22.クッコとリカルド
子豚のクッコローゼは違いが分かる。
具体的には人間の違いだ。
角兎も森狼も、オークだって個体の見分けがつかないけれど、人間の見分けはちゃんとつく。
上質を知っているのかいないのか。
知っているなら、ガウルードは上質な人間なのかもしれない。
「元気にしてたか、クッコ。お、その顔どうしたんだ? 可愛くなってるじゃねーか」
久しぶりに会ったガウルードは、変わらない様子でクッコの頭をなでてくれた。
「クッコは元気だよ! お鼻はね、クッコが人間らしくなったから、お鼻も人間らしくなったんだって!
ガウは元気? 病気の子供たちは元気になったの?」
「おう! クッコのおかげで、国中の子供たちが元気になったぞ。みーんなクッコに感謝してるんだ」
「そうだよ、薔薇苺のお嬢さん。今日はみんなを代表してお礼を言いに来たんだよ」
ガウルードはでっかいから、陰に隠れて見えなかったけれど、ガウルードの後ろから金色の髪のおじさんが顔を出した。
年はガウルードと同じくらいだろうか。クッコも金髪だけれど、おじさんの金髪はもっとキラキラしていて、大人なのにお眼目もキラキラしている。着ている服も、つやつやでピカピカだ。
オークのように太っちょではないし、ガウルードみたいにゴリゴリ大きくないけれど、このおじさんもなんだか強そうだから、エルフではなく人間だろう。
ガウルードの知り合いだろうか。
「だあれ?」
よく見ると、少しはなれた場所にはたくさんの荷物を背負った人間が3人もいる。
こんなにたくさんの人間を見るのは初めてだ。
クッコはどうしたらいいか分からなくなって、ガウルードの陰に隠れてしまった。
「急に大勢で押しかけて、びっくりさせてしまったね。
はじめまして、世界樹の守り人クッコローゼ。
私はリカルドというんだ。ガウルードの友人だよ。」
クッコの様子にキラキラのおじさんは、クッコと目線が合うようにおイモの畑にしゃがんでクッコに握手を求めてきた。
「は、はじめまして。クッコは、クッコローゼといいます」
クッコはガウルードの陰からしどろもどろに挨拶をしたあと、リカルドに手を伸ばそうとして自分の手が泥だらけなのに気が付いた。
「あっ、クッコの手、泥だらけ……」
慌てて服でごしごしと拭くけれど、クッコの手はあんまりきれいになってくれない。
こんな森の中なのに、上から下までキラキラしたおじさんを汚してしまいそうで、クッコは手を下ろしてうつむいてしまう。
「大丈夫だよ、可憐なお嬢さん。ガウルードに聞いていた通り、優しくて愛らしい子だね。
君はこんなに幼いのに、この手で食べ物を得て世界樹を守ってきたんだね。それもたった一人で。
そして、子供たちを病から救ってくれた。君の手はとてもきれいで優しい手だよ」
リカルドはクッコの手を取って両手で包み込むように握ると、クッコの目を見てそう言ってくれたから、クッコはどうしたらいいか分からなくなって、リカルドとガウルードを交互に見ながら「ぷぅ」と鳴いた。
「今日はな、皆からのお礼を持って来たんだ。一人で持って来るには量が多いし、何よりここに来るのはさすがの俺でも骨が折れる。どうしようかと思っていたら、話を聞きつけたコイツが一緒に来るって言いだしてな」
困った様子のクッコにガウルードが説明をしてくれる。
「当然だろう? 子供たちを救ってくれた守り人さまだぞ。私が来なくてどうするんだ」
「いや、でもお前、立場がさ。この森、危険なの知ってんだろ?」
「大丈夫だ。護衛を3人も連れてきたんだ」
「荷物持ちに使ってんじゃねーか」
「はっはっは。ガウルードは図体の割に細かいな! 安心しろ、彼ら3人より私の方が強い。知っているだろう」
リカルドとガウルードは本当に仲がいいらしい。
とても気さくな様子で話をしている。
「あの、クッコとミミルのおうちに来ますか?」
ガウルードの友達ならリカルドもいい人間だろう。
住み家の中なら水も食べ物もたくさんあるし、何よりも安全だ。それに、お客さまはおもてなしするものだとミミルに習った覚えがある。クッコの住み家には気の利いたものはないけれど、採れたてホクホクのおイモは喜んでくれるだろうか。
そう思ったクッコはリカルドに家に来ないかと誘ってみた。
「ありがとう、クッコちゃん。でもね、君たちのおうちは世界樹の聖域だ。人間を招き入れてはいけない場所なんだよ。だから、世界樹ミミルが入れていいと言った人間以外は決して入れてはいけないよ。
クッコちゃんは世界樹ミミルの守り人なんだろう? これは、世界樹を守るためにも必要なことだ。
悪い人間ほど優しい顔をするものだから、気を付けないといけないんだ。とても大事なことだよ。約束してくれるかい?」
リカルドは真剣な顔でクッコに言う。真剣な約束の方法を、クッコは一つ知っている。
「約束……。針千本?」
「よく知っているね。それくらい、大切な約束だ」
「……クッコ、分かった。約束する。リカルドも、クッコとミミルに酷い事しないって約束してくれる?」
針千本飲むのは怖いけれど、クッコはミミルの守り人だから、ミミルを守るために必要ならば約束しないといけないだろう。
意を決したクッコは、リカルドと約束した。
でもちょっぴり怖いから、リカルドにもクッコとミミルを守って欲しい。
「もちろんだ。私は君と友達になろう。私は友を裏切らない。君たちを守ると誓うよ。とりあえずは、ガウルードを定期的に来させるから、困ったことがあったら何でも相談するといい」
「おおぉい、リカルド。もとよりそのつもりだったけどな。それ、今聞いたぞ!?」
「あぁ。今決めたからな! 本当は私が来たいくらいだ」
「それはやめてくれ」
「リカルドはクッコのお友達になってくれるの? ガウは、また遊びに来てくれるの?」
なんて素敵なんだろう。クッコにお友達ができた。
ミミルは友達ではないし、ガウルードのことは、ナイショだけれどお父さんみたいだと思っている。だから、クッコにとっては初めてのお友達だ。
それに、大好きなガウルードがこれからも来てくれるなんて。
「おう。クッコには竜殺しの英雄の話もしてやらないといけないしな!」
「ほんと!? クッコ、聞きたい!」
「おおぉい、ガウルード。それは別の日にしてくれ。それとその話、お前にとっても自爆だからな」
「ぷぅ?」
ガウルードとリカルドのお話は、ところどころよく分からない。
これが大人同士のお話なのだろうか。
首を傾げたクッコを見て、二人の大人は笑っていたから、クッコもつられて一緒に笑った。
クッコのヒミツ:クッコは「針千本」なんて言ってるけれど、10までしか数は数えられないよ。




