっと素敵なものなんだよ」と言っていた。
その夜は、湖の近くのパン焼き竈の周辺でパーティーをした。
採れたばかりのおイモと、ガウルードが捕まえてきた鹿の肉、リカルドたちが持って来た調味料を使って3人の護衛の人がご馳走を作ってくれたのだ。
クッコは完全にお客さんで、できた料理を食べるだけだ。
しかも、ガウルードとリカルドがいない間に、護衛の人から竜殺しの英雄の話を聞かせてもらった。
なんと悪い竜をやっつけたのはリカルドとガウルード、そして二人の仲間たちなのだそうだ。
竜殺しのパーティーを率いていたのがリカルドで、竜に止めもさしたから、竜殺しの英雄と言えばリカルドの事らしい。
「すごい、すごい! お話聞きたい!」
「国じゃ知らない者はいない話です。竜殺しの英雄リカルドさまと、不死身の狂剣使いガウルードさま!」
「やめろ」
「クッコ、子供はもう、寝る時間だぞ」
クッコは続きを聞きたかったけれど、丁度リカルドとガウルードが戻ってきて、会はお開きになってしまった。
「クッコ、竜殺しの英雄のお話聞きたい!」
クッコはわがままを言ってみたけれど、ガウルードに抱っこされ背中をぽんぽんされるうちにぐっすと眠りの世界に落ちてしまった。
ガウルードのお話は、「むかーしむかーし、ある村に、そりゃーもーひどい金髪の悪ガキがいてなー」のところまでしか覚えていない。ものすごーく、残念だ。
楽しい時間はあっという間で、次の日にはガウルードたちは帰ってしまった。リカルドのお仕事はとても忙しくて、ゆっくりしていけないそうなのだ。
「そんな顔すんなよ、クッコ。雪が降る前にもう一度来るからな」
「その時は、竜殺しの英雄のお話してくれる? クッコ、寝ちゃって覚えてないの」
「あぁ、英雄の話しだけなら、何回でもしてやるよ」
寂しがるクッコに、ガウルードはニヤリと笑ってそう言うと、リカルドたちと帰っていった。
クッコはガウルードたちが見えなくなるまでずっとずっと手を振った。
いっぱいいっぱい手を振って、ガウルードたちの影が見えなくなってから、クッコはふと気が付いた。
「竜殺しの英雄って、ガウの国の王様になったんじゃなかったっけ?」
だとしたら、キラキラおじさんリカルドは、ガウルードたちの国の王さまではないのか。
王さまというのは、たしかとっても偉い人だけれど、お城の中から出てこないんじゃなかったっけ?
「ミミルー、ミミル、教えてー」
蓮の上をぴょいこらと走って、石化した世界樹の住み家に駆け込むクッコ。
世界には、知らないことがいっぱいだ。新しくできたお友達のことをもっと知りたい。素敵なプレゼントをくれた人たちのことを、クッコはもっと知りたくなった。
きらきらと真ん丸お眼目を輝かせるクッコの質問に、ミミルは梢を揺らして答えてくれた。
これにて1章終了です。読んでいただきありがとうございました。m(_ _)m
2章以降は未定ですが、『ほのぼの欠乏症』が発症したら、更新したいと思います。




